デュアルセルシステム(DCS)搭載の Agilent 9500 ICP-MS
はじめに
Agilent 9500 は、4 世代にわたるコリジョンリアクションセル(CRC)の開発と Agilent 8800 および 8900ICP-QQQ システムの 2 世代にわたる ICP-QQQ(または ICP-MS/MS)で培われた専門知識を基盤としています。
9500 は 8900 の後継システムではありません。高速分析と ICP-QQQ の性能は欲しいものの、必ずしもすべてのリアクションガスモードを必要としないラボに適した機能を提供するように発展した新たな装置です。ヘリウム用と空気(純粋な O2 も使用可能)用の 2 つのセルガスマスフローコントローラを標準搭載し、この構成で大半のアプリケーションに対応できます。9500 により、アルゴンガスとヘリウムガスの供給のみを必要とするシングル四重極 ICP-MS(SQ-ICP-MS)(図 1)を直接置き換えることができます。
個別に制御される 2 つのイオンガイドを搭載した新設計の CRC により、ヘリウムコリジョンモードが大幅に改善されています。これらのイオンガイドにより、DCS は優れた感度と干渉抑制機能を提供し、その性能は ORS4をも凌ぎます。この新しい動作モードをアドバンスドヘリウムモード(AHM)と言います。
エアリアクションモード(エアセル)での動作時には、内蔵フィルタを通して周囲空気が取り込まれます。ろ過された空気は DCS に送られ、そこでターゲット干渉成分との酸素反応が実行されます。
多くのラボは、この構成で十分でしょう。ただし、研究や高純度化学薬品の試験など、非常に高度なアプリケーション向けのオプションもあります。このオプションでは、DCS に、通常は H2 用とアンモニア(He に 10 % 混合)用の 2 つのガスコントローラが追加されます。これらのコントローラは購入時に指定できるほか、アップグレードとしていつでも追加できます。ガスは、サポートされている任意のガスに交換できます*。
* 現在推奨されている代替ガスについては、アジレントの製品スペシャリストにご確認ください。
アドバンスドヘリウムモード
AHM は、低質量元素(Li、Be、B など)用のノーガスモードの感度、多くの干渉成分に有効なヘリウムによる運動エネルギー弁別(KED)、および強度の多原子干渉成分(ArAr、ArO、ArCl、NaAr など)を対象とした衝突誘起解離(CID)を単一の高度なヘリウムモードで実現するものです。DCS では、セル内での KED に加え、外部バリアによってセル由来の不要な種がすべて排除されるため、干渉除去性能がさらに向上します。AHM での動作時には、KED および CID メカニズムが継続的に使用されます。
ほとんどのサンプルでは、モードやガス流量を変更しなくても、すべての元素を 1 回で取り込むことができます。AHM により、メソッド開発が簡略化されるうえ、分析スピードも向上します。ICP-QQQ はより高感度であるため、SQ-ICP-MS より短い積分時間で現在と同等またはそれを超える DL と BEC が得られ、スループットがさらに高まります。
DCS における AHM の仕組み
DCS は、それぞれ個別に制御可能な 2 セットのロッドで構成されています。これらのロッドはフロントイオンガイドとリアイオンガイド(それぞれフロントセルおよびリアセルと呼ばれる)として配列されています。「ロック」構成での動作時には、両方のイオンガイドが同じ電気特性を持ち、1 つのイオンガイドとして機能します。この動作モードは、ノーガスモードまたは AHM 以外のヘリウムモードと、リアクションモードに使用されます。図 2 に、フロントセルとリアセルで構成される DCS の設計を示します。
AHM での動作時には、フロントセルとリアセルが異なるパラメータで動作します。フロントセルは、イオンを加速させて CID を誘発し(高エネルギーヘリウムモードと同様)、同時に KED も実行します。一方、リアセルは最初の KED バリア(正電位を持つ)として機能し、その後イオンを「熱化」します。熱化とは、イオンを低速化し、イオン間のエネルギー差を大幅に縮めるプロセスです。これにより、収束効率と感度を高め、フロントセルで高エネルギー衝突が起こっても良好なアバンダンス感度を確保することができます。リアセルの後に、検出器前の Q2 に対して電位のバイアス電圧をかけることによって最終的な KED バリアが適用されます(図 3)。
低質量イオン(23 u 未満)の測定時には、そのイオンに対するイオン透過効率と感度を大幅に高めるために、セルの動作モードがすばやく切り替わります。その際、ヘリウムガスの流量は変わりません。AHM での低質量元素に対する感度は、ヘリウムによる KED 動作時の 20 倍です。図 4 を参照してください。これにより、最適化された 1 回の取り込みで完全な質量スペクトルを測定できます。オペレータは分析成分を指定しさえすれば、動作モードを選択する必要がなく、ソフトウェアと 9500 の連携によって最短時間で最適な取り込みが行われます。
DCS におけるエアセルモードの仕組み
CRC に空気を取り込む際は、酸素反応のみが起こるように慎重かつ適切に反応を制御する必要があります。ラボ内の空気に含まれる水蒸気やその他の反応性汚染物質(溶媒の蒸気など)が予想外の副反応を引き起こし、この機能自体が使い物にならなくなるからです。セルガスとして周囲空気を使用する場合のために、9500 にはアジレント独自のエアセル技術が搭載されており、内蔵エアフィルタ(図 5)のモラキュラシーブと活性炭によって不要な反応種が空気から除去されます。これにより、窒素と酸素のみがセル内の主要な種となります(微量のアルゴンやその他の希ガスも含まれますが、その影響は無視できる程度です)。
CRC 内では窒素は基本的に不活性のため、エアセルモードでの主要プロセスは酸素反応になります。酸素反応モードの利点は周知のとおりであり1、He による KED モードでは対処できない厄介な干渉成分の解決に役立ちます。表 1 に、酸素反応によって低減できる、主な元素に対する潜在的な干渉成分を示します。これらの干渉成分はすべてのサンプルに存在するわけではないため、多くの場合、AHM のみで溶液の測定を行えます。
表 1.干渉除去において、エアセルモード(O2)によってヘリウムでの KED を超える利点が得られる可能性のある干渉成分
エアセルモードでの動作時には、自動的に MS/MS 動作に切り替わり、フロントセルガイドとリアセルガイドが単一の大型イオンガイドとして機能するようにロックされます。中央のイオンガイドは Q1 にもとづいて電圧と周波数をスキャンし、選択されたイオンに最適なイオン透過を生成します。
セル内では酸素が反応種であるため、干渉除去プロセスにおいて酸素反応が支配的となります。不活性な窒素は「バッファ」ガスとして機能し、イオンビームを熱化し、セル内でのイオンの滞留時間を延ばします。何らかの KED プロセスが生じることもあります。特定の干渉成分にはこのプロセスが望ましく、純粋な酸素よりもプロダクトイオンの形成に大きく寄与する場合もありますが、干渉除去性能全体から見ればその違いはわずかです。このように、エアセルモードでも、多くのマトリックスに対して同等の DL と BEC が得られます。
エアセルモードにより、純粋な酸素の供給が可能かどうかにかかわらず、あらゆるラボが利便性の高い酸素反応を利用できるようになります。
DCS でエアセルモードの感度が維持される仕組み
エアセルモードでの動作時には、ガスのほとんどを窒素(78 %)が占めます。窒素は分析対象イオンの妨げとなり、衝突損失によって感度を低下させる(つまり、N2 分子が分析対象イオンと衝突し、信号損失の原因になる)可能性があります。DCS は、フロントイオンガイドとリアイオンガイドのそれぞれに軸方向の加速機能を備えています(図 6)。これにより「漏斗」形状が作られ、セルの各部分の入口と出口の間に電位勾配が生成されます。この設計を最適化されたイオンガイドのスキャンと組み合わせることで、最大限のイオン透過と最小限の感度損失が確保されます。
DCS、AHM、エアセルが有効なアプリケーション
9500 と DCS はルーチン分析に非常に適しています。また、AHM は、ほとんどのアプリケーションに対応できる単一の高速動作モードとして設計されています。高濃度の希土類金属(REE)や Mo または W が含まれるサンプルには、エアセルモードを使用できます。DCS、AHM、およびエアセルを搭載した 9500 により、大きな柔軟性が容易に手に入ります。
9500 の AHM およびエアセル性能の活用例は、以下のアプリケーションノードでご確認いただけます。
高度なアプリケーション(追加のセルガスコントローラなど)については、以下をご覧ください。
参考文献:
- Handbook of ICP-QQQ Applications using the Agilent 8800 and 8900(Agilent 8800 および 8900 を使用した ICP-QQQ アプリケーションハンドブック)
DE-015978