クロム(Cr)は複数の酸化状態で存在します。Cr(III) は必須微量栄養素として作用しますが、Cr(VI) には重大な毒性リスクがあります。1、2 現在の規制ではこれらのクロム種を厳密に区別することが必須となっており、有効なリスク評価の方法として Cr の総量測定は不適切です。Cr(III) と Cr(VI) の測定にはさまざまなメソッドがありますが、IC-ICP-MS は感度と再現性が高いため、新しい分析手法として高く評価されています。

この研究では、キレート化、アニオン交換、クロマトグラフィー、質量検出を使用する ISO 24384 に準拠したスペシエーションプロセスについて説明します。3 ISO のメソッドは廃水、表流水、地下水、飲料水にそれぞれ 0.20~500 μg/L の Cr 質量で溶解している Cr(III) と Cr(VI) の測定に適用できます。Cr がこれより高い濃度で含まれるサンプルは、適切なサンプル希釈手順に従うことで分析できます。

実験方法

サンプルおよび標準液の調製

ISO 24384 に従ってサンプル(水道水)と標準(0.5~20 µg/L)を調製しました。3 まず Cr(III) のキレート化のために、サンプルと標準液を 0.025 mol/L の EDTA 溶液で前処理しました。2 mL の EDTA を 20 mL のフラスコに移し、サンプルまたはそれぞれの量の標準原液(1000 µg/L)と超純水(UPW)を印の位置まで充填しました。硝酸または水酸化ナトリウムで、溶液の pH を 6.9 ± 0.1 に調整しました。その後、サンプルをスクリューキャップ付きのポリプロピレンチューブに移し、サーモスタット付きバス(LAUDA、ECO、RE 420)で、70 ± 3 ℃で 60 分間加熱しました。

装置構成

Cr(III) と Cr(VI) の分析には、Metrohm 940 プロフェッショナル IC Vario と Agilent 7850 ICP-MS の組み合わせを使用しました(図 1)。サンプルと標準液の自動送液には、Metrohm 889 IC サンプルセンタ(オートサンプラ)を使用しました。この装置は、その他の微量元素(ヒ素、セレン、水銀など)のスペシエーションにも適しています。

Modern laboratory setup featuring advanced analytical equipment, including an ion chromatograph, autosampler, ICP-MS, and computer monitor on a counter.

図 1.Metrohm 940 プロフェッショナル IC Flex と 889 IC サンプルセンタ、および Agilent 7850 ICP-MS の組み合わせ。ICP-MS MassHunter 用 Metrohm IC ドライバでアップグレードした Agilent ICP-MS MassHunter ですべて制御し、Cr(III) and Cr(VI) の測定に適した完全統合型 IC-ICP-MS を実現しています。

IC システムは、ICP-MS MassHunter 用 Metrohm IC ドライバ 4 バージョン 1.0 でアップグレードした Agilent ICP-MS MassHunter ソフトウェアから直接制御しました(図 2)。これにより、完全統合型のサンプル分析、データ処理、レポート作成が可能になります。ICP-MS MassHunter ソフトウェアダッシュボードのスクリーンショットには、IC 関連のメソッドパラメータとステータス情報の概要が表示されています。データ解析には、オプションの Agilent ICP-MS クロマト解析ソフトウェアも使用しました。4

Dashboard interface of IC-ICP-MS MassHunter software showing instrument status. Includes graphics of mainframe, mechanistic parts, and sample introduction. Contains icons for plasma, ion lenses, and detectors, with emphasis on maintenance feedback and temperature details. Blue and white color scheme.

図 2.Agilent ICP-MS MassHunter ソフトウェア(バージョン 5.3 以降)で、ICP-MS MassHunter 用 Metrohm IC ドライバを使用して Metrohm IC を統合して制御

クロマトグラフィーと ICP-MS の測定条件

硝酸アンモニウムベースの溶出液で、イソクラティック条件下で Metrosep Carb 2 - 100/4.0 カラムを使用してクロマトグラフィー分離を実行しました(表 2)。5 7850 ICP-MS は時間分析(TRA)モードで動作させ、コリジョンガスとしてヘリウムを使用しました。52Cr and 53Cr の同位体のモニタリングに使用した装置の操作パラメータを表 1 と表 2 に示します。

表 1 .クロマトグラフィーパラメータ

Table showing ion chromatography details of column, eluent, flow rate, column temperature, and injection volume.

表 2 .ICP-MS システムのパラメータ

Table showing settings of ICP-MS for rf power, nebulizer flow, helium gas flow, and integration time.

結果と考察

分離と検出

イソクラティック条件下では、Cr(III) と Cr(VI) が 4 分未満で分離されました。2 種類の Cr の各検量線は、いずれも優れた直線性(R > 0.998)を示しました。図 3 のとおり、いずれの成分のクロマトグラムも高い感度を示しました。

Graph showing intensity (cps) vs. retention time (min) with peaks at 2.0 and 3.2 min for  Cr(III) and Cr(VI) at different concentrations. Color lines represent concentrations from 0.5 to 20 µg/L, displaying distinct peaks at each level..

図 3.IC-ICP-MS による Cr(III) および CR(VI) のスペシエーション。Metrosep Carb 2 カラムはイソクラティック条件で使用し、硝酸アンモニウム溶出液(150 mmol/L の硝酸、Sigma-Aldrich、puriss. p.a.、≥65 %)と 234 mmol/L のアンモニア溶液(ACS 試薬、28~30 %、Sigma-Aldrich、pH 9±0.1)の流量は 1.0 mL/min に設定しました。サンプルと標準液の注入量は 250 µL(フルループ)です。

回収率と精度

メソッドの精度を評価するため、5 μg/L の混合標準液を使用して水道水を添加しました。Cr(III) と Cr(VI) で、それぞれ 99.7 % と 114.0 % の添加回収率を達成しました。これにより、飲料水に含まれる有毒な Cr(VI) の高速測定に対するメソッドの堅牢性と有効性を確認できました。

クロムスペシエーション用の信頼性が高く効率的なメソッド

この研究により、Agilent ICP-MS MassHunter 用 Metrohm IC ドライバで Metrohm IC と Agilent 7850 ICP-MS を統合すれば、クロムスペシエーション用の信頼性が高く効率的なメソッドとして使用できることが証明されました。この統合型ソフトウェアソリューションにより、操作を簡素化し、データインテグリティを確保し、分析の安全性を向上させることができます。このアプローチは国際規格に準拠しているため、規制遵守と環境モニタリングに最適です。

DE-007669