リチウムイオン充電式電池(LIB)は、ポータブル電子機器や電気自動車(EV)で広く使用されているために、需要が急速に拡大しています。再生可能発電に関連して電池貯蔵のニーズも高まっています。LIB は現在、コスト、容量、充電速度、および寿命の面で最高の組み合わせを提供します。図 1 は、LIB の 4 つの主要なコンポーネント、すなわち負極、正極、電解質、セパレータを示しています。
LIB の充電中、リチウムイオンが正極から放出され、電解質を通って移動し、負極に蓄えられます。放電中は、逆のプロセスが発生して、リチウムイオンは負極から正極に移動します。
LIB コンポーネントの材料
LIB の性能、寿命、および安全性は、負極、正極、電解質の電気化学特性と組成の影響を受けます。したがって、これらのコンポーネントとその原料に含まれる元素汚染物質のモニタリングは、製造品質管理(QC)や新しい電池材料の開発支援においてきわめて重要です。
- 電解質: LIB 電解質では、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、および過塩素酸リチウム(LiClO4)など、さまざまな Li 塩が使用されます。また、性能を向上させるために、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSl)などの塩類も使用されます。
- 正極: 正極活物質(CAM)は通常、酸化コバルト(LCO)、ニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、またはニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM または NMC)などの遷移金属酸化物と結合したリチウムです。新たな正極材料(コバルトべース以外)として、リン酸鉄リチウム(LFP)およびリチウムマンガン酸化物(LMO)などがあります。
- 負極: LIB の開発当初から、すべての LIB の負極材料としてほぼ黒鉛のみが使用されており、リチウム化黒鉛化合物 LiC6 内にリチウムイオンが蓄えられます。
LIB 材料の不純物分析用の標準メソッド
LIB の原料供給者および電池製造者には、LIB の原料やコンポーネント中の Fe、Ca、Mg、Cu、Zn、Si、Al、Na などの一連の元素を測定するための正確な分析メソッドが必要です。中国では現在、標準メソッド YS/T 928.4、GB/T 24533-2019、GB/T 26300-202、およびGB/T 26008-2020 によって、汚染元素を測定する推奨技法として ICP-OES が指定されています。ただし、中国の RoHS 標準メソッド GB/T 39560.5 は、電気・電子機器中の Cd、Hg、Pb などの有害な重金属の推奨分析技法の 1 つとして、ICP-MS を指定しています。新しい電池材料や先進の電池材料を評価するための低濃度汚染物質の測定など、特定のアプリケーションにおいては、ICP-OES では十分に低い検出限界を達成できません。ICP-MS 技術は、感度が高くスペクトルがわかりやすいため、このような目的でますます利用されています。
この記事では、Agilent ICP-MS および ICP-QQQ を用いた、LIB 製造でのアプリケーションの概要について説明します。そして、製品の性能と安全性に影響を与える汚染物質を同定するために、微量元素のモニタリングが重要であることを明確に示します。
電解質:ICP-MS による微量汚染物質分析
Agilent 7900 ICP-MS の多元素分析機能は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiFSI を含む電解質に使用されるリチウム塩中の 68 元素の測定により実証されました。Agilent ICP-MS システムには、ヘリウム(He)モードと運動エネルギー弁別(KED)を使用して多原子イオンを効果的に除去するために最適化された、ORS4 コリジョンリアクションセルが搭載されています。そのため、複雑で多様なサンプルマトリックス中の複数の多原子イオン干渉を除去するために、ほとんどの元素に対して、単一セットの一貫性のある He-KED モード条件を使用しました。分析困難な元素の Si、Ca、Fe での強いバックグラウンド干渉には、オプションの水素(H2)セルガスラインがさらに効果的な干渉制御を提供しました(図 2 参照)。1



正極:正極材料の不純物のスクリーニング
ロバストプラズマ条件(CeO/Ce 比 < 1 %)、UHMI、He-KED モードの組み合わせが、スペクトル干渉の効果的な制御を提供し、Agilent ICP-MS システムによる、正極材料中の微量濃度の汚染物質の完全な特性解析を可能にします。2この技術により、Agilent IntelliQuant ソフトウェアを使用したサンプルスクリーニングも可能になります。Quick Scan 取り込みを定量メソッドの一部として選択した場合、1 サンプルあたりの取り込み時間を 2 秒延ばすだけで、すべてのサンプルの全質量データが得られます。図 3 に示す NCM 正極材料で例証されるように、Quick Scan データから、定量メソッドに含まれていない汚染物質をすべて同定できます。元素固有の標準を使用せずに、IntelliQuant で Quick Scan データが処理され、半定量濃度が提供されます。
負極:グラファイト材料中の低濃度汚染物質の測定
複雑な LIB 関連サンプルの分析において、Agilent ICP-MS はどれくらい堅牢でしょうか?この研究では、Agilent 7850 ICP-MS で単一セットの条件を用いて、2 種類のグラファイトベースの負極材料の王水分解物中の 45 元素を測定しました。3 サンプル分解物には高濃度の酸が含まれており、便宜上の総溶解固形分(TDS)は 2.5 % でした。
メソッドの堅牢性を試験するために、分解されたサンプル(2 種類のグラファイトサンプルのそれぞれについて 6 種類の分解物)、メソッドブランク、QC チェック、添加回収用溶液からなる分析シーケンスを、10 時間にわたって繰り返し行いました。内部標準(ISTD)として、Tb、Lu、Bi を使用しました。
図 4 に示すように、内部標準の回収率は、赤い点線で示される ±20 % の範囲内にあり、分析全体を通して安定していました。一貫して安定した内部標準回収率は、UHMI エアロゾル希釈を使用した 7850 ICP-MS のロバストプラズマが、長期にわたって優れた安定性を維持できることを示しています。またドリフトがないことから、シーケンス中にインタフェースにマトリックスの堆積があまり発生しなかったことが確認できます。結果は、グラファイト負極材料の簡単なルーチン元素分析において、7850 ICP-MS が、堅牢性と高いマトリックス耐性を備えていることを実証しています。
LIB 原料の純度:さらに優れた DL を実現するトリプル四重極 ICP-MS
シングル四重極 ICP-MS システムは、LIB 製造に対する現行の業界要件に適合するために必要な優れた検出下限を提供します。高度な電池の製造と、新しい材料やプロセスの研究において、Agilent 8900 トリプル四重極 ICP-MS(ICP-QQQ)は、さらに優れた検出下限を提供します。ICP-QQQ は、マトリックスベースのスペクトル干渉の影響を受ける分析対象物に対して特に有用であり、単一マルチチューンメソッドを用いた広範な元素の分析を可能にします。この機能は、炭酸リチウム中の 64 元素の分析と、材料の純度の算出により実証されています。純度は、メーカーやサプライヤが自社製品の等級付けに使用する指標です。4
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