食品中マイコトキシンの Agilent LC/MS による 簡便で、高速かつ、正確な分析

John Lee
アジレント食品市場マネージャ

タンデム質量分析法 (MS/MS) は、その選択性、感度、直線性の定量範囲が優れており、複雑なマトリックスが存在する食品分析にも、よく使用されます。この記事では、食品中のマイコトキシンの規制に適合する定量から多数のマルチスクリーニングまで使用できる、効率のよいサンプル前処理法と LC/MS/MS 分析例を紹介します。

マイコトキシンは、フザリウム属、アスペルギルス属、ペニシリウム属のような真菌が生成する二次代謝物です。これらの真菌は多くの場合、植物に寄生し、食品が不適切に保存されると増殖します。多くのマイコトキシンは発癌性があり、数百万トンの穀物やその他の食品を毎年腐らせ、約 10 億米国ドルもの損失が推定されています。EU および US で規制されている主なマイコトキシンは、アフラトキシン、デオキシニバレノール、フモニシン、オクラトキシン A (EU)、ゼアラレノン、パツリンです。潜在的に有毒な真菌の株と代謝物は地球上に数百種類あり、モニタリングが行われています。

規制対象のマイコトキシン

従来の HPLC メソッドと MS または 蛍光検出で、規制に対応した高感度検出を実現するには手間と時間のかかるサンプル前処理が必要です。このサンプル前処理法は、対応できる化合物の幅が狭く制限されるため、特定の食品群に関連するすべてのマイコトキシンをカバーするためには複数の前処理が必要となります。

ターゲットマイコトキシンと内部標準の共溶出、破線は標識化化合物、実線はネイティブ (またはターゲット) 化合物です。

図 1. ターゲットマイコトキシンと内部標準の共溶出、破線は標識化化合物、実線はネイティブ (またはターゲット) 化合物です。
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ターゲットマイコトキシンと内部標準の共溶出、破線は標識化化合物、実線はネイティブ (またはターゲット) 化合物です。

図 1.ターゲットマイコトキシンと内部標準の共溶出、破線は標識化化合物、実線はネイティブ (またはターゲット) 化合物です。

簡便なサンプル前処理法による、とうもろこし中のマイコトキシンの定量

Agilent 1290 Infinity LCシステムAgilent 6490 トリプル四重極 LC/MS を Center for Analytical Chemistry (オーストリア、トゥルン) で組み合わせました。高速メソッド分析では シリアル食品で規制されているすべてのマイコトキシン を定量しました。標識化内部標準を使用して、クリーンアップを行わない簡便な抽出、つまり低ランニングコストとなる溶剤キャリブレーションを実現しました。図 1 は、10 分未満の高速分析でのターゲットマイコトキシンと内部標準の溶出を示しています。3 種類の化合物が共溶出しました。高速極性切り替えにより、すべての化合物に最適なイオンシグナルが選択できます (ゼアラレノンは負イオンによる測定が適しています。他の 2 成分は正イオンにより測定します)。

アフラトキシンは異なる質量を持ちますが、いくつかの質量は他のアフラトキシン内部標準と同じであるために、完全に分離する必要があります。この課題に対処するために、1.8 μm 粒子の Agilent ZORBAX Eclipse Plus C18, 2.1 x 100 mm カラム を使用して必要なピーク分離を実現しました。700 barを超える高圧での分析には Agilent 1290 UHPLC が重要であることもわかりました。

シリアル食品や果物のマイコトキシンの最大許容レベルは、10 ~ 4,000 µg/kg ですが、離乳食では大幅に低くアフラトキシンおよびオクラトキシンは 1 µg/kg 以下です。このメソッドは離乳食の分析に必要な感度を達成しました。

Agilent LC/MS/MS は、乳児向け調整粉乳中の EU 規制値以下低濃度のアフラトキシン M1 に対して非常に低い濃度レベルでも 8 個のトランジションがあるトリガー MRM「スペクトル」マッチによって容易に同定が行えます。

図 2. Agilent LC/MS/MS は、乳児向け調整粉乳中の EU 規制値以下低濃度のアフラトキシン M1 に対して非常に低い濃度レベルでも 8 個のトランジションがあるトリガー MRM「スペクトル」マッチによって容易に同定が行えます。(図を拡大)

Agilent LC/MS/MS は、乳児向け調整粉乳中の EU 規制値以下低濃度のアフラトキシン M1 に対して非常に低い濃度レベルでも 8 個のトランジションがあるトリガー MRM「スペクトル」マッチによって容易に同定が行えます。

図 2.Agilent LC/MS/MS は、乳児向け調整粉乳中の EU 規制値以下低濃度のアフラトキシン M1 に対して非常に低い濃度レベルでも 8 個のトランジションがある
トリガー MRM「スペクトル」マッチによって容易に同定が行えます。

乳児向け調整粉乳中のマルチマイコトキシンのスクリーニング

この分析 では、Covance Laboratories, Nutritional Chemistry and Food Safety 部門 (ウィスコンシン州、マジソン) の Dan Hengst 氏および Katerina Mastovska 氏は、前述と同じアジレントの機器と分析条件を使用しました。150 mm カラム を使用しました。乳児向け調整粉乳中のサブ ppb レベルのマイコトキシンを濃縮なしに、10 分以内に効率的に分離し定量することができました。標識化内部標準の使用では、溶剤キャリブレーションに対応できるメソッドも検討しました。

規制機関は、動物性食品中のアフラトキシン M1 の測定も要求しています。たとえば、乳児向け調整粉乳では、最大レベルが非常に低レベル (EUでは 0.025 µg/kg) に設定されています。このメソッドで十分な感度を得ることができました。

さらに、トリガー MRM スペクトルのライブラリで溶出するピークを検証し、ピーク同定の信頼性を高めました。MRM 機能によるスペクトルの取得は、他のイオントラップベースのプロダクトイオンスキャンよりも、かなり高速で、溶出ピークの定量に影響を与えません。トリガー MRM により高感度で非常に低いレベルでも同定と検証が行えました。以上のことにより、トリガー MRMは日常の定量的モニタリングの一部として使用すべき有用性が高いと結論付けられました(図 2)。

ヘーゼルナッツ中のマルチマイコトキシンのスクリーニング。

図 3. ヘーゼルナッツ中のマルチマイコトキシンのスクリーニング。(図を拡大)

ヘーゼルナッツ中のマルチマイコトキシンのスクリーニング。

図 3.ヘーゼルナッツ中のマルチマイコトキシンのスクリーニング。

ナッツ類中の多種マイコトキシンのマルチスクリーニング

正確な定量まで必要はないものの、より広い範囲のマイコトキシンをスクリーニングすることにも関心が集まっています。このようなスクリーニング手法を活用することにより、新たな脅威が検出され、健康影響の懸念対象となる新しい化合物の探索ができます。トゥルンの研究チームはおよそ 400 種類のマイコトキシンに対して、Agilent トリプル四重極 LC/MS メソッドを最適なトランジションおよびリテンションタイムをデータベース化して、ナッツのマルチスクリーニングメソッドを開発しました。目的は、通常こうした化合物を測定対象としないラボ用にメソッドを開発することでした。これにより、研究者たちは同じメソッドと機器セットアップを使用すれば、幅広くマイコトキシン群を測定、検索できるようになりました。図 3 は、アフラトキシン、アルテルナリア毒素類、ミコフェノール酸、最初にヘーゼルナッツで検出された T-2 トキシンを含む、自然汚染されたヘーゼルナッツのスクリーニングの結果です。

より多くの食品に適用可能なマイコトキシン分析ソリューション

マルチマイコトキシン対応の Agilent LC/MS ソリューション は、他の食品にも適用できます。ゴマやピーナッツバターのような高脂肪マトリックスも同様に分析できました。詳細はアジレントの食品分析ソリューションを参照してください。