ガスクロマトグラフィー/
質量分析の基礎

同定、定量、適格性評価とは
分析目標に合わせた GC/MS システムの使用

ガスクロマトグラフィーシステムが同じでも、要求される選択性と感度のレベルに応じて、必要となる質量分析計が異なる場合があります。アジレントでは、3 種類の質量分析計モデルをご用意しています。

シングル四重極

シングル四重極 GC/MS(GC/MSD)

シングル四重極ガスクロマトグラフィー/質量分析は、ルーチンアプリケーション向けの信頼性の高い選択肢です。FID などの GC 検出器の代わりとしても優れています。さまざまなアプリケーションで広く使用されている GC/MSです。

ここでは、GC/MS で使用されている選択イオンモード(SIM)およびスキャンモードについて説明します。

シングル四重極マスアナライザの基本要素は、イオン源、集束レンズ、四重極、検出器、真空システムです。

選択イオンモード(SIM)

SIM モードでは、四重極マスフィルタを制御することにより、特定の m/z 比のイオンのみがイオン光学系を通過して検出器に到達します。SIM では、選択したイオンの高感度分析が可能になります。シングル四重極 GC/MS で最高レベルの感度が実現されるため、定量分析で多く使用されます。

スキャンモード

スキャンモードでは、四重極で透過させるイオンを迅速に変化させることで、さまざまな m/z のイオンを検出器に向けて順次通過させます。安定して高速に制御できる電子部品の開発により、GC/MS で使用できる全質量範囲をわずか数分の 1 秒で「スキャン」できます。つまり、クロマトグラフィーのピーク全体の、複数のデータポイントで、すべてのスペクトル情報を取得できます。

さらに、非常に多くの化合物をスキャンモードで測定できます。スキャンモードでは、クロマトグラムの各タイムポイントでイオンの全スペクトルが収集されるため、スペクトルライブラリとの比較による化合物の同定に最適です。また、未知化合物の同定も行うことができます。

トリプル四重極

トリプル四重極 GC/MS

トリプル四重極 GC/MS(GC/TQ または GC/QQQ)は、タンデム四重極ガスクロマトグラフィー/質量分析とも呼ばれており、ターゲットおよび微量分析の感度が優れています。最初の四重極(Q1)でイオンを選択して透過させ、そのイオンをコリジョンセルでフラグメント化してから、1 つのフラグメントイオンを 2 つ目の四重極(Q2)で単離する機能により高感度な測定が行えます。この手法は MS/MS と呼ばれており、対象のイオンを保持しながら、化学的ノイズを大幅に低減します。

多くの GC/TQ は、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)あるいは選択反応モニタリング(SRM:selected reaction monitoring)と呼ばれるMS/MS モードで使用されます。しかし、GC/TQ によってサンプルからより多くの情報を収集したり、メソッド開発をする目的などでフルスキャン、プリカーサおよびプロダクトイオンスキャン、混合モードなど、他のさまざまなモードでも使用されます。

最初の四重極(Q1)でコリジョンセルに送られる特定のイオンが選択されます。コリジョンセルでは、Q1 で選択されたイオンが中性分子のコリジョンガスと衝突してフラグメント化し、2 つ目の四重極でさらに選択され、検出器でシグナルとして検出されます。

MRM

MRM では、イオン源で生成されたイオン(プリカーサイオン)を最初の四重極でフィルタリングします。イオンは、最初の四重極(Q1)を通過した後(SIM 測定の場合と同様に)、コリジョンセルに入ります。コリジョンセルでイオンのエネルギーが印加され、ガス分子と衝突します。このプロセスは、衝突誘起解離(CID)と呼ばれます。この衝突により、プロダクトイオンと呼ばれる多数のイオンフラグメントが高い再現性で生成されます。

2 番目の四重極(Q2)でさらにプロダクトイオンをフィルターします。これによりターゲット化合物に対する選択性が高い MRM 測定が行えます。Q1 および Q2 で透過させるイオンの設定を MRM トランジションといいます。通常は、最もピーク強度の大きな MRM トランジションが定量分析で用いられ、それらは定量トランジションまたはターゲットトランジションと呼ばれます。さらに、化合物固有の MRM トランジション(クオリファイアトランジションと呼ばれます)を追加することで、MRM 測定における化合物検出の確実性を高めることができます。一般的には、1 つのターゲット化合物でクオンティファイアトランジションの他に、1~3 のクオリファイアトランジションが設定されます。

MRM メソッドの開発は、SIM メソッドやスキャンメソッドよりも手間がかかりますが、MassHunter Optimizer のようなソフトウェアツールを使用することで、Agilent GC/TQで自動化が容易に行えます。

この例では、測定対象のイオンは m/z 210 であり、ターゲット化合物は m/z 158 および m/z 191 です。

飛行時間型

飛行時間型高分解能質量分析(HRMS)

ガスクロマトグラフィー/四重極飛行時間型質量分析(GC/Q-TOF)は、高い質量精度が得られるため、GC/MS および GC/TQ などのユニットマス質量分析計とことなる特徴があります。

原子の質量や化合物の分子量は、実際には、データファイルに表示されているような単位質量ではありません。例えば、酸素の精密質量は整数値の 16 amu ではなく、15.9994 amu です。測定質量と HRAM による理論上の質量との誤差は通常、1~5 ppm 程度です。GC/Q-TOF は高分解能で、小数点以下 4 桁以上という化合物の正確な質量検出が十分に行えます。

GC/Q-TOFは、高い選択性と高感度という利点を兼ね備えており、複雑なマトリックス試料中のターゲット化合物を高精度で検出することができます。高解像度の動画と同様に、高分解能精密質量分析(HRAM)は、低分解能の GC/MS や GC/TQ システムよりも明確な質量スペクトルが正確に捉えることができます。

飛行時間型(TOF)アナライザの内部では、次のようなことが起こっています。

  1. イオンが、フライトチューブへ高速(マイクロ秒レベル)で送られます。
  2. イオンはフライトチューブの頂点へ送られる際、イオンのm/z により分離されます。すなわち、m/z が大きなイオンは小さなイオンに比べて低速でフライトチューブ内を移動します。このイオンの到着時間は、きわめて高い精度(ナノ秒レベル)で測定できます。
  3. 単位時間あたりでイオンのパケット(トランジェント)が一つにまとめられ、スペクトルが生成されます。通常は約 10,000 のトランジェントで得られたデータからフルスペクトルを生成します。

フルスキャンモード

フルスキャンモードは、イオンの総透過率(TTI)またはトータルイオンクロマトグラフィー(TIC)と呼ばれる、最も一般的な測定モードです。GC/Q-TOF は、セミターゲットまたはフルターゲットモードでも使用でき、四重極とコリジョンセルを利用して MS/MS 測定を実施することで選択性を向上させます。

GC/Q-TOF システムは、高い選択性と同定/構造解析機能を備えており、未知物質の同定でよく使用されます。また、日常的な定量作業でも信頼性の高い測定が行えます。

アジレント GC/MS の詳細情報

Agilent 5977C GC/MSD

シングル四重極 GC/MSは、日々の分析で信頼性の高い性能を発揮します。

Agilent 7000E GC/TQ

信頼性が高く、コストパフォーマンスの高い Agilent 7000E GC/TQ は、優れた堅牢性で測定が可能です。

Agilent 7010C GC/TQ

超微量分析において、EI モードでのアトグラムレベルの検出が可能です。

Agilent 7250 GC/Q-TOF

未知化合物を高分解能の精密質量 GC/MS で同定します。