妊婦が流産する確率は 26 % 1、早産する確率は 11 % 2 と見積もられています。このような状況は、アレルギーや重症の慢性疾患、神経疾患、発達障害など生涯にわたる健康問題を引き起こすことがあります3

その一方で、小児期の生活環境が、生涯にわたる慢性疾患に、持続的な影響をもたらす可能性を示す証拠もあがってきています 4。 若い世代での慢性疾患の割合の増加は、多くの人が人生の大半を病気の治療に費やさなければならないということを意味します5 子供の健康と発達は、生物学的影響と環境的影響の複雑な相互作用に関係します6

多くの慢性疾患は、妊娠期および乳児期の栄養失調や毒素への曝露が原因と考えられています。残念なことに、その発生率は増加の一途をたどっています。これらの慢性疾患には、がん(現在、子供の死因の第 2 位)、喘息、自閉症、アレルギー、セリアック病、ADHD、糖尿病が含まれます。このような疾患をもつ多くの子供達の平均 IQ は、疾患をもたないグループの子供より大幅に低くなっています7,8 9

遺伝子と環境の関係

遺伝子と環境の関係

ヒトの表現型は、その人の遺伝子と環境的要因が目に見える形で現れたものです。この複雑な相互作用は、健康および慢性疾患発症リスクにおいてきわめて重要な役割を果たします。つまり、遺伝子、環境、遺伝子・環境相互作用(GxE)を特性解析し、測定すれば、関連する疾病バイオマーカーと生体メカニズムを明らかにすることができるのです。意外かも知れませんが、最新の研究では、遺伝的要因は慢性疾患の主因ではないことが判明しており、慢性疾患のリスク因子の 90 % もが非遺伝的要因に基づいています10,11

私たちの遺伝子は受胎時に決定しますが、その表現、つまり私たちのゲノムは、化学修飾や変異などの変化により影響を受ける可能性があります。これらの修飾は、通常、生涯を通じて環境曝露によって生じます。

アジレントの戦略的科学技術者である Anthony Macherone 博士は次のように述べています。「『環境』という言葉を耳にしたとき、大気汚染や水質汚染などの外的要因のみを考える方がほとんどでしょう。疾患について述べると、環境的影響は非常に複雑です。空気、水、薬物、食品などの外的要因だけでなく、基礎疾患、酸化ストレス、特に腸内のミクロフローラ活性などの内的要因も関与します。このように、慢性疾患にとっての環境的影響とその役割は多次元的であり、異なる定義が必要になります」

エクスポソーム

エクスポソーム12 は、環境におけるゲノムのようなものです。食品や水、吸い込む空気、薬物、太陽光やその他の電離放射線、マイクロバイオームの生合成活性など、体内の生化学の他、職場や生活環境にまでおよびます。この曝露がヒトにどのように影響するのか、解明されていません。また、循環器疾患、糖尿病、喘息、アルツハイマー病、各種がん、およびその他の慢性疾患の発症にどんな影響をおよぼす可能性があるのかも未だほとんど解明されていません。疾患リスクの理解を深めるためには、健康に影響を及ぼし、ゲノムと相互作用する環境要因を、エクスポソームという枠組みのコンセプトで考える必要があります。

エクスポソームと妊娠

エクスポソームと妊娠

これまで、妊娠期の多くの問題や小児期の慢性的健康障害は、予測できない偶発的な出来事か、遺伝性のもの、あるいはその両方と見なされていました。しかし、この前提は疑問視されてきています。妊娠期の母体の健康と環境からの曝露は、赤ん坊の小児期およびそれ以降の健康に計り知れない影響をおよぼします。エクスポソームの理論では、問題をかかえた妊娠や子供の重症慢性疾患の高発生率は、一般的に、ほぼ環境要因による結果として捉えられます。

慢性疾患の理解を深めるエクスポソーム測定

環境要因による健康への影響を把握するのは、とても煩雑な作業です。個人が経験する無数の曝露を経時的に測定して、それらが疾患にどのように影響するのかを理解する必要があります。環境への曝露は絶えず変化し、ヒトの健康や生物化学的プロセスに敏感かつ慢性的に影響を与えることから、これらの測定を 1 回限りで終わりにすることはできません。エクスポソームを評価する 1 つの方法は、多数の個人から誕生時、1 歳時、5 歳時、12 歳時、21 歳時、以降生涯にわたり 10 年ごとに生体サンプルを収集することです。このような膨大なサンプルの蓄えがあれば、研究者はバイオマーカーおよび化学的予測因子をさまざまな疾患と結び付けることができるでしょう。

妊娠前から乳児期まで

女性が妊娠前および妊娠中に毒素への曝露を少なくし、適切な栄養をとっていれば、妊娠後の回復不良および子供の慢性疾患の発生率をどちらも大幅に低減できます。いまや、妊娠と子供の慢性的健康障害について、研究者の間ではパラダイムシフトが起きています。それが P2i(妊娠前から乳児期まで)構想の基盤となっています。

The P2i program, sponsored by the nonprofit organization The Forum, aims to monitor and measure mother and child before, during, and after pregnancy and follow participants progress for the first five years postpartum.

非営利組織である The Forumが後援する P2i プログラムは、妊娠前、妊娠中、および出産後に母子のモニタリングと測定を行い、出産後 5 年間にわたって被験者の体調をモニターすることを目的としています。P2i プログラムでは、受胎前から母子のペアの環境曝露を特定し、出生前管理、栄養摂取、健康的なライフスタイルなどの環境要因からの曝露を減らすことで、これらの曝露を軽減します。

Autism Society of America および Autism Research Institute の取締役副会長兼役員を務める David Humphrey 氏は次のように述べています。「過去 50 年間で、妊娠中の妊産婦の死亡率は急激に高まっています。そこで、この 5 % ~ 38 % への増加原因の調査を開始したわけですが、それが遺伝子に起因し、遺伝子が主な原因になっていると私たちは考えています。ただし、増加率を考慮すると、遺伝的な伝染病のような病気があるわけではありません。遺伝子のコンディションを改変するには長い時間がかかりますから」

These measurements can make more accurate assessments and help prospective mothers strengthen their health profile with proper nutrition, avoid negative environmental factors, and reduce body burden.

これらの測定により、より正確な評価が可能になります。また、将来母になる女性が適切な栄養摂取によって健康プロファイルを強化し、マイナスの環境要因を回避し、体への負荷を低減するために役立てることができます。環境、食事、ライフスタイルなどによる曝露が、私たち本来の遺伝子、生理機能、およびエピジェネティクスとどのように相互作用し、健康に影響を与えるかを理解すること。それがエクスポソームを解明するということです。

技術の活用

エクスポソミクスの新しい技術を使うことで、妊娠前から乳児期までの母子の曝露を定性および定量化できます。生体サンプル(血漿または血清)は、試験ラボで、高分解能質量分析(MS)と超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)またはガスクロマトグラフィー(GC)を組み合わせたシステムを使用して分析できます。その後、多変量解析によって、曝露グループの特性を明らかにする代謝的な特徴が特定され、適切な補正後に、識別された代謝物と生物学的パスウェイが同定されます。同定された代謝物は、既知バイオマーカーのデータベースもしくは認証を受けた標準物質を使って確認できます。

エクスポソミクスと遺伝子学の組み合わせが、子供の慢性疾患の理解を深める手段になります。科学者が遺伝子と環境毒素との関係を研究できれば、疾患の原因を解明する道が開けるだけでなく、発病を防ぐ対策を講じることもできるでしょう。

詳細については、インフォグラフィックをご覧ください。 Preconception to Infancy (P2i) Program

エクスポソームの解明に役立つインテグレートバイオロジーソリューションの詳細については、ホームページをご覧ください。

詳細はこちら:


Anthony Macherone

Anthony Macherone 博士は、アジレント・テクノロジーの戦略的科学技術者であり、Sonia Dagnino 氏とともに『Unravelling the Exposome: A Practical View』(Springer International Publishing AG, 2019)の共同編集者を務めました。

David Humphrey

David Humphrey 氏は、法律家であり、多くの企業の CEO を兼任しています。Northwest Autism Foundation、The Forum、ACT Today! の米国役員であり、Autism Treatment Network(ATN)の共同創設者です。また、医師研修団体 Medical Academy of Pediatric Special Needs(MAPS)の共同創設者であり、同団体のディレクター、Autism Society of America および Autism Research Institute の取締役副会長兼役員も務めています。