透過型ラマン分光(TRS)と Agilent TRS100 を用いた含量均一性試験、多形分析、結晶化の分析に関する FAQ への回答を以下に掲載しています。TRS 技術、メソッド開発、製薬 QC のコスト削減、製品の互換性、規制の状況などの基本についてご確認ください。
TRS100 は、含量均一性試験や製剤の開発などのアプリケーション専用の医薬品アナライザです。このシステムは、QC ラボの試験スループットや運用効率の向上に役立つ汎用性の高い分析ツールです。
この技術はこれらのアプリケーションに最適です。ラマンにはシャープで明確なピークという特徴があるためです。このため、複雑な混合物に含まれる個々の化合物を容易に特定できます。この情報は、定性分析と定量分析のいずれにも使用できます。
従来の後方散乱ラマンとは異なり、透過型ラマンではレーザーからサンプルを挟んで反対側に検出器が配置されています。この「透過型形状」を使用することで、サンプルのバルクを表す信号を得ることができます。このため、信号がサンプル表面に偏向するサブサンプリング効果を軽減できます。サブサンプリング効果は後方散乱ラマンで一般的に発生する問題です。
TRS100 では 830 nm レーザーを使用しています。これを選択したのは、(必要な)ラマン信号と(不要な)バックグラウンド蛍光の間のバランスを取り、医薬品サンプルで最高品質の結果を得るためです。透過型ラマンは非常に高速な手法です。サンプルサイズによりますが、医薬品サンプルは通常 30 秒~1 分でスキャンできます。
さらに TRS100 サンプルトレイシステムにより最大 100 個の錠剤を 1 枚のトレイに配置できるため、数百個のサンプルを非常に高速でスキャンできます。アジレントは錠剤、カプセル、薬包、バイアル、キュベット、製剤見本、パッチ用にさまざまな標準サンプルトレイをご用意しています。また、お客様の仕様に合わせたカスタムトレイ設計も提供します。
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透過型ラマンはバルク分析技法であり、次のような他のほとんどのラマン分光法とは大きく異なります。
後方散乱ラマン
従来の後方散乱ラマン分光は科学的に特異な分析法であり、シャープで明確なピークを得られるため、複雑な混合物中の個々の化合物を容易に特定できます。ラマンは指紋手法であるため、測定したスペクトルを既知のスペクトルと比較することでサンプルの分子構造を把握できます。またラマンは非破壊的、非侵襲的であり、サンプル前処理が不要です。ただし、従来の後方散乱ラマンは表面層に限定されるため、得られるスペクトルは通常、サンプル全体を表すものではありません。
透過型ラマン
透過型ラマンの構成では、レーザーからサンプルを挟んで反対側に信号検出器が配置されています。レーザーの光子がサンプルの(表面だけでなく)全体を照射するため、材料のバルクを表す信号やスペクトルを得ることができます。バルク測定ではすべてのラマン活性化合物をキャプチャできるため、同じサンプルの錠剤、カプセル、粉末に含まれる複数の医薬品有効成分(API)を予測できます。TRS100 ではトレイシステムを使用してサンプルを配置します。そのため 1 回のセッションで数百個のサンプルをスキャンできます。さらに、アジレントのシステムでは 830 nm のレーザーを使用しています。これを選択したのは、特に医薬品サンプルの分析で信号と競合蛍光の間のバランスを取るためです。
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TRS100 の主なアプリケーションは次の 2 つです。
含量均一性試験、分析、同定
1 つ目の最大のアプリケーション分野は、医薬品品質管理(QC)ラボでの定量試験、例えば含量均一性、分析、同定などの試験です。これらは製造プロセスの最後に実施される必須の試験であり、製品品質にとって非常に重要です。従来、このような試験には HPLC が使用されていましたが、サンプル前処理にリソース、手間、時間がかかり、最終的にコストが非常に高くなる可能性がありました。そのため、代わりの分析ワークフローとして TRS100 が使用されるようになりました。TRS100 は高速で非破壊的であり、サンプル前処理、溶媒、消耗品が不要で廃棄物も出ません。
含量均一性試験の結果を 15 分未満で得られることは非常に魅力的です。QC ラボで TRS100 を分析ワークフローの一部として導入すると、全体的な運用効率が向上し、コストを削減できます。

Agilent TRS100 は従来のワークフローと比べて、含量均一性試験を高速かつ効率的に、高いコスト効率で実行できます。コストを削減できる最大の要因は、サンプル前処理にかかる作業、時間、リソースが不要であることです。TRS はインタクトサンプル全体を分析するため、サンプル前処理が不要です。さらに高速で分析できるため、CU 結果を 15 分未満で得ることができます。
結晶化および多形分析
TRS100 の 2 つ目のアプリケーション分野は、結晶化および多形分析を必要とする固体アプリケーションです。例えば医薬品の研究開発や製剤開発などです。
薬の固形状が異なるとラマンスペクトルが異なることはよくあるため、結晶化を測定(場合により定量)できます。
例えば、同じサンプルを繰り返し分析して形状の変化を調べる安定性試験などがあります。TRS は非破壊的なバルク分析法であるため、サンプルを破壊せずに中身を「把握」し、科学的変化を追跡できます。または、特定の多形による不十分な混合などの重要品質特性や、分析対象の特定の多形が特許に記載されているかどうかの調査にも使用できます。サンプルの成分を迅速かつ非破壊的に把握できるので、このようなアプリケーションに便利です。
TRS100 のユーザーは、システムをさまざまな医薬品関連のアプリケーションに使用しています。次のオンデマンドウェビナーで実例をご紹介していますのでご覧ください。
TRS100 がお客様の製品の分析に適しているかどうかを確認されたい場合は、こちらからお問い合わせください。アプリケーションや実際のサンプルを使用したデモについてご相談させていただきます。
TRS100 で含量均一性の分析結果を生成するには、分析メソッドを開発する必要があります。
分光分析メソッドの開発プロセスについては、FDA と EMA の規制ガイダンス、米国薬局方の <858> Raman Spectroscopy および <1858> Raman Spectroscopy – Theory and Practice の各章、欧州薬局方の 2.2.48 章に詳しく記載されています。
ガイダンスでは、キャリブレーション、バリデーション、モデルメンテナンスの反復的なプロセスについて説明しています。
最終的に、機器でスキャン対象を同定するには、機器をトレーニングして未知のサンプルを認識および定量できるようにする必要があります。TRS100 を用いた含量均一性分析は、常に二次的な参照手法です。TRS100 は、一次的分析メソッド(通常は HPLC)と比較できる分析結果を提供します。
メソッド開発プロセスではまず、既知濃度のキャリブレーションサンプルを前処理します。これらを TRS100 でスキャンしてから、HPLC で分析します。こうして各サンプルの含量を正確に測定し、このデータを使用してケモメトリックモデルを作成します。TRS100 でスキャンした、慎重に選択した独立サンプルを用いてこのモデルの試験を実施してから HPLC で再分析します。このプロセスによってケモメトリックモデルの性能をバリデーションして、それが高精度で正確かつ堅牢に機能することを証明します。その後、完成したメソッドを使用して新しいサンプルを分析し、含量均一性の予測結果を取得できます。
TRS100 のユーザーは、システムをバッチリリース試験に使用しています。そのメソッド開発の実例について、次のオンデマンドウェビナーでご紹介しています。ぜひご覧ください。
アプリケーションやメソッド開発に関するご質問、および TRS100 のデモのご要望については、こちらからお問い合わせください。
含量均一性分析ワークフローの検討にあたり、最大のコスト削減要因は多くの場合、サンプル前処理です。TRS100 の含量均一性試験ワークフローではインタクトサンプル全体が分析されるため、サンプル前処理が不要です。このためサンプル前処理にかかる時間だけでなく、リソース、装置、手間もすべて削減できます。ガラス容器、追加の装置、溶媒、廃棄物、洗浄作業も不要です。
時間を節約できる 2 つ目の理由は、サンプルの測定時間が短いことです。TRS100 ではサンプル測定が非常に高速で、通常はサンプルあたり 1 分未満です。前述のとおり、分析結果の生成に溶媒や追加の消耗品は不要です。
つまり、TRS100 を含量均一性試験に使用すると、分析ワークフローのコストを大幅に削減できます。ただし、含量均一性の分析結果を取得するための分析メソッドの開発にコストがかかるので、注意が必要です。キャリブレーションサンプルとバリデーションサンプルを作成し、TRS100 でこれらのサンプルを分析し、HPLC 分析を実行し、モデル開発に必要な時間を考慮することは、すべて 1 回限りのコストです。これよりはずっと少額ですが、モデルの年次メンテナンスコストも発生します。それでも TRS100 を代替分析ワークフローとして導入すれば、対前年比で性能やコスト効率は向上します。
現在のワークフローと比較して、どれくらいのコストをどれくらいの期間で削減できるかは、アジレントの計算ツールで確認できます。TRS100 によるコスト削減の可能性については、次のオンデマンドウェビナーでもご紹介しています。
アプリケーションや TRS100 のデモについてのご相談は、こちらからお問い合わせください。当社の専門家がお客様と協力して、TRS がお客様の分析対象サンプルに適しているかどうかを評価いたします。また、お客様の製品でどの程度コストを削減できるかを見積もるコスト計算もお手伝いいたします。
TRS100 による含量均一性試験に関心のあるお客様が通常懸念されていることは、規制当局の承認を受けられるかどうかということです。透過型ラマンメソッドによる含量均一性試験は規制当局ですでに承認されており、多くの国の複数の会社から、多種多様な製品の申請が提出されています。分析メソッド開発を支援するための規制当局のガイダンスも用意されています。アジレントも、この業界ガイダンスに基づくモデル構築ガイダンスを提供しています。
TRS100 に関する規制当局の承認については、次のオンデマンドウェビナーをご覧ください。
アプリケーションや規制についてのご相談、お客様のサンプルを使った TRS100 のデモのご要望については、こちらからお問い合わせください。
TRS100 は幅広い医薬品サンプルを分析できます。

Agilent TRS100 のサンプルトレイには、1 回のセッションで数百個のサンプルを搭載できます。トレイは特定のサンプルタイプ、例えば錠剤、カプセル、粉末、バイアル、ウェルプレート、キュベット、製剤見本、パッチ、ディスクなどに合わせてカスタマイズできます。
大きいトレイ領域に 96 ウェルプレートを 2 枚収納して、(例えば X 線粉末回折(XRPD)分析のプレスクリーニングとして)ハイスループットでスクリーニングできます。粉末サンプルの場合は、ジップロックバッグの使用を推奨します。ジップロックバッグは使いやすく使い捨て可能で、TRS100 での粉末の測定に最適です。バッグを平らに載せて、上の固定用プレートで固定します。これにより、粉末測定の一貫性と、特性解析対象の混合物の均質性を確保できます。
組成と濃度の限界については、この技術の検出限界は賦形剤マトリックス中の医薬品有効成分(API)の 1 % w/w までです。これは、分析対象化合物のラマン活性によって異なる可能性があります。
アプリケーションが透過型ラマンによる分析に適しているかどうかを確認するには、当社にデモをご依頼ください。当社がお客様のサンプルをスキャンして、所定のアプリケーションへの適合性を評価いたします。
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アジレントには、粉末サンプルや錠剤サンプルからの信号強度を大幅に上げる独自の技術があります。Beam Enhancer トレイでは、サンプルの配置場所に特殊な光学ディスクが付いています。この特殊なエンハンサが後方散乱光子を反射してサンプルに戻すため、エンハンサなしの場合と比べて信号が最大 15 倍増幅されます(つまり必要な露光時間が 15 分の 1 に短縮されます)。

Beam Enhancer トレイには、一方向の光学フィルタディスクが一列配置されているため、信号を最大 15 倍に増幅できます。
Beam Enhancer テクノロジーの詳細については、次のアプリケーションノートをご覧ください。
TRS100 の測定時間はアプリケーションによって異なり、サンプルのサイズと組成が 2 つの最も重要な要素です。医薬品サンプルの一般的なスキャン時間は 10 秒~1 分です。まれにより長いスキャン時間が必要なこともありますが、ほとんどの測定は非常に短時間です。含量均一性アプリケーションの場合、試験全体の測定時間は 15 分未満です。
前の FAQ で説明した Agilent Beam Enhancer テクノロジーにより、はるかに短い取り込み時間で同量の信号を取得できます。
TRS100 で HPLC 装置を代用することはできません。TRS100 は、既存の分析機器とワークフローを効率化するために補完するものです。TRS100 は、医薬品製造におけるルーチン QC の含量均一性試験、アッセイ、同定用の代替分析メソッドであり、より少ない労力でより大きな成果を得ることができます。TRS100 はほとんどの形状の医薬品経口固形製剤に適していますが、すべてに使用できるわけではありません。例えば透過型ラマンは検出下限が約 1 % w/w であり、微量不純物に適した手法ではありません。
TRS100 を使用すると、特に大量の経口固形製剤の分析において、投資対効果が非常に大きくなることがよくあります。この試験は負担が大きく、コストとリソースを大幅に削減できる可能性が高いためです。
TRS100 メソッド開発には HPLC が不可欠であることを覚えておくことは重要です。透過型ラマンは二次的な参照手法であり、スペクトル結果は(HPLC による)一次結果を参照します。TRS100 によって HPLC 機器へのルーチンワークロードを削減できるため、その分を他の重要なタスクに振り向けることができます。
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アプリケーションや TRS100 のデモについてのご相談は、こちらからお問い合わせください。当社の専門家がお客様と協力して、TRS がお客様の分析対象サンプルに適しているかどうかを評価いたします。
TRS100 の操作には、Agilent ContentQC ソフトウェアと Solo ケモメトリックスソフトウェア(Eigenvector Research, Inc.)を使用します。この構成は、コンプライアンスに完全に対応できるソリューションです。ソフトウェア機能により、安全なログオン、設定可能なユーザー管理およびユーザー権限に加え、安全なデータベース、設定可能なバックアップ機能を利用できます。
TRS100 機器には、電源スイッチと PC との接続用 USB が搭載されています。追加の手動設定により、レーザーのスポットサイズと光学レンズの設定を変更できます。
ContentQC は機器制御、ユーザーアクセス、データ採取、レポート生成、データベースバックアップ用の基本ソフトウェアです。ContentQC で生成したスペクトルを Solo にエクスポートして、ケモメトリックモデルを分析および構築できます。その後、保存したモデルを ContentQC にインポートして戻してからソフトウェア内で修正できます。それから、このモデルを ContentQC で実行できます。Solo の予測エンジンは、バックグラウンドで自動的に ContentQC とやり取りして(ユーザー操作は不要)、ライブ予測を生成します。
リアルタイムに生成される分析結果は、セッションの最後にレポートで公開されます。 レポートはデータベース、ネットワーク上のファイルの場所、LIMS システムなどに保存されます。レポートは印刷またはエクスポートして、手書きで署名できます。
ContentQC ソフトウェアを設定し、設定可能な間隔でデータベースのバックアップを取ることができます。バックアップはフォルダまたはネットワーク上の場所に保存できます。そのフォルダをローカル IT システムで管理できます。
TRS100 ソフトウェアの使用方法については、次のオンラインのソフトウェアチュートリアルビデオをご覧ください。
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