モノクローナル抗体の完全な特性分析を実現する Agilent HPLC-Chip/Q-TOF

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モノクローナル抗体の完全な特性分析を実現する
Agilent HPLC-Chip/Q-TOF

Keith Waddell
アジレント LC/MS アプリケーションソリューションマネージャ
Ravindra Gudihal
アジレント アプリケーションサイエンティスト

 

組み換えモノクローナル抗体 (mAb) は、商業的に重要度の高いさまざまな治療および診断関連製品の基礎となります。現在すでに、FDA の承認した 20 種類を超える mAb 薬剤が販売されており、自己免疫疾患、移植拒絶反応、多発性硬化症、クローン病、黄斑変性症、各種の癌などの治療に用いられています。これらの薬剤は特異性が高く、低分子薬剤よりも副作用が小さい傾向があります。製薬企業は、開発プロセス全体を通じて、高価な mAb の純度や構造的な完全性を監視する必要があります。そのため、サンプルの消費量が少なく、正確で感度の高いメソッドが求められています。Agilent 1200 シリーズ HPLC-Chip/MS システムと Agilent 6520 Accurate-Mass 四重極飛行時間型 (Q-TOF) LC/MS は、こうした分析に最適です。

mAb の特性分析に欠かせない LC/MS

質量分析 (MS) は、mAb の構造分析に欠かせません。MS では、インタクトタンパク質の質量、アミノ酸配列、ジスルフィド結合、修飾糖の構造およびプロファイル、さまざまな翻訳後修飾および生成後修飾など、多くの構造特性を測定することができます。このことを示すために、Agilent HPLC-Chip/Q-TOF システムを用いて、市販されている mAb を分析しました。

図 1. インタクト抗体のデコンボリューション Q-TOF 質量スペクトルは、結合グリカンの数の変化を示しています。挿入図では、少量の G1F 形態を拡大して示しています(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 2. A) 43 mm x 75 µm ZORBAX 300SB-C18 分析カラムを用いた HPLC-Chip 分析で得られたトリプシン消化 mAb の BPC。B) mAb 軽鎖および重鎖を構成するペプチドの EIC は、シャープなピークを示しています(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 3. A) ペプチドマップ上の矢印は、グリコペプチドピークの溶出を示しています。B) グリコペプチドの質量スペクトルと、グリカン部の位置を示す配列(画像を拡大するにはここをクリックします)。

複数の形態を特定するインタクトタンパク質分析

アジレントのシステムを使えば、きわめて少量のインタクト mAb サンプルを確実に分析することができます。エレクトロスプレー精密質量スペクトルを生成し、異型を検出することが可能です。この分析例では、多価チャージスペクトルのデコンボリューションにより、mAb 複合体の 3 つの主要異型 (図 1) が、以下の質量ピークとともに検出されました。

  • 148,812.81 Da – 2 つのグリカン部 (G0F) を持つ mAb、質量精度 5.7 ppm [1]
  • 147367.94 Da – グリカン部が 1 つのみの mAb
  • 145922.00 Da – グリカン部のない mAb

図 1 の挿入図で G1F と示されている、148974.97 Da におけるもう 1 つのピークは、抗体の G0F グリカン部に付加されたヘキソース部と推測されました。観察された質量増加値は 162.16 Da で、計算上の質量増加値 162.14 Da とほぼ一致しています。

質量 145922.00 Da における非グリコシル化種の質量ピーク割り当てを確認するために、mAb を酵素により脱グリコシル化し、分析しました。また、ジチオスレイトール (DTT) を用いて mAb を完全還元し、軽鎖と重鎖の分断により構造をさらに分析しました。LCGC の論文では、これらの分析の結果が説明されています。いずれの実験でも、必要なサンプル量はナノグラムレベルという少ないものでした。

配列を確認するペプチドマッピング

LC/MS を用いたペプチドマッピングは、アミノ酸配列や修飾位置の確認および同定の分析ツールとして確立されています。トリプシン消化後、mAb を分析して得られたペプチドピークのベースピーククロマトグラム (BPC) を図 2A に示しています。重鎖および軽鎖を構成するペプチドの抽出イオンクロマトグラム (EIC) は、Agilent HPLC-Chip/Q-TOF システムにより得られる優れたクロマトグラフィ分離能を示しています (図 2B)。

この分析によりマッチしたペプチドは、重鎖の 95 %、軽鎖の 85 % を占めています。しかし、mAb の特性分析および品質管理では、すべてのアミノ酸を特定する必要があります。この要件を満たすために、さらに 2 つのプロテアーゼ (黄色ブドウ球菌由来の Glu-C、およびキモトリプシン) を使用しました。これらを用いた消化により得られたデータ (ここには示さず) は、トリプシン消化のみでは検出されなかった配列をカバーしています。

グリコシル化領域を特定する MS および MS/MS 分析

mAb のトリプシン消化物の HPLC-Chip/Q-TOF 分析では、グリコペプチドが 4.42 分で溶出しました (図 3A)。図 3B にスペクトルを示しています。グリコペプチドの質量は理論上のターゲット質量と一致し、質量誤差はわずか 2.14 ppm でした。また、MS/MS データを用いて、特徴的な糖オキソニウムイオン断片を分析し、グリコペプチドの同定を確認しました。図 3B のペプチド配列 (TKPREEQYNSTYR) には、mAb のグリコシル化領域として知られるアスパラギン残基/NXT モチーフが 1 つだけ含まれています。したがって、このグリカンはアスパラギン残基に付加しているものと推論しました。最後に、酵素により mAb からグリカンを分離し、構造をさらに分析しました。この結果も完全版の論文で紹介しています。

感度の高い確実な特性分析

Agilent HPLC-Chip/Q-TOF システムは、商業的な重要性の高いモノクローナル抗体の完全な特性分析を可能にする強力なツールです。貴重なサンプルの消費量をナノグラムレベルに抑えられるこのシステムは、以下のことを可能にします。

  • インタクトタンパク質の精密な特性分析
  • 完全なペプチドマッピングおよびアミノ酸配列分析
  • タンパク質複合体に付加されたグリカン構造の確認

この精密で汎用性の高いツールは、細胞株上清のスクリーニングや生産プロセスの最適化、精製から製剤処方まで、開発プロセス全体で mAb の純度や構造の完全性を監視しなければならない診断および製薬関連会社のニーズに応えます。詳細については、LCGC サイトで論文の完全版をご覧ください。

参考文献

  1. R. Gudihal, et al., "Primary characterization of a monoclonal antibody using Agilent HPLC-Chip Accurate-Mass LC/MS technology," Agilent Application Note 5990-3445EN (2008).

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