パンデミック収束への道のり

わずか数か月前は、今のように世の中がパンデミックに見舞われていることなど、ほとんど想像もできないことでした。19 世紀半ばに抗生物質が登場し、またジフテリアや破傷風に対して画期的な手法である予防接種も誕生したことから、大多数の細菌感染症は治療できるようになりました。それ以来、生命を脅かす疾患の原因は、細菌やウイルスからヒト変異細胞(がんなど)へとシフトしていったのです。

科学界は、かつて人類にとって甚大な脅威であった数々の疾患に対する治療薬やワクチンの開発に成功してきましたが、新型ウイルス SARS-COV-2 は集団免疫はおろか既存免疫が存在しないため、このウイルスに対処する時間的猶予はほとんどありませんでした。疾患に対処し、急速な拡大を抑えるためのワクチンや治療薬が待たれる中、世界各国は感染の急増を食い止めるための代替策を考案しました。

こうした対策は主に物理的、社会的な距離を取ることですが、曝露を抑え、COVID-19 の伝播や症例数を減らし、医療体制のひっ迫を防ぐことを目的としています。しかし、これらは対処的な措置にすぎません。それでは、この現状を打開するにはどのような方法があるでしょうか。

パンデミック収束への道のり

疾患の軽減と封じ込めを目的とした即時行動指針は、SARS やエボラなどの脅威から得られた教訓を生かしたものです。その結果、現在すべての主要国ではパンデミック対策として同様の要素から成るプログラムや戦略を実行しています。これは、米国国立衛生研究所の一部門である国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の戦略に明確に述べられています。

戦略の対象となる項目は次のように要約されます。(a) 疫学的観点からウイルスの性質と集団に与える影響を深く理解する。(b) ウイルスの広がりを追跡するため高精度の診断分析法を開発する。(c) COVID-19 の治療薬候補の特性を解析し、試験する。(d) 長期的に見てコロナ危機後に通常の生活に戻るための安全かつ有効なワクチンを開発する。

現在、科学界はまだウイルスと格闘し、高感度かつ高精度の検査法を実施する初期段階にあります。科学界で用いられている検査法は以下の 2 つに大別されます。

  1. 第 1 のタイプは、ウイルスの遺伝子成分(RT-PCR による RNA 検査)や構成成分(抗原検査)によりウイルスを検出する方法です。この検査法は、COVID-19 様症状を呈する患者の診断、最善の治療法の選択、回復期にある患者の感染状態の評価にも役立ちます。このタイプは高リスク集団における感染スクリーニングとして利用されます。
  2. 第 2 のタイプは、SARS-COV-2 ウイルスに対する体の免疫反応を評価する方法です。COVID-19 から回復したのか、または現在進行形でウイルスに感染しているのか経過を確認するのに役立ちます。このタイプでは、特異的な免疫グロブリン分子を検出する抗体検査が用いられます。この検査法は個人の免疫の有無を証明する方法となり得ます。そのため、特定のグループ間の接触制限を解除する指標として不可欠なツールとなる可能性があります。

残念ながら、ウイルスの詳細や感染と疾患を引き起こす機序、症状の重症度の違いも含めて、解明すべきことはまだ多くあります。ジョンズホプキンズ大学によると、8 月 4 日の時点で、世界中で 1,800 万人以上の COVID-19 感染者と 69 万 5,000 人以上の死亡者が確認されており、世界的危機の早期解決を求める声が急速に高まっています。

2020 年は、極微小の感染病原体によって社会規範と世界経済が停滞に追い込まれ、人類の脆さが露呈した年として記憶に残ることになるでしょう。しかし、世界は COVID-19 治療薬誕生の希望を抱き、未来を見据えています。世界中の科学者が、COVID-19 の次の波を食い止めるために治療薬やワクチンの開発に力を注いでおり、NIH の戦略の第 3、第 4 の課題に向けて早急に取り組んでいます。

パンデミック収束への道のり

SARS-COV-2 ウイルスは、既に同定されている他の β コロナウイルスに似ているため、検査や治療薬を実際の臨床で使用できるよう、優れた科学者の多くは既存の知識を生かして研究を加速させています。規制当局はワクチンの早期開発の必要性を考慮し、最先端の科学を活用して公衆衛生を最適化しつつ、行政上のハードルを最小限に抑えるよう最善を尽くしています。初期の成果は、Pfizer などの大手バイオ医薬品企業のメディア記事でご覧いただけます。Pfizer は COVID-19 の予防を目的とした BNT162 ワクチンプログラムの第 I/II 相臨床試験において、最初の被験者に投与を開始しています。また、Astra Zeneca はオックスフォード大学発のワクチンを世界に広く供給できるよう、必要な準備を進めています。

納税者である国民が、政府が社会のために最善を尽くすことを期待しているように、患者もまた、医師や看護師が医療現場でベストを尽くしてくれるものと信じています。そして、患者と家族は科学者やバイオ医薬品業界にも同様の期待を寄せています。斬新なアイデア、不断の研究、それを実現する信頼性の高い機器を望んでいるのです。アジレントは企業として、また家族や友人とともにパンデミックを生き抜く個人として、公衆衛生上の危機に立ち向かう科学者に必要なツールと専門知識を提供できるよう、これからも尽力していきます。