環境や食品のアプリケーションでは、比較的高濃度の希土類元素(REE)から発生する二価イオン(M++)干渉がヒ素(As)とセレン(Se)の正確な測定に影響する可能性があります。1 Agilent 8900 ICP-QQQ を用いたこちらの食品の研究では、2ほとんどの元素が He KED モードで測定されましたが、As と Se は酸素(O2)セルガスを使用して測定されました。これは 150Nd2+150Sm2+ からの 75As+ に対する、および 156Gd2+156Dy2+ からの 78Se+ に対する M++ 干渉を回避するためです。

メソッドの精度は、5 種類の食品の認定標準物質(CRM)を未知サンプルとして分析して評価しました。表 1 の比較データから、使用するメソッド(He または O2 マスシフトモード)により、高濃度の REE が含まれるサンプル中の As と Se の結果が異なることがわかります。

NIST 1515 のリンゴの葉の CRM には、低い μg/kg 濃度の As および Se と、高濃度の REE が含まれています。Nd、Sm、Gd の(非認証の)参照値はそれぞれ 17 mg/kg、3 mg/kg、3 mg/kg です。リンゴの葉(およびトマトの葉)では、O2 マスシフトモードを使用すると As と Se の回収率の精度が上がりました。つまりこのような標準物質では、比較的高濃度の REE によりエラーが誘発される可能性があるということです。

表 1.高濃度の REE が含まれるサンプルでの As と Se の回収率の比較データ。Agilent 8900 ICP-QQQ を O2 マスシフトモードで使用すると、M++干渉を効果的に除去できることがわかります。

Table comparing concentration data for elements in apple and tomato leaves. It includes measured and calculated concentrations, certified values, and recovery percentages.

こちらの環境の研究では、Agilent 8800 ICP-QQQ を用いて、同様の手法を土壌と堆積物の分析に使用しました。3 微量濃度の As と Se の測定に影響しうる REE++ 干渉は、O2 セルガスと MS/MS マスシフトモードの使用により回避されました。その他のほとんどの元素は He モードで測定され、サンプルの複雑で変わりやすいマトリックスにおける一般的なマトリックス由来の多原子イオン干渉を効果的に除去できました。

超微量分析対象物の定量

ICP-MS ジャーナルの玄武岩の分析に関する記事で説明したとおり、シングル四重極 ICP-MS は微量濃度の REE の測定に対応しています。ただし超微量分析では、ICP-QQQ は感度が高く、低いバックグラウンドで、干渉対策機能が優れているため、より信頼性の高い定量が可能となります。

例えば天然環境水の場合、REE の天然バックグラウンド濃度は通常、一般的なシングル四重極 ICP-MS の検出機能以下です。また Eu+ への BaO+、La+ への BaH+ などのスペクトル干渉や、高質量 REE への低質量 REE 酸化物イオンからの干渉が、分析の妨げとなる場合もあります。

8900 ICP-QQQ を河川水中の超微量 REE の直接分析に使用した場合、ランタニドでサブ ppt レベルのメソッド検出下限(MDL)を達成しました(表 2)。4 また MS/MS メソッドでは、SLRS-6(河川水 CRM、カナダのオタワにある NRC-CNRC から調達)中の元素の測定値と認証値が高い確率で一致しました。これは精度が優れているということです。

表 2.MDL、SLRS-6(河川水 CRM)の報告値と Agilent 8900 ICP-QQQ での測定結果すべての元素は O2 マスシフトモードで測定し、リアクションセルガスとして亜酸化窒素(N2O)を使用しました。

Table showing MDLs for rare earth elements. Also showing CRM results: SLRS-6 Reported (ppt) and SLRS-6 This Study (ppt).

同重体スペクトル干渉の解決

ICP-QQQ を使用すると、環境サンプル中のあまり一般的でない汚染物質、例えばテルル(Te)などの測定を改善できます。ただし、125Te は同重体オーバーラップが生じない唯一の Te 同位体であるため、ICP-MS での測定に適しています。ところが 125Te の同位体アバンダンスはわずか 7.07 % であり、最も豊富な Te 同位体の約 1/5 です。

環境サンプル中に低濃度で存在する Te を分析するために、比較的アバンダンスの高い同位体である 128Te(31.74 %)や 130Te(34.08 %)を測定できれば好都合です。ただし、そのどちらの同位体も Xe(高純度アルゴンガス中の一般的な微量汚染物質)との同重体オーバーラップが生じます。また、130Te 同位体は、天然環境サンプル中に mg/kg(ppm)レベルで存在する 130Ba ともオーバーラップします。Xe および Ba との同重体オーバーラップを排除できる ICP-MS/MS メソッドがあれば、微量濃度の Te の測定は大きく前進するはずです。

この研究では、8900 ICP-QQQ と N2O および NH3 セルガスを使用して、Xe と Ba からの同重体オーバーラップを 128Te および 130Te から化学的に分離しました。5 このメソッドにより、m/z 128 および 130 の最もアバンダンスの高い同位体を使用して Te を測定できました。N2O/NH3 メソッドでは、130Te に対する Xe の寄与をノーガスモードの約 1/2000 に抑え、多様な Ba マトリックス中の Te を正確に分析することができました。

酸化物による干渉の解決:CoO+ から As+ への干渉と MoO+ から Cd+ への干渉

この栄養補助食品中の重金属 As、Cd、Hg、Pb の分析に関する研究では、8900 ICP-QQQ を MS/MS モードで使用すれば、干渉の可能性に関する事前知識がなくてもサンプルのルーチン分析を実行できることを証明しています。6 比較的高濃度の Co と Mo が含まれるサンプルでは酸化物ベースの干渉が発生し、これが As と Cd の正確な測定に影響します。He KED モードでは酸化物干渉(59Co16O+ から 75As+95Mo16O+ から 111Cd+98Mo16O+ から 114Cd+ など)を効果的に除去できないため、O2 マスシフトモードが使用されました。

CoO+ は O2 と反応しませんが、As+ は O2 と反応して AsO が生成されるため、AsO と Co を分離できます。MoO+ は O2 と反応して MoO2+ が生成されますが、Cd+ は O2 と反応しないため、MoO と Cd を分離できます。

図 1a と 1b のとおり、He モードは Co と Mo が低 ppm 濃度で含まれるマトリックス中の As と Cd の分析に適しています。ただし、10 ppm の Mo マトリックス中に 100 ppm の Co と Cd が存在すると、As の回収率が低下します。これに対して、ICP-QQQ を MS/MS モード、O2 セルガスで使用すると、すべてのマトリックス濃度で As と Cd の酸化物イオン干渉が回避されました。このメソッドでは As を低濃度で一貫して測定でき、m/z 91 で 75AsO+、m/z 111 で 111Cd+ として測定されました。

Bar graph showing determined arsenic concentrations in cobalt-matrices at different ppm levels with consistent heights around 1 ppm for the green bars and different heights for the blue bars.

図 1a.一連の Co マトリックス溶液(0~100 ppm)に 1 ppb の As を添加した場合の回収率

Bar graph showing determined cadmium concentrations in molybdenum-matrices of different ppm levels, with the green bars showing the most consistent heights compared to the blue bars.

図 1b.一連のMo マトリックス溶液(0~10ppm)に 1 ppb の Cd を添加した場合の回収率。 He モードの結果(青色のバー)と MS/MS O2 モードの結果(緑色のバー)引用元文献はこちら。

水銀に対するタングステンベースの干渉

多くの水銀(Hg)化合物には毒性があります。このため、米国食品医薬品局(FDA)などの規制機関は、他に安全かつ有効な防腐剤を利用できない特定の条件下を除き、化粧品への Hg の含有を認めていません。

ICP-MS であれば、微量濃度の Hg を分析できます。ただし、化粧品の中には、タングステン(W)が大量に含まれるものもあります。タングステンが存在すると、WO+ および WOH+ による多原子イオン干渉がすべての Hg 同位体に影響をおよぼす可能性があるため、Hg の測定が困難になります。例えば、アバンダンスの最も高い Hg 同位体である 200Hg と 202Hg には、それぞれ 184W16O+186W16O+ のオーバーラップが影響します。従来のシングル四重極 ICP-MS(ICP-QMS)では、WO+ および WOH+ による干渉を十分に解消できないため、微量濃度の Hg を正確に測定することができません。ただし、この研究結果が示すとおり、8900 ICP-QQQ を O2 MS/MS オンマスモードで使用すればこれらの干渉を克服し、水素の 5 種類の主要同位体を測定できます。7

1 ug/L の Hg 標準溶液(薄灰色)と、同濃度の Hg を添加した高(10 mg/L)W マトリックス溶液(薄紫色)について、Hg 同位体の質量範囲を示すスキャンスペクトルを取得しました。スペクトルの重ね書きから、2 番目のサンプルには高 W マトリックスが存在するにもかかわらず、同位体アバンダンスは自然の Hg 同位体比と一致していることが確認されました(図 2)。30 ppt の Hg 希釈した化粧品サンプルに 30 ppt の Hg を添加して、添加回収率試験を実施しました。回収率は 104 % でした。この結果は、このメソッドの優れた干渉除去能力とマトリックス耐性を裏付けています。

Bar graph of overlaid data showing counts per second (CPS) on the y-axis and mass pairs on the x-axis. Blue peaks indicate separate peaks for mercury isotopes. Red boxes show isotopic abundances match the natural mercury isotope pattern.

図 2.タングステン(W)マトリックスあり(薄青色)と W マトリックスなし(薄灰色)の水銀(Hg)同位体。MS/MS モードの ICP-QQQ により、Hg 同位体アバンダンスを正確に測定し、すべての Hg 同位体に対する W ベースの干渉を効果的に除去できることがわかります。引用元文献はこちら

ルーチン分析ツールとしての ICP-QQQ

ここでご紹介したのは、MS/MS モードの Agilent ICP-QQQ でやっかいなスペクトル干渉を解決し、ルーチンサンプル中のより多くの元素を正確に定量できることを示すほんの一例です。

参考文献

  1. Sugiyama, N. Agilent 8900 ICP-QQQ による二価イオン干渉の解決(英語)
  2. Sakai, K. ルーチン食品分析において Agilent 8900 ICP-QQQ の MS/MS モードを用いるメリット(英語)
  3. Sakai, K. Agilent 8800 ICP-QQQ による土壌のルーチン分析(英語)
  4. ICP-QQQ による環境水中の超微量希土類元素の直接分析(英語)
  5. Woods, G.; McCurdy, E.『Using Double Mass Selection and Reaction Cell Gases to Resolve Isobaric Spectral Overlaps in ICP-MS(ICP-MS での二重マスセレクションとリアクションセルガスを用いた同重体スペクトル干渉の解決)』
  6. Sakai, K.『Agilent 8900 ICP-QQQ による栄養補助食品のルーチン成分分析(英語)
  7. Wang, X、Wang, K ほかAgilent 8900 ICP-QQQ による化粧品中の微量水銀の高精度分析(英語)