ガスクロマトグラフィー(GC)は、複雑な混合物中の個々の化学成分を分離・同定・定量化するために使用できる強力な分析技法です。
GC における「ガス」という言葉は、この手法が適用されるサンプルの種類を指すのではなく、ガスが機器内でサンプルを運ぶという事実を指します。このガスはキャリアガスまたは移動相と呼ばれ、通常は高純度のヘリウム、水素、または窒素です。実際、ほとんどの GC メソッドは液体サンプルを対象としており、固体用のアプリケーションもあります。サンプルをガスクロマトグラフィーで分析するための基本的な要件は、サンプル中の対象化合物が熱分解することなく揮発しなければならないことです。
GC のシステム構成とフォームファクタは多岐にわたりその数には圧倒されますが、GC システムはすべて、注入口、カラム、検出器の 3 つの異なる部分に分けることができます。
これらはそれぞれ、専用のカラムオーブンと加熱ゾーンを使用して温度制御されており(サンプル分析の過程で一定に保持されるか、勾配が付けられます)、それぞれに特定の圧力または流量(これも一定または勾配が付けられます)で 1 つまたは複数のガスが流れます。注入口は、サンプルをシステムに導入し、最終的にカラムに導入する役目をします。サンプルがカラムを通過すると、個々の成分に分離され、検出器によって検出されます。現在最も一般的な GC 構成は、スプリット/スプリットレス(SSL)注入口、ジメチルポリシロキサン固定相の薄層を含む内壁コーティングオープンチューブラー(WCOT)キャピラリカラム、および水素炎イオン化検出器(FID)です。
注入口は、多くの GC システムの中で最も複雑な部分です。液体を分析する場合、サンプルは通常、シリンジを使ってセプタムを通して注入口に注入されます。ここに示すように、SSL 注入口は、ガラスライナー内で最高 350 ℃の温度でサンプルを気化させます。ライナーは気化中に、不活性な表面を提供し、高温の金属表面の触媒作用によりサンプル中の活性化合物が分解するのを防ぎます。ライナーには、より効率的に気化するために、不活性化されたガラスウールを充填することもできます。また、さまざまな内部形状やバッフルを組み込んで、サンプル蒸気の混合と均質化を促進することもできます。
一旦気化すると、サンプルはキャリアガスによってカラムに送られます。カラムの寸法が小さく、検出器の感度が高いため、カラムに流す必要のある気化サンプルの量はごくわずかです。スプリットガスフローの採用により、サンプル蒸気の大部分は入口ベントから排出され、カラムのヘッド部にはサンプル蒸気の小さなシャープなプラグが残るのみとなります。このようにサンプルをシャープな形状にできれば、狭いピークと高分解能という最も効率的なクロマトグラフィー性能の実現につながるため、スプリット注入が一般的な方法になっています。
SSL 注入口は、はるかに多くの量のサンプル蒸気がカラムに流れ込むスプリットレスモードでも動作します。このモードでは、微量分析の感度が向上しますが、注入口でのサンプルの滞留時間が長くなるため、ピークが広がり、不安定な分析成分では熱分解が起こる可能性があります。
その他の一般的な注入口には次のものがあります。
最新のキャピラリ GC カラムは、次の 2 つの主要部分で構成されています:
通常、フューズドシリカチューブの内径は 0.1 ~ 0.53 ミリメートルで、長さは 10 ~ 150 メートルに達することがあります。外側のポリイミドコーティングにより、ガラスカラムの柔軟性が大幅に向上し、しっかりとコイル状に巻いて GC オーブンに収納して温度制御することができます。
サンプルがカラムを通過すると、固定相との相互作用の強さに基づいて、異なる成分が互いに分離します。GC には数多くの異なる種類の固定相が存在し、通常は極性の程度によって説明されます。溶解平衡を支配する分子間力を説明するのは非常に複雑ですが、ごく簡単に説明すると、極性分子は極性系でより溶けやすく、非極性分子は非極性系でより溶けやすくなります(「似たもの同士は溶けやすい」)。GC が極性固定相を採用している場合、カラムを流れるサンプル中の極性分子は、非極性分子に比べて固定相により多く分配され、カラムを通過するのに時間がかかります。分離の程度は温度にも依存し、カラムを収容するオーブンの温度を利用して、類似した極性を持つ特定の化合物間の分離を改善することができます。カラムオーブンの直線的な昇温は、多くの GC アプリケーションで用いられます。
サンプル混合物の分離された成分がカラムの出口に到達すると、検出器は各成分の量を電気信号に変換します。FID は、カラムから溶出する分子を水素炎でイオン化します。これらのイオンは、存在する分子の数に比例する電流の変化を生成します。FID は、その高い感度、広い直線ダイナミックレンジ、堅牢な性能により、炭化水素 GC アプリケーションで使用される最も一般的な検出器です。
■ FID の技術解説「FID のヒント」を別ページで紹介しています。
もう 1 つの一般的な検出器に、熱伝導検出器(TCD)があります。これは FID ほど感度は高くありませんが、キャリアガスを除くすべての化合物に広く応答します。次のような特定のタイプの有機化合物に対しては、非常に選択的な別の検出器技術があります。
質量分析(MS)は、GC 分離の検出器としても使用できる強力な分析手法であり、これらの手法の組み合わせは GC/MS と呼ばれます。FID と同様に、MS システムは存在する各成分の量に比例する電気信号を生成します。ただし MS は検出された分子の質量に関する情報も提供するため、GC/MS はサンプル中の未知の化合物の同定に極めて効果的です。
GC のデータ出力は、x 軸にリテンションタイム(通常は分)、y 軸に検出器の応答(通常はピコアンペア)をプロットしたクロマトグラムです。
リテンションタイムは、各化合物バンドが注入からカラムを通って検出器に移動するのにかかる時間の尺度です。この時間は、一連の機器条件(カラム、流量、圧力、温度など)が与えられれば、再現可能です。
GC の方法論で一般的な戦略として、対象となる既知の化合物を含む分析標準を分析して、対応するリテンションタイムを決定することが行われます。これらをサンプルクロマトグラムのピークのリテンションタイムと比較することで、未知の化合物を同定できます。いくつかの濃度レベルで標準混合物を分析し、検出器の応答に対してプロットすると、サンプル成分の濃度の決定に使用できる検量線が得られます。検量線は、GC における定量分析の基本となります。