Agilent ハンドヘルド Vaya ラマン分光装置を用いた透明および不透明な容器越しの医薬品原材料の同定と検証について、よく寄せられる質問と回答をまとめました。このページでは、原材料の同定に関連する空間オフセット型ラマン分光(SORS)技術、ハンドヘルドラマン分光での蛍光対策、フーリエ変換赤外分光(FTIR)とラマン分光との比較、およびハンドヘルドラマン分光のコンプライアンスなどの FAQ を含む情報をご覧いただけます。


空間オフセット型ラマン分光とは

Agilent ハンドヘルド Vaya ラマン分光装置は、空間オフセット型ラマン分光(SORS)というラマン分光から派生した手法を使用しています。この手法では、各種の容器内にある原材料の分析が可能です。SORS は英国オックスフォードシャーにある Rutherford Appleton Laboratory で、Pavel Matousek 教授とそのチームが混濁媒質のディーププロービング用に開発しました。現在の英アジレント・テクノロジーである Cobalt Light Systems が、この技術を応用して不透明な容器内の材料の同定や検証を可能にしました。利用方法としては、災害や事故現場など緊急時の初期対応者による有害物質の特定や、空港のセキュリティ管理者による保安区域での禁止物質の検出などが想定されていました。また、製薬会社による原材料の受領時の検証にも活かせると予想されていました。SORS では分析対象物の表面のさらに奥にある層を分析できます。その点で、従来の後方反射タイプのラマン分光とはまったく異なります。容器内の原材料を分析する場合、SORS が生成する原材料のスペクトルは、容器からの干渉を受けません。詳しくはこちらをご覧ください。

ハンドヘルド Vaya ラマン分光装置での蛍光対策について

ラマン分光では、近赤外(NIR)領域の波長のレーザーを使用して蛍光を軽減できます。NIR 領域のレーザーは分析対象物を電子的に励起しにくく、蛍光をそれほど誘起しないからです。レーザーの波長が長くなるにつれ、ラマン信号は急激に弱まります。また、一般的なハンドヘルド機器の検出器は、NIR 領域で感度が低下します。ラマン分光装置は、蛍光の軽減とシグナル/ノイズ比をうまく両立させる必要があります。Agilent ハンドヘルド Vaya ラマン分光装置は 830 nm のレーザーを用いて、蛍光の大部分を軽減します。一方で容器越しの SORS アプリケーションに必要な高品質の信号を維持します。

Vaya ラマン分光装置の一般的なスキャン時間について

Vaya ラマン分光装置による容器越しの原材料スキャンは、ごく短時間で完了します。多層紙越しのスキャンによる同定の場合は、より時間がかかることがあります。

Vaya ラマン分光装置に必要な消耗品はありますか

Vaya ラマン分光装置で必要な消耗品は、機器と外部の光学部品を清潔に保つためのクリーニング用品だけです。

Vaya ラマン分光装置で頻繁に交換しなければならない部品はありますか

Vaya ラマン分光装置で使用されているレーザー、検出器、モーターは、寿命の長さを考慮して選択しました。Vaya システムのほかのどの部品も、経年劣化しにくいものです。

Vaya ラマン分光装置および SORS の技術で分析できる原材料は何ですか

分析できるもの医薬品製造の分野で提供される原材料の 85 % に対応しています。

  • 有機材料(医薬品の有効成分、有機溶媒、ポリマーなど)
  • 多原子の無機物(硫酸マグネシウム、重炭酸ナトリウム、二酸化チタン、リン酸カルシウムなど)
  • 単結合を含む分子:C-C、C-H、C-O(脂肪族、糖/スターチ/セルロースなど)
  • 高極性の低分子(エタノールなど)

分析できないもの

  • 共有結合のない物質:イオン種のみ(NaCl、KCl)
  • 植物ベースの物質など、蛍光性の高いサンプル
  • 黒または暗い色のサンプル(物質がレーザー光を完全に吸収することがあるため)

ラマンアプリケーションを扱うアジレントのチームが、お客様の原材料と容器のリストを評価し、Vaya ラマン分光装置が適応するかチェックします。

Vayaに関する販売およびサポートは、ジャパンマシナリー株式会社に委託しております。
お問い合わせはジャパンマシナリー株式会社までお願いいたします。
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Vaya ラマン分光装置は液体および固体を分析できますか

Vaya ラマン分光装置は、ゲル、ペースト、 粉末など、液体および固体の分析と検証に対応しています。ラマン分光自体に関連する制限以外に、Vaya ラマン分光装置に化学的な制限はありません。ラマン分光は共有結合の振動を調べるため、共有結合のある物質であれば分析できます。共有結合のない物質では、ラマン信号が得られません。塩化ナトリウムや塩化カルシウムなどの純粋なイオン性化合物、鉄などの単体はラマンシグネチャがありません。

Vaya ラマン分光装置の性能は簡単に検証できますか

Vaya ラマン分光装置は追跡可能な試験ピース(ポリスチレンの層の上に PTFE の層を重ねて製造)を使用しています。分光装置の性能を検証し、工場の要件や薬局方の要件に確実に適合させることができます。Vaya ラマン分光装置では、具体的には以下についてチェックできます。

  • X 軸/波長正確度
  • X 軸/波長精密度
  • 測光/強度/Y 軸精密度
  • レーザー出力

Vaya ラマン分光装置で使用しているレーザーの種類、および実施すべき安全対策について

Vaya ラマン分光装置は、830 nm レーザー Class 3B システムとして分類されます。アジレントでは、このシステムの使用時は常にレーザー用の安全ゴーグルの着用を推奨しています。各 Vaya ラマン分光装置に安全ゴーグル 1 つ(830 nm レーザーのため LB5 以上) が付属します。Vaya 分光装置は、21 CFR Part 1040.10 のレーザーおよびレーザーシステム規格に準拠しています。また、ソフトキースイッチと緊急停止ボタンもあります。装置上に適切な警告ラベルで示してあります。使用に先立ち、レーザーの安全トレーニングが推奨されます。

原材料の同定と検証における FTIR とラマン分光の比較:SORS は FTIR の代わりになりますか

FTIR 分光光度計とラマン分光装置は、医薬品製造業界で長年、納入原材料の検証によく使用されてきました。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)は米国薬局方に記載されている手法です。湿式化学ベースの手法に代わる同定方法として推奨されています。FTIR には、特定周波の赤外線を吸収し、検査対象物質の化学構造に存在する官能基の振動パターンとリンクさせるという、優れた特殊性があります。赤外線信号の質と強さは、光路長と検出器の感度にほぼ依存しているため、FTIR では光路長を制御する必要があります。また、結果としてサンプリングも必要となります。FTIR 機器は一般的に、サンプリングと分析条件の必要性に合わせて、サンプル前処理の追加手順なしに固体と液体を同様に扱うことのできる減衰全反射インターフェースのあるラボで使用されます。

ラマン分光は、分析対象の物質とレーザー光との相互作用に基いており、結晶多形のような極めて密接に結び付いた構造物を識別できます。ラマン分光は FTIR の相補的な手法であり、物質内の振動の仕方と単色光による仮想状態への励起を調べることで分析します。その後の脱励起は、通常は単色光(つまりレーザー光)を上下にシフトさせ、分子内の基本構造に特異的なバンド(シフト)のあるラマンスペクトルを生成します。ラマン分光には FTIR で必要となるような分析条件はありません。また、透明および不透明の容器越しでも分析を実施できます(詳細は「How SORS Works(SORS のしくみ)」をご参照いただくか、技術概要『空間オフセット型ラマン分光を用いた原材料の確認』をご一読ください)。ラマン分光装置は小型化が可能です。また、長寿命のレーザーと耐振動性のある分光装置および検出器により、耐久性も高められます。必要に応じてハンドヘルド分光装置が用いられることはよくあります。

SORS および Vaya ラマン分光装置が対応している容器は何ですか

SORS およびハンドヘルド Vaya ラマン分光装置は、医薬品関連の製品で用いられる原材料の容器の大部分に対応しています。さまざまな賦形剤や有効成分を、包装紙や青い樹脂ドラム缶、不透明のポリエチレン製バケツ、茶色のボトルや色付きプラスチックのライナ越しに同定できます。金属およびファイバーボードの容器は、内側のプラスチックライナ越しに分析するため、または分析前にサンプリングするために、蓋を開ける必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。

ラマンアプリケーションを扱うアジレントのチームが、お客様の原材料と容器のリストを評価し、Vaya ラマン分光装置が適応するかチェックします。

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ハンドヘルド Vaya ラマン分光装置には特別なメンテナンスが必要ですか

ハンドヘルドVaya ラマン分光装置には特別なメンテナンスは不要です。ただし、クロスコンタミネーションを防ぐために、必ず清潔にしておく必要があります。機器のキャリブレーションは常にモニタリングされており、頻繁な再キャリブレーションは必要ありません。アジレントでは年次の点検サービス(PM)をお勧めしています。機器が適切に動作していることを確認できます。

Vaya ラマン分光装置に搭載されているハードディスクのサイズについて

メソッドとデータファイルを保持している SSD は 128 GB です。多用しても、1 年分を超えるデータ量を十分に保存できます。Vaya ラマン分光装置のユニットでは、データは一時的な保存のみを想定しています。そのため、データの保管先として使用すべきではありません。データの完全性のために、保護された LAN 上のフォルダにデバイスから頻繁にデータを転送するように、ポリシーで定めておくのが良いでしょう。また、各シフトの終了時や毎日の分析の完了時に、システムのデータを同期しておくことをお勧めします。

機器が正常に動作していることをどうすれば確認できますか

Vaya ラマン分光装置には、性能評価(PV)や性能適格性評価(PQ)ツールとして使用できるシステムチェック機能が含まれています。システムチェック機能は、波長正確度および精密度、測光精度、レーザーの出力を、薬局方の要件に照らして検証します。システムの管理者は、各バッチの分析の前後にシステムの性能チェックを実施し、機器が使用に適していることを実証できます。

ハンドヘルドラマン分光装置のコンプライアンス:Vaya ラマン分光装置は GMP 環境で使用できますか

ハンドヘルド Vaya ラマン分光装置はそもそも、GMP 環境での使用を想定して設計されています。利用できる機能には、21 CFR Part 11 や EU Annex 11 の要件への準拠を目的として、監査証跡、ログイン認証を使用したアクセス制限、ユーザーレベルで異なるアクセス範囲の設定、データを削除や改ざんから保護するデータ完全性のソリューションが含まれています。また、広く用いられている各国薬局方(USP、EP、JP、CP)で定められた要件や、特定の分光装置の要件、機器の適格性評価と導入、メソッド開発、さらに各バリデーションセット(USP <1858>、USP <858>、USP <1225>、ICH Q2(R1)、EP 2.2.48)での要求を満たすためにも役立ちます。

Vaya ラマン分光装置で原材料同定のメソッドを開発する必要がありますか

ハンドヘルド Vaya ラマン分光装置は、スペクトルのライブラリを含みません。製薬会社は商用オフザシェルフ(COTS)のスペクトルライブラリを使用できません。ライブラリのトレーサビリティが確保できないためです。また、容器と原材料は多彩であり、ライブラリにすべて含めることはできません。同定する原材料および容器ごとに、機器でメソッドを開発する必要があります。