ICP-MS の原理

1. はじめに

誘導結合プラズマ質量分析法 (Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry, 以下、ICP-MS) は、アルゴン(Ar)ガスに高周波電力を印可して生成した誘導結合プラズマ (Inductively Coupled Plasma, 以下、ICP) をイオン源に用い、ICP に液体試料を霧状にして導入させ、プラズマによってイオン化された試料中の元素を質量分析計 (MS) によって分離、検出する元素分析のための手法である。 アルゴン(Ar)プラズマは 6000~10000 K の高温とされ、プラズマ中では多くの元素が高い効率でイオン化される。原子(実際に検出されるのはイオン)のもつ質量数は元素固有であるから、得られた質量スペクトルの質量数(正確には質量電荷数比 m/z)から元素の種類が分かり(定性分析)、元素濃度に比例して得られた信号強度から試料中元素の濃度を求められる(定量分析)。また、質量分析なので元素のもつ個々の同位体あるいは同位体比の分析も可能な(同位体(比)分析)、高感度多元素一斉分析手法である。
ICP-MS に実際に導入される試料形態は液体試料の場合が多いが、近年、レーザーなどによって微粒子化された固体試料や、専用の導入装置を用いた気体試料の直接導入も検討されている。また、ICP-MS の前段に液体クロマトグラフ(LC)やガスクロマトグラフ(GC)を接続して LC-ICP-MS, GC-ICP-MS として化合物の形態分析などに用いられる場合もある。 ICP-MS は、環境科学、エネルギー・原子力工学、ライフサイエンス、地球科学、材料科学、半導体・電子材料など幅広い分野において最先端技術に関わる必要不可欠な分析手法として普及し、最も高感度な元素分析法として確固たる地位を築いている。

* (分析機器) 誘導結合プラズマ質量分析計 Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer
(分析法) 誘導結合プラズマ質量分析法 Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry
JIS 通則 : 「高周波プラズマ質量分析通則」 JIS K 0133 : 2007
                 (2021 年 8 月現在改正作業進行中)

2. ICP-MS の装置構成と各部位の役割

ICP-MS 装置は、分析種の流れに沿って、試料導入部、イオン化部 (イオン源、プラズマ励起源)、インターフェース部、イオンレンズ部、質量分離部(質量分析計)、イオン検出部から構成されている。イオンを検出するので質量分析計、検出器は高真空下に置かれ、これらを機能させるための電源部、ガス流量制御部、真空制御部などからなる。図 1 に示した構成は ICP-MS 装置の原型ともいえる構成で、最近の市販装置の殆どが図 2 に示したように質量分離部の前にスペクトル干渉 (後述) 低減・除去のためのコリジョン・リアクションセル部を装備している。また、コリジョン・リアクションセルの前後に四重極質量分析計をタンデム配置させてスペクトル干渉の低減・除去能力をさらに改善させた ICP-MS/MS(ICP-QQQ)は近年急速に普及している(図 3)

 


                                    図 1 ICP-MS 装置の基本構成


           図 2 最近の ICP-MS 装置の構成(コリジョン・リアクション部を含む)


                               図 3 ICP-MS/MS(ICP-QQQ)装置の構成

2.1 試料導入部

溶液試料は負圧吸引(自然吸引ともいう)またはペリスタルティックポンプを使用して送液され、ネブライザー(霧吹き)によりスプレーチャンバー内へ噴霧される。噴霧された霧状の試料エアロゾルはスプレーチャンバー内で粒径選別され、選別された微細な試料エアロゾルの一部は ICP トーチへと搬送され、残りはドレインとして系外に排出される。溶液の溶媒の種類によって、ふっ化水素酸導入システムや有機溶媒導入システムなどもオプションとして用意がある。試料プローブからアルゴンプラズマが形成される ICP トーチまでの基本構造は、ICP 発光分析における導入系と概ね同様である。

2.2 イオン化部(イオン源、プラズマ励起源)

2.2.1 プラズマとは
プラズマとは、「気体中の原子や分子が電離して、正イオンと電子がほぼ等量混ざり合って存在し、平均的に電気的中性の状態を保っている状態である」と定義され、プラスの電荷をもつ原子とマイナスの電荷をもつ電子がバラバラの状態で狭い空間に同じ密度で存在し、全体として中性(電荷が 0)となっている電離気体で、固体、液体、気体に続く第 4 の状態とも言われる。

2.2.2 ICP トーチと構成ガス、プラズマの生成と維持
図 に示した石英トーチ外周の誘導コイルに高周波電力を印可し、発生した電磁場によって電子とアルゴン原子の衝突が繰り返され、アルゴン原子が継続してイオン化されてプラズマが形成、維持される。三重管構造をもつ ICP トーチにはそれぞれ以下のガスが導入される。

・ プラズマガス(冷却ガス)
三重管の石英トーチの最も外側に流されるガスで、プラズマを維持するために必要なアルコンガスを供給するとともに、トーチ外周部に多量のガスを流すことで石英管を冷却する目的があり、冷却ガス(クーラントガス) とも呼ばれる。また、大量のアルゴンガスを導入することでプラズマ中心部を大気から遮断し、プラズマ内への空気の混入を防いでいる。ガス流量は、~ 20 L/min と多く、コイル上 30 mm 程度の先端までアルゴンガスのカーテンで覆われるためにプラズマの中心部が空気から遮断されている。

・ 補助ガス
三重管の石英トーチの中間層に流されるガスで、トーチからより離れた位置にプラズマを維持して、プラズマがトーチに接触して損傷させるのを防ぐ役目を果たしている。通常は 1L/min 程度のガス流量で使用する。

・ インジェクターガス(一般にはキャリアガス、ネブライザーガスとも)
三重管の石英トーチの中心の細管、インジェクターに流されるガスで、ネブライザーにより噴霧されたエアロゾルをプラズマへ搬送させるためのガスである。キャリアガス流量 (圧力) は、試料エアロゾルの導入量に直接影響する要素で、プラズマの安定性に寄与して、装置感度、繰り返し再現性などの分析精度に大きな影響を与えるために精密に流量制御して導入され、最適流量に設定される。
注意)より正確には、ネブライザーに直接導入されるガスをネブライザーガスまたはキャリアガスといい、スプレーチャンバーに導入されるガスをメイクアップガスという。これらの総量がインジェクターに導入される。

                                                                    図 4 誘導結合プラズマ ICP の構造と写真

2.2.3 プラズマの生成機構とその特性
図 に示した三重管構造をした石英トーチ外周に誘導コイルを配置してコイルに高周波電流を流すと、トーチ先端の軸方向に通る磁力線が生じて、電磁誘導による高周波磁界の時間的変化に応じた電界が生成する。
イグナイターにより発生させた火花放電から供給された電子がこの電界によって加速され、周囲のアルゴンと衝突してアルゴンイオンと電子に電離し、これらが増加してプラズマが生成され、渦電流が流れて高温高密度のプラズマが形成、維持されるようになる。
誘導結合プラズマではドーナツ構造のプラズマが形成されるので、ネブライザーにより噴霧されたエアロゾルが容易にプラズマ内に導入され、エアロゾルが通過する中心部周辺の高温プラズマで脱溶媒、解離、原子化、そしてイオン化されるようになる。

2.3 インターフェース部

高温のアルゴンプラズマ中で生成されたイオンは、サンプリングコーンと呼ばれる円錐形の金属板に設けた数 mm 程度の微小な孔(オリフィス)を経由して大気圧から真空計へと差動排気システムによって導入され、さらに続くスキマーコーンによってプラズマ中のイオンはスキミングされ、イオン光学系によって収束されたのち質量分析計へと導かれる。

2.4 イオンレンズ部

スキマーコーン直後に配置された静電レンズ群で、プラズマからイオンを引出す機能と、続くコリジョン・リアクションセルあるいは質量分析計の入り口にイオンを収束させる機能を併せ持つ。検出器はイオンのみならず、原子、光子、中性粒子などにも反応するので、プラズマからの強い紫外光や未分解粒子などもスキマーから引き込まれてバックグラウンドを増大させる原因となる。イオンレンズには形成された電場によってイオンを偏向させたり、直進する紫外線を遮光板で遮ったりして、イオンのみを分離する機構を設けている。

2.5 コリジョン/リアクションセル

ICP-MS では目的とする元素のスペクトル以外にプラズマを構成する Ar、その不純物や試料溶媒である水、金属成分を安定に溶存させるために添加した酸やアルカリに由来した強大なイオンのバックグラウンド信号によるスペクトル干渉が生じるのが特徴である。コリジョン・リアクションセルはこれら測定対象元素以外のイオンが引き起こすスペクトル干渉を除去または低減させるための機構であり、質量分離部の前に設けられる。
真空系外から気体分子(セルガス)を導入したセルと呼ばれる箱の中をプラズマからのイオンが通過する際に、気体分子とイオンの間で相互作用が生じる。この相互作用の結果、測定対象元素のイオンとスペクトル干渉を与えるイオンとの選別が行われ、干渉イオンの量が測定対象元素イオンに比べて大幅に低減されて信号対バックグラウンド比が改善されるので、検出下限が改善される。

2.6 質量分離部(質量分析計)

質量分離部はイオンレンズから入射したイオンを、真空中のイオンに対する電場・磁場の効果を利用して、イオンの質量ごとに時間的・空間的に分離する部分である。ICP-MS に使用される質量分析計には走査型質量分析計として四重極型質量分析計、磁場型の二重収束型(高分解能型)質量分析計などがあるが、構造が単純で、比較的低真空で動作可能で、低価格、質量分析計として技術的に確立されている四重極型質量分析計が主流である。最近ではコリジョン・リアクションセルの前後に四重極質量分析計をタンデム配置させたタンデム型四重極型質量分析計(トリプル型四重極質量分析計)を装備した ICP-MS/MS(ICP-QQQ)も急速に普及している。また、複数イオンの同時検出を可能にした多チャンネル同時検出型の磁場型質量分析計や飛行時間型質量分析計などもある。

2.7 検出器

質量分析計で選別されたイオンを検出し、読取り可能な信号に変換する部分で、二次電子増倍管などの検出器で検出、イオンカウントとして出力される。検出方式にはパルス検出方式アナログ検出方式とある。ディスクリート型検出器などが多用され、最近では 10 桁以上のダイナミックレンジを有している場合もある。

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3. 各種干渉について

ICP 質量分析法は高温のアルゴンプラズマをイオン源に使用し、大気圧下のイオン源から差動排気システムを用いて高真空系内に直接イオンを引き込み質量分離後、目的元素をイオンとして検出する構造となっている。そのため、目的元素の微小信号を検出する際、プラズマを構成するアルゴンや共存元素に由来した強いバックグラウンドの影響を受けやすく(スペクトル干渉)、高感度ゆえに共存成分・元素に由来した信号変化も受けやすい(非スペクトル干渉)という特徴がある。特に前者は他の質量分析法では見られない特徴で、ICP-MS が提案されて後、多くの研究者、機器メーカーがその解決に取り組んできた。最近ではより選択的にスペクトル干渉を低減、除去するため、コリジョン・リアクションセルの前後に質量分析計をタンデム配置させたトリプル型 ICP 質量分析計、ICP-MS/MS(ICP-QQQ)がその優れたバックグラウンド除去能力により急速に普及している。

3.1 スペクトル干渉と非スペクトル干渉

3.1.1 スペクトル干渉(spectral interference)
測定対象元素の質量電荷数比( m/z )に近い m/z の値をもつ原子又は多原子イオンによる質量スペクトルの重なりに起因する干渉( JIS K0133 の定義)で、特に四重極型質量分析計による測定では注意が必要である。スペクトル干渉は以下の同重体イオン、多原子イオン、二価イオンにより生じるので、測定元素のスペクトルのみならず、試料溶液の全体像を把握するために全質量域にわたるスペクトルの確認が重要である。スペクトル干渉は本来得ようとするスペクトルに対して正の誤差を与える。

3.1.1.1 同重体干渉
測定対象元素と妨害元素の原子量が近接している場合に生じるスペクトル干渉。代表的な例としてはアルゴンプラズマをイオン源とした場合の 40 Ca に対する 40 Ar の重なり、鉛同位体分析を行う場合の 204 Pb に対する 204 Hg の重なりなどがある。

3.1.1.2. 多原子イオン干渉
アルゴンプラズマをイオン源とする場合に、プラズマを構成するアルゴンのみならず、試料溶液の溶媒となっている水(H2O)のH原子やO原子とから、アルゴン起因の多原子イオン、ArO+, ArOH+, Ar2+が生じる。このような二原子以上の原子からなるイオンにより生じるスペクトル干渉をいう。さらに金属を安定に溶存させるために添加した酸(HNO3、HCl など)に起因してArN+, ArNH+, ArCl+, ClO+, Cl2+などを、硫酸H2SO4、リン酸H3PO4を用いた場合にはそれぞれ硫黄(S)原子、リン(P)原子を含む多原子イオンを生じる。また、試料溶液中の共存元素を含む多原子イオンが測定対象元素にスペクトル干渉を与える場合もあり、アルカリ土類元素,希土類元素などのように酸化物イオンを生成しやすい元素は,これらの元素の質量数に16 を加えた m/z の位置にスペクトルが現れる。これら多原子イオンの生成割合は,試料導入部,イオン化部及びインターフェース部の設定条件によって大きく変動するので,設定条件を最適化して干渉を軽減する。

3.1.1.3. 二価イオン干渉
試料溶液中に測定対象元素の2 倍の質量数の同位体をもつ共存元素が存在する場合に当該の一価イオンの1/2 の m/z の位置に二価イオンのスペクトルが生じてスペクトル干渉を与える。二価イオンは第二イオン化エネルギーの低い元素で生成しやすく、酸化物同様、アルカリ土類及び希土類元素で顕著である。

3.1.2 非スペクトル干渉(non-spectral interference)
高周波プラズマ質量分析計を用いて測定するときに生じる干渉のうち、スペクトル干渉を除くすべての干渉(JIS K0133 記載の定義)で、物理干渉、イオン化干渉及び化学干渉、マトリックス干渉(空間電荷効果)に分類される。非スペクトル干渉は本来得ようとするスペクトルに対して正負の誤差を与える。

3.1.2.1 物理干渉
物理干渉とは、共存する塩類、酸類などによる試料溶液の粘度、表面張力、密度の違いから試料溶液の吸引速度が変化して試料を霧にする霧化効率の変化や、生成した液滴の粒径分布の変化によって、ICP までの輸送効率が変化する現象をいう。分析元素に依存しない干渉である。
物理干渉の低減には、検量線用標準液及び測定用試料溶液の液性をできるだけ一致させる(化学分析の基本)ように、酸の種類と濃度、共存するマトリックス成分の濃度を一致させるマトリックスマッチング法の適用が ICP-OES 同様に望ましく有効と考えられるが、ICP-OES より三桁以上高感度な検出能力を有する ICP-MS では測定濃度に影響を与えない高純度のマトリックス物質の入手は容易ではなく、マトリックスマッチング法は適用したくても適用できない場合も多い。
測定用試料溶液中の塩類の濃度が高い場合には,サンプリングコーン及びスキマーコーンのオリフィスに不溶性物質が析出してオリフィス径が小さくなって感度の低下と経時的なドリフトを生じ易くなるので、塩類の総濃度を 1 g/L 以内に抑えることが望ましい。

3.1.2.2 化学干渉
化学干渉とは,測定対象元素が共存する塩類、酸類と高沸点の難解離性の塩または酸化物を生成し、原子化及びイオン化が抑制され,感度が低下する現象をいう。化学干渉は、化学炎を用いるフレーム原子吸光法ではしばしば問題となるが ICP の温度は約 5000~10000 K と化学炎に比べてプラズマの温度が高温なので、ICP-OES や ICP-MS の通常の分析条件ではほとんど問題とならないとされている。

3.1.2.3 イオン化干渉
測定用試料溶液中に高濃度の共存元素が存在する場合にプラズマ内での測定対象元素のイオン化率はプラズマ内の温度及び電子密度によって決まる。イオン化干渉とは、共存元素がイオン化されるときに発生する電子によってプラズマ中の電子密度が増加して分析元素のイオン化率が減少し、感度低下を引きおこす現象をいう。アルカリ金属及びアルカリ土類金属などのイオン化エネルギーの低い元素が多量に存在すると,測定対象元素のイオン化率が大きく変化する。

3.1.2.4 空間電荷効果
空間電荷とは真空やガス中などの空間に分布しているイオンや電子を指す。プラズマがインターフェース部を通過するに伴って電荷分離が進み、プラズマビームが正電荷を帯びてくると、ビーム中の分析元素のイオンとマトリックス成分のイオンとの間にはクーロン斥力が働き、分析イオンは質量分離部のスリット上に収束できず感動低下を引きおこす。これを空間電荷効果といい、共存元素と測定対象元素との相対原子量の差が大きいほど顕著に現れる。

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4. 測定方法

4.1 検量線法 (絶対検量線法)

検量線法(絶対検量線法)とは 横軸に濃度、縦軸にイオンの信号強度をとり、既知濃度の標準液から段階的に希釈、調製された検量線用標準液及び検量線用ブランク液を用いて、濃度とイオン信号強度との関係線を作成して検量線とする。この検量線を用いて、試料溶液を測定した時に得られるイオンの信号強度から濃度を算出する一般的な定量分析手法である。
検量線法は、検量線作成用溶液と試料溶液とが適正にマトリックスマッチングされていることが理想である(化学分析の基本)が、ICP-OES の場合と異なり ICP-MS の検出感度に適した、不純物濃度の十分に低いマトリックス元素の入手は容易ではなく、分析操作手順を減らす目的でも、マトリックスマッチング法より後述する内標準法や標準添加法の方が現実的には実施しやすい。試料溶液を希釈しても十分に感度が得られる場合には、希釈によりマトリックスの影響を小さくできる。

4.2 内標準法

内標準法とは、イオンの信号強度に代えて、分析元素の信号強度と同時に測定した、分析元素と同様の挙動をする内標準元素の信号強度との信号強度比を用い、検量線の作成、並びに試料溶液について測定した測定元素と内標準元素とのイオン信号強度比から濃度を算出する方法で、非スペクトル干渉の補正及び感度の経時変化(ドリフト)を補正に有効な方法である。
内標準法は、物理干渉を補正するのに適した分析方法で、内標準元素としては分析元素と質量数が近く、スペクトル干渉がなく、プラズマ中で測定元素と同様な挙動を示し、試料溶液中に含まれない元素であるなどを考慮して選択される必要がある。

4.3 標準添加法

標準添加法は、試料溶液を等量ずつ複数個の溶液を分取して、これに既知濃度の分析元素標準溶液を段階的に添加し、それぞれについて横軸に添加した標準溶液の濃度、縦軸にイオン信号強度をプロットして検量線(回帰直線)を作成する。得られた検量線と横軸(濃度軸)との切片から試料溶液中の目的元素の濃度を求める方法である。
標準添加法は、スペクトル干渉がない場合か何らかの方法でスペクトル干渉を補正できる場合にしか使用できないが、内標準法と比較すると、試料溶液そのものを検量に用いるためにマトリックスは同一となり非スペクトル干渉を理想的に除去することが可能になる。

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5. 検出下限 と定量下限、バックグラウンド相当濃度

検出下限 (limit of detection; LOD) とは、検出できる最小量 (値)、定量下限 (limit of quantitation; LOQ)とは、ある分析方法によって分析種の定量が可能な最小量または最小濃度と、それぞれ JIS K 0211:2013 分析化学用語(基礎部門)に分析化学用語として定義されている。
ICP-MS については、「高周波プラズマ質量分析通則」 JIS K 0133:2007 に以下のように定義されている。

5.1 装置検出下限 (ILOD;instrument limit of detection)

検量線ブランク溶液を連続 10 回測定してときに得られる信号の標準偏差の 3 倍を与える濃度と定義され、装置自身に依存する検出下限を意味する。

5.2 方法検出下限 (MLOD;Method limit of detection)

操作ブランク溶液を連続 10 回測定してときに得られる信号の標準偏差の 3 倍を与える濃度と定義され、個々の分析操作及び測定方法に依存する検出下限を意味する。

5.3 方法定量下限 (MLOQ;method limit of quantification)

操作ブランクを連続 10 回測定してときに得られる信号の標準偏差の 10 倍を与える濃度で、操作ブランクを差し引いて分析値を求めた場合には、誤差の伝播を考慮に入れて標準偏差の 14.1 (√2×10) 倍の信号を与える濃度と定義され、ある分析方法によって分析種の定量が可能な最小量または最小濃度を意味する。 (注意 検出下限の英語表記は古くは Detection Limit, DL が使用されていたが徐々に LOD に移行しつつある。)

5.4 バックグラウンド等価濃度(またはバックグラウンド相当濃度)(BEC;background equivalent concentration)

測定 m/z におけるバックグラウンド強度に等しい信号強度を与える測定対象元素の濃度で、バックグラウンド信号強度をその m/z における同位体の感度で除した値となる。
(注意 従来、日本語表記としてバックグラウンド相当濃度も使用されていたが、ICP-OES における用法と一致させ、バックグラウンド等価濃度に統一される方向にある。)

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アニメーションビデオ – ICP-MS の原理

イオンが ORS などを通過する様子を 「イオンの視点」から見たアニメーションで ICP-MS の原理をご紹介します (Agilent 7500 の装置でのご紹介)。
ビデオはこちら


ICP-MS 関連用語

ICP-MS に関連した用語を以下に列記しました。記載の用語の大半は以下の JIS から引用し、必要に応じて弊社にて補足説明を追記しております。

JIS K 0133:2007 高周波プラズマ質量分析通則
JIS K 0211:2013分析化学用語 (基礎部門) 
JIS K 0215:2016分析化学用語 (分析機器部門)

データ解析編

1 質量スペクトル マススペクトルともいう。横軸にイオンの質量電荷 (数) 比 m/z (斜体字で表す) を、縦軸に信号強度を表した二次元表示。ICP-MS では多くの場合、1 価イオンが対象となるので m/z は元素の質量数にそのまま対応する。一部の元素については 2 価イオンも生成するのでその場合には信号は m/2 の位置に出現する。
2 質量数 質量数は原子もしくはイオン中の陽子と中性子の数の合計。同位体の質量数は 12C のように元素記号の前につけられた上付き数字で示される。原子番号と違い順位を表していないので、「質量数は 7 番」 のように 「番」 をつけない。
3 CPS または cps カウント毎秒 Counts per Second の略。1 秒あたりのカウントを意味する。カウント/積分時間で計算される。
4 カウント 検出器が積分時間内に検出した、特定の元素のイオンの信号強度。サンプル中のその元素の濃度に比例する。積分時間 1 秒でのカウントは CPS に同じ。
5 積分時間 信号強度を平均化してばらつきを抑えるため、検出された質量信号を積分し、その時間平均値を算出するための単位時間。
6 相関係数 Correlation Coefficient を意味し、一般に R または r で表示される場合が多い。測定点が回帰直線にどれくらい合致するかを見積もるために計算する。-1 < R < 1 の範囲で値をとり、ICP-MS では (標準溶液が正しく調製され、装置が適切に調整されていれば) ほとんどの場合 0.99 以上の値をとる。
7 DL Detection Limit の略で各元素ごとの装置の検出下限 (限界)、すなわち検出できる最小量 (値) を意味する。検量線ブランクの標準偏差の 3 倍を与える信号強度を感度 S で除して濃度に換算した値。DL = 3σBLK/S。
近年、Limit of Detection、LOD の使用が ISO、JIS にて推奨されているが、DL は慣用的に多用されている。
8 BEC バックグラウンド相当濃度 Background Equivalent Concentration の略。バックグラウンドの信号強度を感度 S で除して濃度に換算した値。単位は ng/ L など濃度。「ベック」 と読むのは望ましくない。
9 RSD 相対標準偏差 Relative Standard Deviation の略で、変動係数 coefficient of variation、CV ともいう。単位はパーセン ト %。測定値の標準偏差を測定値の平均値で除した値。RSD% = σ(x)/xaverage。濃度、cps それぞれについて算出される。
10 同位体、アイソトープ 原子番号が同一の元素で互いに質量数の異なる一連の原子。 isotope
11 検量線 物質の特定の性質、量、濃度などとそれらの測定値との関係を表した線。校正曲線ともいう。
12 感度 a) ある量の測定において、検出下限で表した分析方法又は機器の性能
b) 検量線の傾きで表した分析方法の性能
ICP-MS の場合、JIS K 0133:2007 附属書 A.2.1 で b) に相当する 1 μg/L 当たりのイオンカウント数 (単位 cps) で
表すよう、記されている。
13 空試験 (からしけん) 一般に試料を用いないで、試料を用いたときと同様の操作をする試験。ブランク試験とも。Blank test
14 空試験値 空試験によって求めた値。ブランク値とも。Blank value
15 検量線用ブランク液 測定対象元素の濃度がゼロで、検量線用標準液と同じ組成から成る溶液。Calibration blank (CalBlk)
16 検量線用標準液  検量線を作成するために使用する既知濃度の測定対象元素を含む溶液。Calibration Standard (CalStd)
17 内標準法 分析種 (A) を含む複数標準試料に分析対象とは異なる標準の一定量 (B) を添加して分析を行い、量比 (A/B) と信号比 (IA/IB) との関係線を作成し、次に目的試料に内標準成分の既知量を添加して分析し、先に求めた関係線から分析種を定量する方法。
18 内標準元素 ICP-MS 測定における非スペクトル干渉及び感度の時間変動を補正するため、検量線用標準液、検量線用ブランク液および測定用試料溶液に同量添加する元素。Internal standard element (ISTD)
19 定量下限 操作ブランクを連続 10 回測定したときに得られる信号の標準偏差の 10 倍の信号を与える濃度。操作ブランクを差し引いて分析値を求めた場合には、標準偏差の 14.1 (= √2 ×10) 倍の信号を与える濃度。 Limit of quantification、LOQ
20 回収率 試料中に存在する物質の量,又は加えられた物質の量 (A) に対する、試料から検出したその物質の量 (B) との比 (B/A)。分率で表すこともある。Recovery
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アプリケーション

ICP-MS は、微量元素の測定を行う主要分析ツールとして、半導体、環境分析、地質学、化学、原子力、クリニカルおよび各種研究所をはじめとする幅広い業界で使用されています。


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ICP-MS ジャーナル:さまざまな応用事例や最新情報をお読みいただける定期刊行物です。

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