HIV/AIDS、マラリア、中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)に使用される複数の既存の抗ウイルス薬が、現在 COVID-19 の治療法として研究されています。そのうちのいくつかは、すでに COVID-19 治療のための臨床試験に入っています。英国のカンタベリーの作家、Charlotte Harrison 氏は、「既存の抗ウイルス薬や SARS および MERS の流行から得た知見は、現在のコロナウイルスによるパンデミックと戦うための最速ルートとして注目を集めています」と、述べています。同様に、米国国立衛生研究所のウイルス生態部主任の Vincent Munster 氏は次のように指摘しています。「MERS、SARS、[SARS-CoV-2] ウイルスの全般的なゲノム構造と複製動態、および生態は非常に似ています。したがって、コロナウイルスの比較的一般的な部分をターゲットとした医薬品の試験は必然的なステップです」

抗ウイルス薬、抗生物質、抗寄生虫薬などの低分子医薬品の場合、一般的に、創薬、合成、製造の 3 つの段階を伴います。

  • 第 1 段階では、開発と合成につながる薬剤の有効成分を獲得します。
  • 第 2 段階では、安定性を高め、体に吸収されやすくするために、薬剤を改変します。
  • 第 3 段階では、薬剤の充填(錠剤やバイアルなど)を行います。

ここでは、世界中の臨床試験で行われている低分子医薬品の COVID-19 治療への転用について、複数の著者が発表した学術論文の概要をご紹介します。

COVID-19 治療に転用される低分子医薬品

研究目的

実験の詳細

記事へのリンク

レムデシビル
抗ウイルス薬、コロナウイルスの RNA 合成を阻害するアデノシンヌクレオチド類似体

この記事で著者は、親ヌクレオチドの構造活性相関(SAR)、プロドラッグの最適化と選択、創薬候補 G の合成最適化について詳しく説明しています。強固なジアステレオ選択合成により臨床前有効性試験に十分な量のレムデシビル(GS-5734)を獲得しました。

Agilent JetStream サーマルフォーカシングテクノロジーを搭載した Agilent モデル 6230 精密質量飛行時間型質量分析計Agilent 1200 Rapid Resolution HPLC を組み合わせ、高分解能質量分析(HRMS)を実施しました。Agilent ZORBAX Eclipse Plus C18 RRHD(1.8 µm、2.1 × 50 mm カラム、30 ℃)を使用して HRMS クロマトグラフィーを行いました。

エボラおよび新興ウイルスの治療のための、ピロロ[2,1-f][トリアジン-4-アミノ]アデニン C‐ヌクレオシド(GS-5734)のホスホロアミド酸プロドラッグの創薬と合成

 

この記事で著者は、細胞ベースのアッセイにおける EBOV およびその他のフィロウイルスの複数の変異体に対する GS-5734 の抗ウイルス活性について報告しています。GS-5734 の薬物動態、薬物代謝、分布(DMPK)を非ヒト霊長類で評価しました。

この DMPK 研究では、 血漿サンプルをタンパク変性沈殿処理し、Agilent Captiva 96 ウェル 0.2 µm フィルタープレートでろ過しました。UHPLC にトリプル四重極質量分析計を組み合わせてサンプルを分析しました。

アカゲザルでのエボラウイルに対する低分子 GS-5734 の治療効果

イマチニブ
チロシンキナーゼ阻害剤、抗腫瘍薬

著者は、ヒト血清サンプルでメシル酸イマチニブ(IM)とその活性代謝物である N-デスメチルイマチニブ(M1)を同時に検出するための、シンプルで高感度なメソッドを開発しました。イマチニブが投与された慢性骨髄性白血病患者の薬物動態パラメータの計算に、このメソッドを適用できました。

Agilent 1200 シリーズ高速高分離クロマトグラフィーシステム(RRLC)Agilent ZORBAX Eclipse plus C18 逆相カラム (50 mm × 2.1 mm、内径 1.8 µm)を使用して、分離に成功しました。

メシル酸イマチニブと N-デスメチルイマチニブの同時定量のための高速高分離液体クロマトグラフィー/UV 検出を利用する方法の開発と検証

ロピナビル
抗ウイルス薬、免疫抑制

バルク原薬および医薬品の剤形でのロピナビルの定量のために、イソクラティック逆相液体クロマトグラフィー(RP-LC)アッセイのメソッドを開発しました。

著者は、Agilent ZORBAX SB- C18 250´ 4.6 mm(5 mm)を使用し、HPLC システムでクロマトグラフィーによる分離を行いました。

ロピナビルのための安定性評価 LC メソッド

リトナビル
抗ウイルス薬、免疫抑制

著者は、積層タンパク変性沈殿処理と塩析支援液液抽出(SALLE)、Ultra-fast LC-MS/MS 検出により、ヒト血漿中に存在するロピナビルとリトナビルを高速かつ同時に測定するメソッドを開発しました。

著者は、Agilent ZORBAX Extend-C18 Rapid Resolution HT カラム(1.8 µm、2.1 mm × 30 mm)を使用し、48 秒の LC 測定により超高速分離を行いました。

積層タンパク変性沈殿処理と塩析支援液液抽出、および Ultra-fast LC-MS/MS 検出による、ヒト血漿中のロピナビルとリトナビルの高速同時測定

ウミフェノビル
インフルエンザ感染症のための抗ウイルス治療

バルク原薬および錠剤形でのウミフェノビルの測定のために、新しい安定性評価 RP-UFLC メソッドが提案されました。このメソッドは検証され、強制分解の研究に使用されました。

Agilent C18 カラム(150 mm × 内径 4.6 mm、粒子サイズ 3.5 µm)を使用し、クロマトグラフィーによる分離に成功しました。

錠剤形のウミフェノビルの測定のための、新しい安定性評価超高速液体クロマトグラフィーメソッド

アジスロマイシン
マクロライドタイプの抗生物質

著者は、バルク原薬および医薬品の剤形でのアジスロマイシン、フルコナゾール、オルニダゾールの同時推定のために、高速でより高感度な、新しい逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)メソッドを開発し、検証しました。

著者はAgilent Zorbax SB C18(250 mm × 4.6 mm、5 µm)を使用し、クロマトグラフィーによる分離を行いました。

組合せ剤形のアジスロマイシン、フルコナゾール、オルニダゾールの同時推定のための、安定性評価液体クロマトグラフィーメソッドの開発と検証

テイコプラニン
マクロライドタイプの抗生物質

この研究では、ヒト血漿中の 2 種類の糖ペプチド(バンコマイシン、テイコプラニン)および 2 種類の低分子化合物(メロペネム、ボリコナゾール)の同時測定のために、新しい高スループットの液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)アッセイを開発し、検証しました。

Agilent ZORBAX SB-C18 カラム(4.6 × 50 mm、2.7 µm)でターゲット化合物を分離し、トリプル四重極質量分析計を使用してポジティブイオンモードで分析を行いました。

ヒト血漿中の 2 種類の糖ペプチドおよび 2 種類の低分子化合物の同時測定のための LC-MS/MS アッセイ

メフロキン
抗マラリア薬

著者たちは、薬物併用療法の経口吸収における医薬品の吸収や薬物動態相互作用を理解するために、P-糖タンパク質(P-gp)などの排出トランスポーターに対する、抗マラリア薬の親和性を調査しました。可能性のある医薬品吸収関連の問題、および医薬品の P-gp 仲介輸送のモデルとして、体外診断用 Caco-2 単層セルを使用しました。

この研究では、Agilent 1200 シリーズと逆相クロマトグラフィーによる分離により、HPLC 分析を実施しました。Agilent Bond Elute OMIX 96 C4 100 µL ピペットチップにより HBSS 中の塩を除去しました。

P-糖タンパク質と基質親和性、阻害および調節を含む抗マラリア薬との相互作用