ガスクロマトグラフィー/
質量分析の基礎

FAQ

電子イオン化と化学イオン化の違いは何ですか?

電子イオン化(EI)は、イオン化エネルギーが比較的高い(70 eV)、高真空状態でイオン化を行います。スペクトルは、広範なフラグメンテーションと低い強度の分子イオンアバンダンスが特徴であるため、「ハードな」イオン化手法と言われることもあります。EI の利点は、再現性のあるスペクトルデータ、および広範なスペクトルライブラリが利用できることです。例えば、NIST EI ライブラリには 300,000 を超える固有の化合物が収録されており、化合物の推定で EI が優れており、広く用いられています。

化学イオン化(CI)では、メタンやアンモニアのような試薬ガスを、GC/MS イオン源に追加します。試薬ガス分子は CI イオン源でイオン化され、イオン源内の成分分子と反応するイオンを形成します。イオン化エネルギーの低い CI では EI よりもイオンフラグメンテーションが少ないため、「ソフトな」イオン化手法と呼ばれています。また、一般的に(必ずしもそうであるとは限りませんが)、ポジティブ CI では M+1、ネガティブ CI では M-1 として、分子イオンを保持します。さらに CI は、M+C2H5(C2H5 = 29)や M+C3H5(C3H5 = 41)のような付加体を生成する場合もあります。CI の代替となるのは低エネルギー EI であり、Agilent 7250 GC/Q-TOF で使用できます。この機能により、化合物推定のための分子イオンの生成がより簡単になります。

現在稼働しているGC /MSシステムのほとんどがEI で測定されています。CI は一般的ではありませんが、 アプリケーションによってはEI では得られない優れた結果が得られることがあります。

ガスクロマトグラフィー/質量分析機器では、他にどのようなイオン源が使用できますか?

アジレントでは、さまざまなアプリケーションにおいて最大パフォーマンスを発揮するために、複数のイオン源およびレンズを提供しています。

  • アジレントのHydroInert イオン源では、水素キャリアガスの条件において、クロマトグラフィー効率とスペクトル忠実度を向上させています。
  • アジレントの特許技術であるAgilent JetCleanセルフクリーニングイオン源は、アジレントのシングルおよびトリプル四重極 GC/MS システムで必要となるイオン源のクリーニングを大幅に削減することができます。活用例をご覧ください。

GC/MS と GC/MS/MS の違いは何ですか?

GC/MS/MS はGC/MSに比べて高い選択性が得られる操作モードです。GC/TQ でのマルチプルリアクションモニタリング(MRM)と同様に、2 つ以上のフラグメンテーションとフィルタリングステップが実行されます。最初の四重極でマスフィルタ(質量選択)が行われ、その後のコリジョンセルでさらにフラグメンテーションを行い、その後の 2 番目の四重極でマスフィルタが行われます。

GC/MS から収集されたスペクトルデータに対してどのようにライブラリで化合物推定をするのですか?

未知化合物で得られた質量スペクトルにバックグラウンドを差し引いて、データベース内の既知化合物のスペクトルライブラリと比較します。特定のアルゴリズムを使用して、新しいスペクトルとデータベーススペクトルの間の質量電荷比(m/z)および相対アバンダンスを照合し、一致スコアを作成します。一般的なスペクトルライブラリとしては、NIST、Wiley、Maurer/Pfleger/Weber などがあり、これらには数十万種類もの化学物質のスペクトルが収録されています。アジレントやユーザーが作成したスペクトルライブラリも使用できます。

この図は、分析スペクトル(上側)と反転ライブラリスペクトル(下側)を重ねて表示したものです。検索方法によって(検索インデックス – SI またはリバース検索インデックス – RSI)、一致スコアとイオン比が異なる場合があります。通常は、RSI を推奨します。

サンプル中の特定の成分を定量するにはどうすればよいですか?

最初に、いくつかの既知濃度で対象の成分を測定します。データシステムは、これらの濃度を各濃度においてレスポンスのアバンダンスに対してプロットし、検量線を作成します。その後、新しく得られたデータ内の成分のアバンダンスを元に検量線から定量値が得られます。

GC/MS のレスポンスと濃度の間には直線性がありますか?

シングルまたはトリプル四重極 GC/MS で測定された多くの化合物では、レスポンス曲線において直線の領域が存在します。検出限界に近づくにつれてレスポンスの直線性は低下します。また高濃度域では検出器が飽和することで直線性が低下します。一般的に、全領域間での直線範囲は 3~4 桁になりますが、化合物によってはさらに広い範囲が得られる場合もあります。

複数の同位体が含まれる元素は GC/MS 検出器にどのような影響を与えますか?

1 つの分子から 1 つのスペクトルが生成されます。質量数は同位体イオン( C12 や C13など)によって異なり、対応する分子量も異なります。MS アナライザはその違いを検出できます。

GC/MS は、同じ元素の異なる同位体から生成されたイオン間の違いを認識するのに十分な感度を備えています。多くの場合、特に GC/Q-TOF で測定されたデータでは、同位体の比率から異なる化合物を選択的に同定できます。

GC/Q-TOF は高い質量精度を実現しており、信頼性の高いデータが得られます。この例の外側の赤線は化合物の理論上の同位体レスポンス/同位体比を表しており、内側の黒線は計算したイオンと同位体比を表しています。図に示すように、計算したイオン強度は、理論上のイオン強度の 90 % 以内に収まっています。

GC/MS が適切に動作していることを確認するにはどうすればよいですか?

最初に機器のオートチューンを実行し、GC/MS システムのイオン源と四重極のパラメータを調整して、性能を最適化します。次にいくつかの既知サンプルを分析して、そのスペクトルを既知のスペクトルと比較します。チェックチューンを定期的に実行することで、期待される性能に対して調整できているかを確認できます。

GC/MS で優れた性能を維持するにはどうすればよいですか?

GC/MS のベストプラクティスを日々実施することで、機器の予定外のダウンタイムを大幅に低減できます。サンプル前処理とスクリーニングに関するヒントや、Agilent JetClean セルフクリーニングイオン源やバックフラッシュなど、GC/MS を常に最高の動作状態に維持する機能についてご覧ください。

質量分析は破壊分析ですか?

はい、サンプルがイオン化されるためです。ただ、通常は 1 µL 程度と必要になる量は少量です。最新の GC/MS 機器は、日常的に ppb レベルまでの低濃度での測定に使用されています。

高分解能 GC/MS とは何ですか?

高分解能 GC/MS とは、高分解能性能を備えた質量分析計と組み合わせた GC システムのことです。一例として、四重極飛行時間型検出器を備えた GC/Q-TOF があり、この機器ではフルスペクトル、高分解能、広いダイナミックレンジを持つ精密質量データ(HRAM)が得られます。

高分解能 GC/Q-TOF では、GC/MS による精密質量スクリーニングに加えて、MS/MS、Low Energy 電子イオン化法および化学イオン化法などによる、信頼性の高い化合物推定が可能です。

このデータは、ライブラリスペクトルに対する分析スペクトルのミラーイメージを示しています。分析スペクトルは、GC/Q-TOF から得られた小数点以下 4 桁の高分解能スペクトルです。ライブラリスペクトルは、NIST のユニットマススペクトルです。図に示すように、GC/Q-TOF で生成されたスペクトルは、NIST ライブラリのスペクトルとも高い信頼性スコアで一致しています。高分解能データには高分解能精密質量ライブラリを使用することを推奨しますが、NIST ライブラリのデータベースであっても高い信頼性で使用することもできます。