ゲノミクス - 注目論文リスト アーカイブ (その他)

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miRNA / 遺伝子発現 / CGH / SureSelect / バイオアナライザ / その他

注目論文リスト 
その他
"Normalization and experimental design for ChIP-chip data." BMC Bioinformatics. 2007.
[17592629]
ChIP-on-chip : タイリングアレイを用いたクロマチン免疫沈降(ChIP-chip)は、様々なタンパク質のDNA結合部位をゲノムワイドに調べるために広く利用されてきましたが、バックグラウンド(mock コントロール)補正およびアレイ間での正規化の様なデータ処理に気を付ける必要があります。本研究では、Drosophilaのオス特異的致死(MSL)複合体が常染色体ではなくX染色体に結合することが分かっている事実から、アレイ上の結合領域とコントロール領域を区別することで、ChIP-chip二色法データ解析のおける新たな正規化スキームを導入し、このステップがデータ補正に適用できることが示されました。一般的にMock(非特異的抗体または抗体なし)コントロールデータを差し引くことがバイアスの除去に必要であり、mockコントロール実験の重要性は最近の論文で強調されています。例えば酵母でのヒストン占有度に関するChIP-chip実験で遺伝子および遺伝子間領域で濃縮される領域が異なることが観察されましたが、mock コントロールデータもまた似たような特徴を示し、mock コントロールデータをヒストン占有度データの正規化に使用すると、濃縮の程度に大きな違いはありませんでした。一般的に、ある研究から下された結論がmock コントロール使用の有無に依存すると、あらゆる場合にmock コントロールを行う必要があり、mock コントロールがない実験で下された結論は疑わしいかもしれません。実際、多くの出版された論文にmock コントロールのデータセットはなく、コントロール実験を行っていないようです。場合によっては、適切な正規化を行えばmock実験の必要はなくなります。著者らはこの研究でNimblegenのプラットフォームとAgilent の Yeast (S.cerevisiae) Whole Genome ChIP-on-chip マイクロアレイ 4x44Kを詳細に検証しました。実験アーティファクトを防ぎ、結合部位の正確な情報を得るためには、データを適切に処理することが重要です。
"Genome-wide analysis of expression modes and DNA methylation status at sense-antisense transcript loci in mouse." Genomics. 2010
[20736060]
エピジェネ : センス-アンチセンス転写産物 (SAT) は哺乳類のゲノム全体に広がっていますが、その機能の大部分は不明です。著者らは SAT の発現と DNA メチル化に関する洞察を得るため、SAT の発現とその関連するプロモーター DNA のメチル化状態をマウスの 12の組織で解析しました。本研究では Agilent のカスタムアレイを使用した MeDIP チップ法 (免疫沈降させたメチル化 DNA 断片を直接マイクロアレイプラットフォームで調べる) が使用されました。彼らは発現解析に用いた 12 の組織について SAT 遺伝子座の DNA メチル化状態を MeDIP チップを用いて解析しました。マイクロアレイは 5’-FCS (First exon of cDNA Sequence; 各 cDNA 配列の最初のエクソンの5’末端、基本的には転写開始部位と推定される部分)の -6 から +2 kb の中の標的となる CpG アイランド (CGI) に対して設計されました。CGI は、(G + C) の割合が 0.55 以上で、CpG ジヌクレオチドの観察値/期待値 (O/E) が 0.65 以上である 5’-FCS の -6 から +2 kb の中の 500 bp を越える領域として定義されています。計 6248 の CGI が 2/3 の SAT の周りで予測され、双方向転写産物 (BDT) の半数は転写産物の 5’-FCS 上または近くに CGI を持つと予測されました。そのため、これらの予測された CGI の多くはプロモーター CGIで ある可能性があります。著者らはセンスおよびアンチセンスの発現がほとんどの組織で正の相関を示すことを見出しました。しかし、組織特異的発現をする SAT の一部では、プロモーター DNA がメチル化されている場合には CGI をもつプロモーターからの転写産物の発現レベルは低く、この環境では逆鎖の転写産物の発現レベルが特にポリ(A)が無い時に高くなりました。これらの結果は一般的なセンス-アンチセンス同時発現の傾向はあるものの、いくつかのアンチセンス転写産物は対となるセンス遺伝子のプロモーターのメチル化状態に協調して発現することを示唆しています。この鎖間関係はインプリンティング遺伝子の特権ではなく、SAT に広く見られるもののようです。
"lincRNAs act in the circuitry controlling pluripotency and differentiation." Nature. 2010.
[21874018]
lincRNA : 哺乳類のゲノムには数千の large intergenic non-coding RNA (lincRNA) がコードされていますが、loss-of-function (機能喪失) 実験によって表現型との因果関係が示されたものは殆どありません。結果として、lincRNA 遺伝子の機能的役割が幅広く論議されているのが現状です。lincRNA がエンハンサー領域として働き、その RNA 転写産物が単純に付随的な副産物であるというような提言もなされています。今回の報告で、著者らは多くの lincRNA が直接重要な多能性関連転写因子によって調節され、およそ 30% の lincRNA が特定のクロマチン調節タンパク質と物理的に相互作用し遺伝子発現に影響を及ぼすことを示すことにより、lincRNA が胚性幹細胞 (ES細胞) の状態を制御する分子回路に組み込みまれることを示しています。ES 細胞における機能喪失実験により、lincRNA は遺伝子発現全体に影響し、特に遺伝子発現にトランスで影響しました。その影響は、多能性状態の維持と細胞系統プログラムの抑制に及びました。lincRNA は ES 細胞転写因子の標的であり、さまざまなクロマチンタンパク質と結合することも示されました。本研究で使用された Agilent のカスタムアレイのデザインには 21,503 の Entrez 遺伝子と 2,230 の lincRNA 遺伝子に対するプローブが搭載されています。このマウスデザインのアップデートされたバージョンは Agilent の SurePrint G3 Mouse GE 8x60K マイクロアレイとして市販されており、34,017 の Entrez 遺伝子と 2,230 の lincRNA 遺伝子に対するプローブが搭載されています。
"DNA Methylation Dynamics in Human Induced Pluripotent Stem Cells over Time." ProS Genet. 2011
[21637780]
エピジェネ : 最近、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製時、エピジェネティックな核の初期化が異常に起こることが報告されました。しかし、これまでのiPS細胞のエピジェネティック分析は少数の細胞の使用に限られていました。さらに、ヒトiPS細胞では継代培養に伴う分析報告が殆どありませんでした。本研究では、iPS細胞でのDNAメチル化の変遷を調べるため、5種類のES細胞株、22種類のiPS細胞株(コントロールとしての201B7クローンを含む)、それらの親細胞が調べられました。Agilent Whole Human GenomeオリゴDNAマイクロアレイ(4 x 44K)を用いて全ゲノム遺伝子発現解析が行われました。遺伝子発現データの教師なし階層的クラスタ分析の他、DNAメチル化解析を加味した結果、ヒトiPS細胞はそれらの親細胞と明確に区別することができ、ES細胞に似ていることが示されました。さらに、複数の現れては消えるランダムで異常なメチル化がiPS細胞の初期化過程にわたって検出され、iPS細胞が親細胞から遺伝した特徴を失い、時間をかけてES細胞に非常によく似た細胞に変化していくことが示されました。ヒトiPS細胞はde novoで繰り返し現れる異常な過剰メチル化の「収斂」を通して次第に初期化されることが分かりました。異常なメチル化はCpGアイランドに偏っていました。これらの異常は継代培養の初期に起こり、後の段階で異常な状態からの復帰が起こるようです。
"Targeted next-generation sequencing of a cancer transcriptome enhances detection of sequence variants and novel fusion transcripts." Genome Biol. 2009
[19835606]
Targeted RNA-seq : RNA-Seq が持つ様々な利点に関わらず未だあまり広がりを見せていない状況として、全トランスクリプトーム解析の複雑さに加え、幅広いダイナミックレンジを持つ発現レベルに対して発現量の極端に低い転写産物を精度よく検出するのが困難なことが挙げられます。特に、変異判定や構造上の再配列あるいは低発現量のmRNAの異常なスプライスフォームを特定するため読取り深度を極端に上げることでシーケンスコストがかかりすぎています。本研究では、Targeted RNA-Seq法が検討されました。キャプチャ領域としてチロシンキナーゼ遺伝子、核内ホルモン受容体遺伝子、およびCancer Gene Censusに登録されている遺伝子の多くを含む計467遺伝子(887の異なる転写産物)を設定、各スプライスバリアントに対してキャプチャ・ベイトを設計し、計9,913種類のAgilent SureSelectカスタムベイトが作製されました。テストのため、K-562慢性骨髄性白血病(CML)細胞株からcDNAライブラリを構築、ベイトとのハイブリッドセレクション後のシーケンスの結果、特異性が非常に増加し塩基配列のリードが標的転写産物にマッピングされる割合がハイブリッドセレクション前の5%から98%に著しく向上することが明らかになりました。さらに、標的転写産物でのSNP、スプライスアイソフォームおよび融合転写産物の検出効率が改善されました。ハイブリッドセレクション後も転写産物の量の違いは概して維持されていました。加えて重要なことは、変異およびバリアントを特定するのに必要なシーケンシングの量が大幅に減ったことで、かかる費用も減ったことです。この報告はAgilentがgDNAキャプチャに引き続いて提供を始めたmRNAキャプチャ法のさきがけとなります。今後この方法は、次世代シーケンサの読み取り量の著しい進歩とパーソナル化に伴い、検体数やキャプチャサイズを適宜変更することで、幅広く活用されることが期待されます。
"Genes for embryo development are packaged in blocks of multivalent chromatin in zebrafish sperm." Genome Res. 2011
[21383318]
ChIP-on-chip: 成熟したヒト精子では、胚発生に重要な転写因子の DNA がメチル化されておらず、独特のヒストン修飾を受け、生殖細胞系列において発生関連の遺伝子が特殊にパッケージングされていることが示唆されています。本研究では、扱いやすいゼブラフィッシュモデルから、いくつかの新たな特徴が報告されました。彼らは、まず質量分析により、成熟したゼブラフィッシュ精子のゲノムをパッケージするタンパク質の性質決定を行い、体細胞のゲノムをパッケージする標準的なヒストン H2A、H2B、H3、およびH4に加えて、ヒストンバリアント (H2AFX と H2AFV) およびリンカーH1ヒストンとそのバリアント (ヒトHISTH1C、-D、-E、H1FX、およびH1F0と関係) の存在を明らかにしました。次に、Agilent Custom プロモーターマイクロアレイを作成 (ホワイトヘッド研究所のゼブラフィッシュプロモーターチップセットを元に、さらに数百の遺伝子と遺伝因子を追加したもの : miRNAやCpG アイランド等を含む)、活性型ヒストン (H3K4me2/3、H3K14ac、H2AFV) および不活性型ヒストン修飾 (H3K27me3、H3K36me3、H3K9me3、脱アセチル化) を ChIP-on-chip で検討しました。その結果、発生に関する遺伝子が幾つかのヒストン修飾および DNA 脱メチル化によりクロマチンの大きなブロック内にパッケージされる複雑な多価クロマチン構造を取ることを明らかにしました。彼らは、さらに ncRNA が遺伝子発現に影響を与えるために維持され使われている可能性を考察しています。
"Chromatin signatures of the Drosophila replication program Drosophila" Genome Res. 2010
[21177973]
Enrichment-on-chip: クロマチン修飾が転写プログラムを調節している方法については相当理解が進んでいます。一方、DNA 複製の開始部位を選択し、調節している方法を決めるクロマチン修飾の役割については未だあまり分かっていません。本研究ではDrosophila の 3種の細胞株 (2種の胚由来、および神経組織由来) を比較しています。S期に DNA 複製の相対時間を特定するために、Drosophila ゲノムのユニークな配列に対して作成された Agilent Custom Genome タイリングアレイが使われました。彼らは、同期した細胞をS期の前期および後期に核酸誘導体 5-ブロモ-2’-デオキシウリジンでパルス標識し、これら前期および後期に複製される配列を含む画分をゲノムタイリングアレイとハイブリダイズし、複製の相対時間を決めました。一方、複製開始点認識複合体 (ORC) の全ゲノムでの分布を調べるためにChIP-Seqを実施しました。その結果、複製のタイミング、初期の複製開始点の使い方、および複製開始点認識複合体 (ORC) 結合に関わるクロマチンの性質が特定され、クロマチン構造の違いにともなう細胞株特異的な違いが多数明らかとなりました。一次配列、活性化クロマチンマーク、およびDNA結合タンパク質 (クロマチンリモデリングタンパク質) が additive に関与して ORC 結合部位が決まり、クロマチン環境は単純なスイッチのオン・オフのように複製開始点を調節しているのではなく、可変抵抗器のように複製の開始を調節していると考察されています。
"Methylation silencing of angiopoietin-like 4 in rat and human mammary carcinomas" Can. Sci. 2011
[21489049]
メチル化 : 異常なDNAメチル化は乳がんの発病と進行に深く関与していますが、その誘導因子と分子機構の解明のためには動物モデルが必要です。本研究では、ラット乳がんサンプルのメチル化DNA免疫沈降法で調製したDNAを用いて、Agilent Rat CpG Islandマイクロアレイを用いた解析が行われました。その結果、CGIプロモーターをもつ遺伝子のなかで、癌細胞株でメチル化された多くの遺伝子が見つかりました。本研究は、ラット乳がんで異常なDNAメチル化サイレンシングを受ける遺伝子が初めて同定されるとともに、ラットのみでなくヒト乳癌でもメチル化により発現抑制される遺伝子も新たに同定されました。ラットは、がん、毒性学および循環器系疾患のような生物医学研究分野で幅広く用いられており、Rat CGIマイクロアレイは、様々なエピジェネティックスの研究に応用できることが期待されます。

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