技術のヒント! 水素炎イオン化検出器 (FID) - 検出器情報

N. Reuter*、I. van der Meer、E. de Witte、L. Flipse
Technical Helpdesk Europe、ミデルブルフ、オランダ

はじめに

水素炎イオン化検出器 (FID) は、ガスクロマトグラフィーで用いられる標準的な検出器です。ほぼすべての有機化合物を検出できます。得られるクロマトグラムのピーク面積は、サンプルに含まれる成分の量に相関します。FID はきわめて感度が高く、9 桁という広いダイナミックレンジを備えています。唯一の短所は、サンプル成分が破壊されるという点です。

概略

図 1: 水素炎イオン化検出器の概略図

 

説明

FID は、水素/空気炎とコレクタプレートで構成されます。GC カラムから溶出するサンプルは、炎を通過します。この際、有機分子が分解され、イオンが生成されます。イオンは陽極で回収され、電気シグナルが生じます。コレクタは負の電荷を、炎ジェットは正の電荷をもちます。

メイクアップガスを追加すると、炎の形状が安定します。メイクアップガスとしては、窒素やヘリウムがよく用いられますが、水素が用いられることはありません。最高の感度を得るためには、メイクアップガスの流量を最適化する必要があります (下図参照)。

図 2: FID の感度における水素およびメイクアップガス流量の影響

FID における化学反応

  1. CH + O → CHO+ + e-
  2. CHO+ + 4 H2O → (H2O)nH+

オキソメチリウムイオン (CHO+) は、燃焼により生じた周囲の水分子に陽子を奪われ、(オリゴマー) オキソニウムイオン ((H2O)nH+) となります。このイオンが FID で測定されます 。

感度

FID は、濃度に応答する他の多くの検出器とは異なり、流量に応答する検出器です。流量応答または質量応答の場合、検出器ではサンプルの濃度ではなく、マスフローによってレスポンスがあります。また、FID においてn-ヘキサンは n-プロパンの 2 倍のレスポンスになります。

もっと一般的に言えば、FID のレスポンスは、分子中の炭素原子の数に左右されるということです。しかし、すべての炭素原子が、FIDで検出できる形で燃焼するわけではありません。ヘテロ原子が結合している場合や、電子混成が sp3 と異なる場合は、特に検出が難しくなります。

分かりやすい例が、ホルムアルデヒド (H2C=O) です。この化合物では、レスポンスは生じません。

レスポンスがまったくない、またはほとんどない化合物 [8]

FID における一般的な検出下限の仕様は 1-2 pg C•s-1 (1-2 ピコグラムカーボン/秒)、感度の仕様は約15 C•kg-1 (クーロン/キログラム) です。セルボリュームは約 10 nL と無視できる大きさです (イオン化に関わる炎部分のボリューム) [9]。実を言うと、FID はきわめて効率の低いイオン化装置で、成分の 1 ppm しかイオン化されません。しかし、ノイズレベルがきわめて低いため、優れた感度が得られます。

どのくらいのマスフローが測定量または測定濃度に変換されるかはピーク形状と面積によって決まります。ピーク面積は流量が異なっても変化しませんが、ピーク高さは変化します (溶出の早いピークはピーク幅が狭いので、ピーク面積が一定ならピーク高さが高くなります)。

有機化合物のレスポンスを推定するために、Sternberg ら [1] は、有効炭素数 (ECN) というコンセプトを導入しました。これは、ヘテロ原子を含む分子と同じレスポンスを持つn-アルカンとを関連づけるものです。

有効炭素数(ECN)のコンセプト

有効炭素数を用いた方式では、分子に含まれる各原子が付加する寄与が示されます。

ECN 寄与テーブル [2-7]

プロパンは、3 つの脂肪族炭素原子で構成されます。したがって、レスポンスは 3 * 1.00 = 3.00 となります。
n-プロパンは、3 つの脂肪族炭素原子で構成され、第 1 級アルコールです。したがって、レスポンスは 3 * 1.00 - 0.50 = 2.50 となります。
イソプロパノール (第 2 級アルコール) の場合、レスポンスは 3 * 1.00 - 0.75 = 2.25 となります。
3 つの C2-炭化水素 (エタン、エテン、エチン) の場合、レスポンスはそれぞれ 2.001.902.60 となります。

参考文献

  1. J. C. Sternberg, W. E. Gallaway, D. T. L. Jones, in: N. Brenner, J. E. Callen, M. D. Weiss (Eds.), Gas Chromatography, Academic Press, New York, 1962, p. 207.
  2. "Calculation of flame ionization detector relative response factors using the effective carbon number concept"; J. T. Scanlon, D. E. Willis, J. Chromatogr. Sci. 23 (1985) 333.
  3. "Relative molar response of flame lonisation detector to some heteroaromatic compounds"; S. Clementi, G. Savelli, M. Vergoni, Chromatographia 5(7), 1972, 413.
  4. "Effects of experimental conditions on the determination of the effective carbon number"; M. Kállai, V. Máté, J. Balla, Chromatographia 57(9-10), 2003, 639.
  5. "Response of Flame Ionization Detectors to Different Homologous Series"; M. Kállai, Z. Veres, J. Balla, Chromatographia, 54, 2001, 511.
  6. "The Effect of Molecular Structure upon the Response of the Flame Ionization Detector"; M. Kállai, J.Balla, Chromatographia 56, 2002, 357.
  7. "Aspects of the mechanism of the flame ionization detector"; T. Holm, J. Chromatogr. A, 842(1-2), 1999, 221.
  8. R. L. Grob, E. F. Barry (Eds.), Modern Practice of Gas Chromatography, Wiley-Interscience, New York (2004), pp. 302.
  9. R. Annino, R. Villalobos (Eds.), Process Gas Chromatography - Fundamantals and Applications, Instrument Society of America, Research Triangle Park, NC (1992), pp. 229.

■ アジレント・テクノロジーの 水素炎イオン化検出器のページもご覧ください。
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■ ガスクロマトグラフィーの基礎ページもご覧ください。

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