統合型ワークフローによる、抗体薬物複合体 (ADC) の薬物抗体比 (DAR) の自動計算の簡素化

David L. Wong, アジレントシニアアプリケーションサイエンティスト
Tanner Stevenson, アジレントアプリケーションソフトウェアエンジニア
Jing Chen, アジレント LC/MS サイエンティスト

抗体薬物複合体(ADC) は、最小限の副作用で効果的な生物製剤を作り出す画期的な方法です。ADC は新世代の期待すべき生物製剤であり、創薬パイプラインにおける急成長分野です。ADC は、細胞傷害性薬剤を、特定の細胞を標的とするモノクローナル抗体 (mAb) にリンカー経由で貼付することで作られます。これらの薬剤は対象の組織に送られます。対象外の組織に対する毒性は限定的です [1]。

ADC の概念は比較的単純ですが、ADC の完全な特性分析に必要な分析作業は通常、非常に複雑です。この記事では、ADC の薬物抗体比 (DAR) を同定するための使いやすい完全統合された分析法について説明します。ここでは、Agilent AssayMAP Bravo PlatformMassHunter Walkup ソフトウェア、および MassHunter BioConfirm DAR カリキュレータを使用します。

図 1. MassHunter Walkup の統合型 ADC 計算ワークフローでは、DAR 計算と E メールでのレポート送信を自動化しています。

図 1. MassHunter Walkup の統合型 ADC 計算ワークフローでは、DAR 計算と E メールでのレポート送信を
自動化しています。

複雑な化学には高度な統合型ワークフローが必要

効果と選択性が高く、毒性の低い ADC の製造と特性解析は、従来のモノクローナル抗体用のプロセスより複雑です。例えば、各抗体に貼付される薬物分子の数は、共役化学や反応条件に応じて大幅に異なる可能性があります。適切な平均薬物抗体比 (DAR) を実現することは、効能を最適化し、ADC の毒性を最小限に抑えるために非常に重要です。ADC の DAR を安定させるには厳密な品質管理が必要です。この DAR は多くの場合、液体クロマトグラフィー質量分析法 (LC/MS) を組み合わせて測定します。

DAR の計算で使用される LC/MS の結果の複雑さを軽減するため、通常は分析前にオフラインの還元と脱グリコシル化を実行します。このサンプル前処理は手間がかかることが多く、スループットの低下やばらつきの原因となります。また、ADC を開発および分析する科学者が LC/MS 分析の専門家ではない場合もあります。アジレントはこのような課題を克服するため、ADC DAR 用の統合型ワークフロー (図 1) を開発しました。このワークフローではサンプル前処理と DAR 計算が自動化されているため、LC/MS に精通していないオペレータでも高品質な結果を得ることができます。

図 2. Agilent MassHunter Walkup ソフトウェアのユーザーインタフェースはシンプルであるため、LC/MS に精通していないユーザーでもサンプルを分析して DAR の結果を取得できます。

図 2. Agilent MassHunter Walkup ソフトウェアのユーザーインタフェースはシンプルであるため、
LC/MS に精通していないユーザーでもサンプルを分析して DAR の結果を取得できます。

ワークフローにより、専門家以外のユーザーでも専門的な結果の取得が可能

Agilent AssayMAP Bravo は、自動化されたサンプル前処理プラットフォームです。ユーザーインタフェースがシンプルなため、自動化に精通していない科学者でも、LC/MS 分析の前に ADC を効率的に精製、還元、脱グリコシル化できます。サンプル前処理の自動化によって、ADC DAR ワークフローのデータのばらつきの主な原因を最小限に減らすことができます。

Agilent MassHunter Walkup ソフトウェア (図 2) を使用すれば、処理済みのサンプルを持って LC/MS 機器がある場所に行き、最小限のサンプル情報を入力し、適切な ADC 分析メソッドを選択し、システムの所定の場所にサンプルを配置して、後は立ち去るだけで済みます。ユーザーが、アプリケーションに応じた LC/MS システムの設定および最適化の方法を知っておく必要はありません。

LC/MS による分析の後、MassHunter BioConfirm の DAR カリキュレータソフトウェアによって DAR 値が自動的に計算されます。この値は、分析結果の E メールでのレポートの一部として分析者に送信されます。

図 3. AssayMAP Bravo Platform で前処理した、インタクトのグリコシル化および脱グリコシル化した ADC の典型的な DAR 計算結果。

図 3. AssayMAP Bravo Platform で前処理した、インタクトのグリコシル化および脱グリコシル化した ADC の典型的な DAR 計算結果。

図 4. Agilent DAR カリキュレータによる、還元、グリコシル化した ADC の典型的なレポート。

図 4. Agilent DAR カリキュレータによる、還元、グリコシル化した ADC の典型的なレポート。

自動ワークフローと手動サンプル前処理の薬物抗体比はほぼ同じ

自動化された統合型ワークフローと、手動によるサンプル前処理を使った同様のワークフローの性能比較には、リジンを複合化した ADC サンプルを使用しました。ワークフローの種類ごとに、次の 4 種類のサンプル前処理条件を使用しました。

  • インタクトのグリコシル化した ADC
  • 還元、グリコシル化した ADC
  • インタクトの脱グリコシル化した ADC
  • 還元、脱グリコシル化した ADC

次に、デコンボリュートしたスペクトルを BioConfirm DAR カリキュレータで分析しました。その典型的な結果は図 3 のとおりです。

図 4 は、MassHunter BioConfirm の自動化された DAR カリキュレータによる、還元、グリコシル化した ADC の典型的なレポートです。

同じ ADC サンプルを使って、Agilent AssayMAP Bravo Platform ではなく手動サンプル前処理によって、同じ一連の実験をしました。予想どおり、手動と自動のサンプル前処理を比較した場合、得られる DAR 値はほぼ同じでした。

最小限の作業と知識による、信頼性の高い DAR 結果の取得

抗体を複合化した生物製剤を開発する科学者は、サンプルの前処理、質量分析計の操作、データの解析、DAR の手動計算に関する専門的知識に関係なく、正確で信頼性の高い DAR 情報を取得する必要があります。アジレントは、手動入力をほとんどせずに、信頼性の高い DAR 値を科学者の E メールに直接送信する統合型ワークフローを提供しています。

この統合型ワークフローでは、Agilent AssayMAP Bravo Platform、MassHunter Walkup ソフトウェア付きの Agilent MS 機器、および MassHunter BioConfirm DAR カリキュレータによって、信頼性の高い結果を得ることができます。このワークフローの詳細については、アプリケーションノート 5991-7366EN を参照してください。また、ADC DAR の特性解析を促進するアジレントのバイオファーマワークフローソリューションについても参照してください。

本製品は一般的な実験用途での使用を想定しており、医薬品医療機器等法に基づく登録を行っておりません。その他の目的にはご利用になれません。

参考文献

  1. Perez, H. L., et al. “Antibody-drug conjugates: current status and future directions.” Drug Discovery Today 2014, 19(7), 869-81.