すべての食品分野と同様に、穀物輸出業者は関連する国内/国際規制に準拠し、すべての商品の消費安全性を保証する必要があります。穀物の無機物含有量の試験において、生産者は関連する国際基準(国際食品規格委員会1など)や輸入国の汚染物質(ヒ素(As)を含む重金属など)の最大許容濃度(ML)の要件に従う必要があります。Agilent ICP-MSは、さまざまな食品の迅速、かつ正確な多元素分析に広く使用されています。
アルゴン誘導結合プラズマの炭素効果
高濃度のマトリックス元素を同定して補正しないと、アルゴンプラズマ内で一部の成分の信号が抑制または増幅し、分析結果が不正確になる可能性があります。ただし、信号を増幅させるマトリックス効果を利用して、As やセレン(Se)などのイオン化しにくい元素の分析感度を大幅に上げることができます。プラズマ中の炭素イオンや炭素含有イオンの数が増えると、炭素よりイオン化エネルギーが少し小さい特定の成分を完全にイオン化しやすくなることが報告されています2、3。C、As、Se のイオン化ポテンシャルはそれぞれ 11.26 eV、9.82 eV、9.75 eV です。
Australian Superintendence Company(ASC)は輸出前の穀物をクライアントの代わりにサンプリング、分析、認定する多元素分析を実施しており、その際には通常、炭素増大プラズマを使用しています。これは食品検査ラボにおいて広く使用されているメソッドではありませんが、ASC の Sam Mallard 氏のチームはその性能を評価し、これが穀物中の微量元素の検出に非常に効果的であることを発見しました。
コスト効率の高い炭素源
ASC は民間ラボであるため、価格競争力の高いサンプル分析により顧客をつなぎとめる必要があります。このため、分析あたりのコストを削減することは、リピート客の確保に有効です。サンプルあたりの試薬コストを削減するため、同社のチームは、高純度酢酸の代わりに低コストな二酸化炭素(CO2)を用いたAgilent 8900 トリプル四重極 ICP-MS(ICP-QQQ)のプラズマ修飾について調査しました。
図 1(上)のとおり、サンプル希釈液または内部標準ライン(ISTD)ラインによってプラズマに導入される酢酸は、T ピースによりサンプルと混合されます。これに対して CO2 は、ガス供給システムと既存の第 5 のプラズマガスコントロールライン、および 8900 ICP-QQQ のマスフローコントローラにより、プラズマの全アルゴン(Ar)流量に直接供給できます(図 1、下)。この方法では、炭素をシステムから迅速かつ簡単に除去して、生産性を上げることができます。

経済的な分析
を用いた経済的なケースを酢酸と比較して評価するため、両方の試薬の継続的なコストを計算しました。ガス混合装置の購入、設置の先行投資も考慮しました。装置には、高流量ガスの貯蔵用バラストタンクと、CO2を用いた経済的なケースを酢酸と比較して評価するため、両方の試薬の継続的なコストを計算しました。ガス混合装置の購入、設置の先行投資も考慮しました。装置には、高流量ガスの貯蔵用バラストタンクと、CO2増強プラズマと Ar のみのプラズマを切り替えるための 3 方バルブが含まれます。図 2 のとおり、 CO2システムのコスト回収期間は、現在のオーストラリアドル(AUD)価格ベースで約 6 年間です。この図から、CO2システムを 20 年間(CO2 ボトルの寿命とほぼ同じ)使用すると、長期的に大幅なコスト削減ができることもわかります。

分析性能:信号改善の評価
各元素のプラズマへの CO2 添加による信号改善を評価するため、2 種類の Agilent PA チューニング溶液(部品番号 5188-6524)をそれぞれ 1 mL を 3 % の NHO3で 50 mL にしました。表 1 に、バラストタンクからプラズマに供給される異なる CO2 濃度(5.4 %、8.1 %、8.4 %、13.4 %)を用いた場合の、選択された元素の増幅係数を示します。図 3 は、バラストタンクから最適な濃度(5~9 %)で CO2 を供給すると、As の信号が大幅に増幅することを示しています。濃度が約 8 % のときに最大値を示します。15 % のオプションガス流量でバラストガスをプラズマに導入すると、プラズマ中の最終炭素含有量は 0.75~1.35 % に相当します。1.2 % のときに最大値を示します。


CO2 のコストと性能のメリット
この研究は、プラズマイオン化で炭素増強のために CO2 を酢酸の代わりに使用すると、経済性が向上することを示しています。これは民間ラボにコスト削減と分析性能の向上というメリットをもたらします。
ASC は、多元素分析における炭素増強のメリットを最大化し、プラズマ中で形成される酸化物の増加という悪影響を最小限に抑えるために、約 5 % の CO2 をバラストタンク内の Ar 中の炭素含有量として推奨しています。
詳細については、当社のホワイトペーパーの記事をご覧ください。
DE-003353