GC/MS および GC/MS/MS アナライザによる高速・高感度PAH 分析を実現

Denise Ibens
アジレントソリューションマネージャ

原油に広く含まれる多環芳香族炭化水素 (PAH) は、環境中に残留する化合物で、発がん性をもつおそれもあります。魚介類や堆積物、水に含まれる PAH の分析に取り組むラボが増えている今、メソッド開発の時間や分析開始までの時間を短縮する方法が求められています。工場で化学的にテストされ、あらかじめ完全に設定されたアナライザを使えば、環境サンプルや食品サンプルに含まれる PAH の高感度 GC/MS および GC/MS/MS 分析が容易になります。

PAH は微量でも発がん性を示すおそれがあるため、米国環境保護庁 (U.S. EPA)、米国食品医薬品局 (U.S. FDA)、米国海洋大気庁 (NOAA) をはじめ、世界中の多くの規制当局の汚染物質リストに含まれています。海洋環境では、PAH は水質汚染化合物として食物連鎖により生物内に取り込まれたり、汚染された堆積物を通じて生体内に吸収されたりします。PAH は親油性化合物なので、脂質膜を容易に通過し、水生生物の体内で生物濃縮されます。そのため、食品、水、土壌中の PAH の分析は、人体の安全を守るために欠かせません。

高感度の高速分析を実現する、使いやすい PAH アナライザ

Agilent 7890A GC システム7000 シリーズトリプル四重極 GC/MS/MS をベースにした工場テスト済みのトリプル四重極 GC/MS/MS PAH アナライザは、ラボの生産性を向上させ、使用 1 日目から一貫した高品質データを提供します。PAH 分析用にあらかじめ設定され、アジレントの製造施設でテストが実施されています。最終テストに合格した後、システムはお客様のラボに出荷され、テストで確認されたものと同じ設定で据付けられます。そのため、通常は設定するのに数時間から数日かかるメソッドを、システム到着後すぐに実行することができます。

図 1 には、500 ppb の内部標準を含む (NOAA メソッドに準拠) 濃度 100 ppb の PAH 標準混合物のマルチプルリアクションモニタリング (MRM) 分析により得られたトータルイオンクロマトグラム (TIC) を示しています。

GC/MS/MS PAH アナライザは、時間を節約し、最高の結果を実現する最先端の技術と機能を備えています。優れた選択性、微量レベルの感度、堅牢性を実現する Agilent キャピラリ・フロー・テクノロジー (CFT) のバックフラッシュ機能も搭載しています。バックフラッシュは、ポストカラムに接続した CFT パージドユニオンを通じて実行されます。このバックフラッシュによりカラムベイクアウトを排除できるため、サイクル時間が短縮され (図 2)、イオン源洗浄の必要も少なくなります。

魚介類などの複雑なサンプルの PAH 分析では、サンプル前処理に時間がかかることがあります。GC/MS/MS PAH アナライザでは、ゲル浸透クロマトグラフィ (GPC) を用いた長くて手間のかかるメソッドのかわりに、アナライザに搭載された Agilent SampliQ QuEChERS キットを用いたメソッドを利用することができます。このキットを使えば、抽出と固相抽出 (SPE) を用いた簡単かつ迅速なサンプル前処理手法によりサンプルを精製することができます。また、QuEChERS サンプル前処理メソッドには、塩素系溶剤は必要ありません。

  25 ppb
spike 1
25 ppb
spike 2
25 ppb
spike 3
Avg %
Rec
Acenaphthylene 23.8 25.0 25.7 99
Acenaphthene 23.3 24.8 22.5 94
Fluorene 31.3 30.6 29.2 121
Phenanthrene 24.5 27.1 26.4 104
Anthracene 22.5 23.6 24.3 94
Fluoranthene 25.7 25.9 26. 105
Pyrene 22.9 22.9 24.1 93
Benz[a]anthracene 29.2 27.9 29.9 116
Chrysene 24.0 23.4 24.3 96
Benzo[b]fluoranthene 22.0 23.1 23.6 92
Benzo[k]fluoranthene 20.7 21.9 22.2 86
Benzo[a]pyrene 27.0 29.5 31.7 117
Dibenz[a,h]anthracene 18.8 19.4 19.9 77
Indeno[1,2,3-cd]pyrene 17.3 17.9 18.7 72
Benzo[ghi]perylene 17.3 18.0 18.7 72

Avg % Rec = 平均回収率
表 1. QuEChERS を用いて前処理したイガイ組織中 PAHの回収率。

図 1. 100 ppb レベルの PAH をGC/MS/MS アナライザで分析した例。分析時間が大幅に短縮されています(画像を拡大するにはここをクリックします)
図 2. 石油中の PAH の分析例。20 分も分析時間を短縮しています(画像を拡大するにはここをクリックします)

表 1 は、25 ppb でイガイ組織に添加した PAH の優れた回収率を示しています。抽出には Agilent QuEChERS 抽出キットを、精製には QuEChERS 分散 SPE キットを使用しています。GC/MS/MS MRM および GC/MS 選択イオンモニタリング (SIM) の両方で抽出物を測定しましたが、いずれも同様の回収率が得られています。

トリプル四重極 GC/MS/MS PAH アナライザには、バックフラッシュ機能と QuEChERS サンプル前処理機能が組み込まれているため、全体の分析時間を 5 分の 1 に短縮すると同時に、検出下限を向上させることが可能です。

このアナライザでは、Agilent J&W DB-EUPAH GC カラムを使用しています。このカラムは、規制対象となるすべての PAH において、最高の性能が得られるように設計され、最適化およびテストされています。

シングル四重極 GC/MSD PAH アナライザも提供

アジレントでは、トリプル四重極 GC/MS/MS PAH アナライザに代わる選択肢として、Agilent 7890A GC システムと Agilent 5975C シリーズ GC/MSD をベースにしたシングル四重極 GC/MSD PAH アナライザも提供しています。こちらも工場であらかじめ設定され、テストが実施されています。このアナライザを使えば、NOAA の PAH メソッドを実行できます。キャピラリフローテクノロジーのバックフラッシュ機能、QuEChERS サンプル前処理機能、迅速なデータレビューを可能にするデコンボリューションレポート作成ソフトウェアを搭載しています。この GC/MSD PAH アナライザを使えば、分析メソッド全体を大幅に改良し、同じ時間でこれまで以上のサンプル数を分析することが可能になります。

すぐに分析を開始するために必要なものを完備

どちらのアナライザにも、システム専用の CD が付属します。この CD には、メソッドやデータファイル、アプリケーションノート、アプリケーションをすぐに開始するためのクイックスタートガイドが収録されています。これらのアナライザは、短い時間で信頼性と感度の高い分析を実行する必要のあるラボに、迅速で手間のかからないソリューションを提供します。

アジレントの提供する機器やアナライザ、消耗品、そして優れた専門知識は、標準的な NOAA メソッドでも新しい分析テクニックでも、時間を節約すると同時に、信頼性の高い正確な分析結果を実現します。石油汚染物質分析に関する機器やアプリケーション、技術に関する詳細については、アジレントの Web サイトをご覧ください。

Agilent トリプル四重極 GC/MS/MS PAH アナライザとシングル四重極 GC/MSD PAH アナライザの詳細をご覧ください。これらの手間のいらない、使いやすいアナライザにより得られる利点については、お近くのアジレント代理店にお問い合わせください。