蜂蜜はミツバチが作り出す自然食品として需要が高く、世界中の人々から愛されています。その人気の高さから、2018 年における蜂蜜の世界市場規模は 84 億ドルに上ると見積もられています。しかし、最近では蜂蜜産業に影響を及ぼす 2 つの大きな問題が生じており、世界に波紋を広げています。それは、ミツバチの個体数減少と混ぜ物を加えた偽装蜂蜜に関する問題です。これらの問題をよく理解するために、まずは蜂蜜の生産方法と用途について見ていきましょう。

蜂蜜

蜂蜜生産の概要

純粋蜂蜜の生産は、ミツバチが顕花植物から花蜜を集め、蜂蜜作りには欠かせないこの材料を巣へ持ち帰るところから始まります。ハチの巣の中で、花蜜は単糖へと変化します。ミツバチの羽ばたきや六角形のハニカム形状といった巣の特性により、花蜜に含まれる水分が蒸発し、あの甘いとろりとした蜂蜜ができあがります。

ミツバチの巣 1 つあたりの年間平均採蜜量は 9~27 kg と推定されており、その量は地理的な位置、気温、気候、害虫の発生程度などの数々の要因によって異なります。養蜂家の採蜜手順はまず、ミツバチが巣を覆うように蜜蝋で作った「蜜ブタ」を取り除きます。次に、巣枠を遠心分離器にかけて液状の蜂蜜を採取します。蜂蜜を抽出した後は、ろ過して余分な不純物を取り除き、販売用の瓶に詰めます。

蜂蜜の健康効果

研究によると、蜂蜜には糖質としてグルコースおよびフルクトース成分が豊富に含まれていますが、他にも約 25 種類のオリゴ糖が含まれます。つまり、蜂蜜はアスリートなど運動をする人にとって優れたエネルギー源となるのです。また、少量のタンパク質、酵素、アミノ酸、ビタミン、ミネラルも含まれています。

蜂蜜を 1 回の摂取あたり 50~80 g の高用量で消費した場合、栄養学的および生物学的な健康効果が併せて得られることが報告されています。特に、蜂蜜には抗菌、抗ウイルス、抗寄生虫、抗炎症、抗酸化、抗変異原性、抗腫瘍の効果があることが分かっています。注目すべきは、これらの生物学的効果の多くが蜜源となる植物と特異的に関連しているという点です。

ミツバチの個体数減少

過去数十年にわたり、ミツバチの個体数が減少していることを受けて、地域社会では農業および環境への懸念が高まっています。米国では 2018 年 10 月から 2019 年 4 月の間にミツバチのコロニーの最大 40 % が消滅したと、メリーランド大学の科学者が報告しています。これは、13 年以上前に調査を開始して以来、最も高い減少率であるといいます。広い視野で捉えると、ミツバチは米国における年間約 150 億ドル相当の作物の授粉を担っているため、ミツバチの存在は天然蜂蜜の生産だけでなく世界の食物の生産と供給にとっても必要不可欠なのです。

人々の認識を高め、授粉媒介者の役割を担うミツバチの個体数を回復させるとともに、世界の食料安全保障を維持し、生物多様性を守るための取り組みとして、2020 年 5 月 20 日は「世界ハチの日」に、2020 年 8 月 15 日は「世界ミツバチの日」に制定されています。

偽装蜂蜜事件

蜂蜜は世界で最も偽装されやすい食品の 1 つです。つまり、消費者の手に届くころには、自然のままの状態からある程度変化していることになります。蜂蜜は、詐欺業者が金銭目的で偽装する食品の世界ワースト 10 の上位に入っているので、ここ何年も偽装蜂蜜事件がニュースの見出しの常連となっていることは驚くことではありません。純粋蜂蜜の混ぜ物として米、コーンシロップ、サトウキビシロップなどの甘味料を添加したものが、カナダ欧州米国オーストラリアをはじめとするあらゆる地域で販売されているとの報告が伝えられています。

蜂蜜の偽装は、あの手この手で消費者をだます食品偽装の 1 つです。純粋蜂蜜に増量を目的として、米などのさまざまな安価な甘味料といった不純物を加える加糖蜂蜜もあります。他にも、採蜜時に乾燥(蒸発)時間を人の手で早めたり、蜂蜜の瓶のラベルを偽装したりする方法もあります。

偽装蜂蜜が世界の食品サプライチェーンに与える影響

偽装蜂蜜は巧妙に販売されるので、消費者はパッケージに表示されているとおりの本物の蜂蜜を手にしていると信じ込んでしまいます。例えば、偽装業者が不純物を加えて、ある蜂蜜をマヌカハニーなどの別の種類の蜂蜜として販売することがあります。マヌカハニーは科学的に認められた複数の健康効果があることで盛んに宣伝されています。偽物のマヌカハニーは人工のジヒドロキシアセトン(DHA)を添加して作られます。DHA は抗菌特性を有することで知られる化学物質メチルグリオキサール(MGO)に変化します。人工の DHA を多く加えることで、偽装業者は偽物のマヌカハニーを販売し、高い利鞘を得ることができます。もちろん、これは実質的な不正行為です。こうした詐欺行為は供給業者が最大の金銭的利益を得ようとして行うものです。

問題は、販売業者や養蜂家の多くがサプライチェーンにおいて蜂蜜の偽装が横行していることに気付いていないことです。偽装蜂蜜がサプライチェーンに出回り、市場に出されていることが疑われた場合、販売業者は偽物の疑いがある製品が本物であることを立証できるまで、当該製品を撤去することになるでしょう。例として、英国食品基準庁(FSA)同国のスーパーマーケットで偽装蜂蜜が販売されているとの報告を受けて調査を実施したケースがあります。

偽装蜂蜜が確認された場合、関係者は詳細な調査を実施して偽装が発生した経緯を追跡することがあります。しかし、世界の食品サプライチェーンは輸出入の管轄区域をいくつも経由するため複雑であることから、このような調査は実施が難しく、時間がかかる場合があります。

蜂蜜偽装との闘い

現状はマイナス面ばかりではありません。蜂蜜の偽装問題と闘う手段はまだ残されています。食品分析技術の進歩により、偽和物混入による汚染の有無を識別する一連のスクリーニングメソッドを実施して、蜂蜜製品の真正性を判定できるようになりました。

さらに現在では、炭素同位体の微量比と元素を用いて世界中の蜂蜜の原産地を追跡することも可能です。これにより、サプライチェーンに偽装蜂蜜が入り込む可能性を払拭することができます。

蜂蜜

蜂蜜供給の実態を調査

アジレントのような機器メーカーは研究者と連携し、さまざまな分析機器とデータ解析用のソフトウェアソリューションを組み合わせて蜂蜜サンプルを検査し、その真正性を証明するメソッドを開発しており、エンドユーザーに完全統合型のシステムを提供しています。

検査と分析にはさまざまな分析機器が用いられます。アジレントは固相マイクロ抽出およびガスクロマトグラフィー質量分析(SPME-GC/MS)、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、ガス/液体クロマトグラフィー - 四重極飛行時間型(GC/Q-TOF および LC/Q-TOF)を提供しています。これらの機器は、データ解析用の Agilent Mass Profiler Professional(MPP)などのソフトウェアソリューションと併用することができます。

例えば、蜂蜜の組成分析に高速液体クロマトグラフィーを使えば、どの糖がどのくらいの割合で含まれているのか分かります。Hi-Plex カラム(主に炭水化物と有機酸の分離に用いられるイオン交換カラム)を使用する方法は、蜂蜜などの食品に含まれる単糖の分析に適した分離メカニズムの一つです。

認知度を高め、蜂蜜を守る

偽和物混入の蜂蜜、すなわち偽装蜂蜜は、消費者ばかりか養蜂家やミツバチにまで損害を与えます。このため、人々の認知度を高め、蜂蜜を守ることが不可欠です。蜂蜜の原産地を証明することは、消費者および地域の生産者にとって極めて重要です。多くの国では、蜂蜜のような食品は規制によって原産地で識別されています。

関係者が協力し合い、基準と認証によって蜂蜜の供給源を守り認識を高めることが、正しい方向へ進むための重要なステップとなります。こうした対策により、消費者は手にしたものが何かを知り、その品質と供給源を信頼することができるのです。


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