ICP-MS の原理

ICP-MS (誘導結合プラズマ質量分析計)の原理

ICP-MS* とは、高感度な多元素分析を高いサンプルスループットで実現する元素分析装置です。プラズマ (ICP) をイオン源として使用し、発生したイオンを質量分析部 (MS) で検出します。周期表上のほとんどすべての元素を同時に測定可能であり、測定元素についてサブ ng/L (ppt) の濃度レベルで測定できます。また、定性分析、半定量分析、定量分析を実行でき、質量分析であるため同位体比測定も可能です。

* (分析機器) 誘導結合プラズマ質量分析計 Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometer
 (分析法)    誘導結合プラズマ質量分析 Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry
   JIS 通則 : JIS K 0133 : 2007JIS 高周波プラズマ質量分析通則

図1. Agilent ICP-MS の構成

イオン源としてのプラズマ

一般に、液体サンプルはペリスタルティックポンプでネブライザに導入され、そこでエアロゾル化します。ダブルパス型のスプレーチャンバの採用により、安定したエアロゾルがプラズマに導入されます。アルゴン (Ar) ガスは石英製トーチに導入され、ICP (誘導結合プラズマ) を形成します。トーチは、RF エネルギーが印加された RF コイルの中心に位置します。強力な高周波が Ar 原子同士の衝突を発生させ、高エネルギーのアルゴンプラズマを生成します。エアロゾル化されたサンプルは、プラズマ (温度は 6,000 ~ 10,000K) 内で瞬時に分解し、測定対象元素は原子化、そしてイオン化されます。発生したイオンはプラズマから、高真空状態 (通常は 10-4Pa) に維持された質量分析部に送られます。この真空状態は、差動排気により維持され、測定対象のイオンはサンプリングコーンとスキマーコーンと呼ばれる一対のオリフィスを通って導かれます。

ORS コリジョンセル

プラズマとサンプルマトリックスに起因する干渉を除去しています。
詳細はこちら

四重極質量アナライザ

次に、測定元素イオンは、イオンレンズシステムにより四重極質量アナライザに収束され、質量電荷比に基づいて分離されます。「四重極」 という用語は、質量アナライザが基本的に 4本の平行なロッドから構成され、そのロッドに RF 電圧と DC 電圧を組み合わせて印加することに由来しています。この電圧の組み合わせにより、四重極質量アナライザは、特定の質量電荷比を持つイオンのみを透過させることができます。

検出器

最後に、イオンは二次電子増倍管で測定され、質量数ごとの信号となります。

質量スペクトル

得られる質量スペクトルは、きわめてシンプルなものです。各元素の同位体の信号がそれぞれの質量数 (たとえば Al は 27amu) に現れ、その信号強度は、サンプル溶液内の当該同位体の濃度に比例します。低質量数のリチウム (Li) から高質量数のウラン (U) までの多数の元素を同時に分析でき、所要時間は通常 1 ~ 3分程度です。ICP-MS を使用すると、ppt オーダーから ppm オーダーまでの濃度のさまざまな元素を一度に測定できます。

アニメーションビデオ – ICP-MS の原理

イオンが ORS などを通過する様子を 「イオンの視点」から見たアニメーションで ICP-MS の原理をご紹介します (Agilent 7500 の装置でのご紹介)。
ビデオはこちら

ICP-MS 関連用語

ICP-MS に関連した用語を以下に列記しました。記載の用語の大半は以下の JIS から引用し、必要に応じて弊社にて補足説明を追記しております。

JIS K 0133:2007 高周波プラズマ質量分析通則
JIS K 0211:2013分析化学用語 (基礎部門) 
JIS K 0215:2016分析化学用語 (分析機器部門)

データ解析編

1 質量スペクトル マススペクトルともいう。横軸にイオンの質量電荷 (数) 比 m/z (斜体字で表す) を、縦軸に信号強度を表した二次元表示。ICP-MS では多くの場合、1 価イオンが対象となるので m/z は元素の質量数にそのまま対応する。一部の元素については 2 価イオンも生成するのでその場合には信号は m/2 の位置に出現する。
2 質量数 質量数は原子もしくはイオン中の陽子と中性子の数の合計。同位体の質量数は 12C のように元素記号の前につけられた上付き数字で示される。原子番号と違い順位を表していないので、「質量数は 7 番」 のように 「番」 をつけない。
3 CPS または cps カウント毎秒 Counts per Second の略。1 秒あたりのカウントを意味する。カウント/積分時間で計算される。
4 カウント 検出器が積分時間内に検出した、特定の元素のイオンの信号強度。サンプル中のその元素の濃度に比例する。積分時間 1 秒でのカウントは CPS に同じ。
5 積分時間 信号強度を平均化してばらつきを抑えるため、検出された質量信号を積分し、その時間平均値を算出するための単位時間。
6 相関係数 Correlation Coefficient を意味し、一般に R または r で表示される場合が多い。測定点が回帰直線にどれくらい合致するかを見積もるために計算する。-1 < R < 1 の範囲で値をとり、ICP-MS では (標準溶液が正しく調製され、装置が適切に調整されていれば) ほとんどの場合 0.99 以上の値をとる。
7 DL Detection Limit の略で各元素ごとの装置の検出下限 (限界)、すなわち検出できる最小量 (値) を意味する。検量線ブランクの標準偏差の 3 倍を与える信号強度を感度 S で除して濃度に換算した値。DL = 3σBLK/S。
近年、Limit of Detection、LOD の使用が ISO、JIS にて推奨されているが、DL は慣用的に多用されている。
8 BEC バックグラウンド相当濃度 Background Equivalent Concentration の略。バックグラウンドの信号強度を感度 S で除して濃度に換算した値。単位は ng/ L など濃度。「ベック」 と読むのは望ましくない。
9 RSD 相対標準偏差 Relative Standard Deviation の略で、変動係数 coefficient of variation、CV ともいう。単位はパーセン ト %。測定値の標準偏差を測定値の平均値で除した値。RSD% = σ(x)/xaverage。濃度、cps それぞれについて算出される。
10 同位体、アイソトープ 原子番号が同一の元素で互いに質量数の異なる一連の原子。 isotope
11 検量線 物質の特定の性質、量、濃度などとそれらの測定値との関係を表した線。校正曲線ともいう。
12 感度 a) ある量の測定において、検出下限で表した分析方法又は機器の性能
b) 検量線の傾きで表した分析方法の性能
ICP-MS の場合、JIS K 0133:2007 附属書 A.2.1 で b) に相当する 1 μg/L 当たりのイオンカウント数 (単位 cps) で
表すよう、記されている。
13 空試験 (からしけん) 一般に試料を用いないで、試料を用いたときと同様の操作をする試験。ブランク試験とも。Blank test
14 空試験値 空試験によって求めた値。ブランク値とも。Blank value
15 検量線用ブランク液 測定対象元素の濃度がゼロで、検量線用標準液と同じ組成から成る溶液。Calibration blank (CalBlk)
16 検量線用標準液  検量線を作成するために使用する既知濃度の測定対象元素を含む溶液。Calibration Standard (CalStd)
17 内標準法 分析種 (A) を含む複数標準試料に分析対象とは異なる標準の一定量 (B) を添加して分析を行い、量比 (A/B) と信号比 (IA/IB) との関係線を作成し、次に目的試料に内標準成分の既知量を添加して分析し、先に求めた関係線から分析種を定量する方法。
18 内標準元素 ICP-MS 測定における非スペクトル干渉及び感度の時間変動を補正するため、検量線用標準液、検量線用ブランク液および測定用試料溶液に同量添加する元素。Internal standard element (ISTD)
19 定量下限 操作ブランクを連続 10 回測定したときに得られる信号の標準偏差の 10 倍の信号を与える濃度。操作ブランクを差し引いて分析値を求めた場合には、標準偏差の 14.1 (= √2 ×10) 倍の信号を与える濃度。 Limit of quantification、LOQ
20 回収率 試料中に存在する物質の量,又は加えられた物質の量 (A) に対する、試料から検出したその物質の量 (B) との比 (B/A)。分率で表すこともある。Recovery

アプリケーション

ICP-MS は、微量元素の測定を行う主要分析ツールとして、半導体、環境分析、地質学、化学、原子力、クリニカルおよび各種研究所をはじめとする幅広い業界で使用されています。


関連情報

ICP-MS ジャーナル(様々な応用事例が掲載されているジャーナルです):

類似の元素分析装置

   
原子吸光分光光度計   マイクロ波プラズマ原子発光
分光分析装置 (MP-AES)
  ICP発光 (ICP-OES)