生物系内の元素成分と金属の役割を理解することは、臨床、医療、医薬品、食品、環境などの幅広い分野における重要な研究領域です。研究者たちは通常、さまざまなバイオイメージングおよびメタボロミクス手法を用いて分析対象サンプルを調査します。例えば液体クロマトグラフィー(LC)-ICP-MS、単一細胞(sc)-ICP-MS、レーザーアブレーション(LA)-ICP-MS などの手法があります。これらはそれぞれ、タンパク質の定量1、単一細胞分析2、バイオイメージングに広く使用されてきました。バイオイメージングは組織、細胞、低分子量化合物を視覚化します。メタボロミクスは、生物学的構造における金属の機能と役割を調査します。
この記事でも紹介していますが、日本を拠点とする 2 つの研究グループが、LA-ICP-MS を使用して固体サンプルの表面の元素の局在に関する詳細情報を提供しています。日本医科大学付属病院(東京)の病理診断科の堂本裕加子氏のグループは、Agilent 8900 ICP-QQQを用いてヒトの心臓サンプルの薄片上の金属分布を調査しました。京都大学大学院医学研究科(京都)のがん免疫総合研究センター、マルチオミクスプラットフォームの杉浦悠毅氏のグループは、Agilent 7900 ICP-MSを用いてマウスの腎臓サンプルを研究しました。
LA-ICP-MS と ソフトウェアの互換性
それぞれの研究で、8900 ICP-QQQ と 7900 ICP-MS を、アルゴン(Ar)マスフローコントローラ(Elemental Scientific Lasers 社、ボーズマン、モンタナ州、米国)を搭載した ESL213 レーザーアブレーションシステムと組み合わせて使用しました。一部の国では、ヘリウム(He)ガスの供給が不足した場合に Ar がキャリアガスおよびメークアップガスとして代用されていました。
LA システムはAgilent ICP-MS MassHunter ソフトウェアから直接、ActiveView2(AV2)プラグイン経由で制御しました。このプラグインは ICP-MS MassHunter 用に ESL が開発したものです(図 1)。これにより、完全統合型のサンプル分析、データ処理、レポート作成が可能になります。

分析のワークフロー
表 1 および 2 に、LA-ICP-MS の測定条件を示します。


心臓サンプル中の金属の分布
心筋梗塞(MI)は冠状動脈内の血栓や閉塞により引き起こされます。(陳旧性心筋梗塞と呼ばれる)慢性期には、心筋が線維化し、アザン染色では青色の領域として現れます(図 2a を参照)。また、8900 の O2 マスシフトモードを用いて LA-ICP-MS で測定した31P、44Ca、and 56Fe の濃度は、左側の領域で他の領域より低下しています(図 2(b~d)を参照)。2 つの補足的手法の結果から、LA-ICP-MS から得られた金属分布情報を、組織内の細胞生存率の指標として使用できることがわかりました。

マウス肝臓の金属タンパク質の特徴的局在
C57BL/6 マウス肝臓の 10 μm の薄片を、H2 および He モードの 7900 を用いて LA-ICP-MS で分析しました。図 3 の画像は、95Mo、98Mo、56Feが存在することを示しています。95Moと98Moのパターンは類似しています。これはメソッドの信頼性を示しています。モリブデン信号は、肝臓に同位体が蓄積し、モリブドプテリン補因子として存在していることを示しています。56Fe信号は主に、サンプルの中心下部の血管を囲んでおり、赤血球との一致度が高くなっています。これは、ヘム鉄が存在することを示しています(図 3c)。図 3a と図 3c を重ねると、56Feと95Moが特定の領域で検出されていることがわかります(図 3d)。これは、組織中の金属タンパク質の特徴的局在を示しています。

統合型 LA-ICP-MS メソッドのメリット
この研究は、薄片のバイオイメージングにおいて、Agilent 8900 ICP-QQQ および Agilent 7900 ICP-MS と ESL LA システムの組み合わせが高性能を発揮することを示しています。データから、細胞病変による金属蓄積と、細胞中の金属タンパク質と補因子の特徴的局在に関する有用な知見を得ることができました。
詳細情報については、研究の概要をご覧ください。
本製品は一般的な実験用途での使用を想定しており、診断の用途にご利用いただくことはできません。
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