PEG 化は、ポリエチレングリコールのポリマー鎖を別の分子に、通常は薬剤や治療用タンパク質に共有結合させるプロセスのことです。PEG 化タンパク質は、通常、PEG の反応性誘導体をターゲットの巨大分子と一緒にインキュベーションすることで得られます。PEG 部分がもたらすさまざまな利点により、タンパク質の安定性が高まり、循環半減期が長くなります。PEG は、アメリカ食品医薬品局 (FDA) により、「一般に安全」と見なされている成分として承認されています [1]。現在、10 種類以上の異なる PEG 化製品が FDA によって承認されており、開発中の PEG 化タンパク質製品も多数あります。PEG GCSF は遺伝子組み換え GCSF の作用時間を長くしたものです。純度および二量体以上の凝集体の測定には、SEC HPLC 手法の使用が推奨されています [2]。
公開されている PEG GCSF の測定メソッドの多くでは、非特異的な相互作用を防ぎ、ピーク形状と分離能を高めるために、100 mM の NaCl、85 % のオルトリン酸、および最大 10 % のエタノールから成る水性移動相を使用しています [3]。治療用タンパク質の望ましくない吸着は、SEC 中の考慮すべき問題です。凝集体が、本来のタンパク質分子よりも固定相に結合しやすい傾向を示すことがあるからです。このような結合が優先的に生じると、SEC によって凝集体が正確に分析されないばかりか、検出されない可能性もあります。この問題を克服するために、有機溶媒を含む移動相や極端な pH の移動相が使用されてきました。実際、この方法によって分解能や回収率が高まることはわかっていますが、凝集体の可逆的な解離に加え、製剤緩衝液中で不可逆的な解離が生じる可能性もあります [4]。
Agilent AdvanceBio SEC、130 Å、7.8 x 300 mm、2.7 µm カラムは、SEC 分析用の画期的テクノロジーで、革新的なシリカ粒子と独自の親水性結合相を採用しています。このカラムではほとんどの場合、移動相に有機溶媒を添加することなく、多様なサンプルに対して分離能とサイズ分離を実現することができます。この性能を示すために、完全なイナート仕様の、最大圧力 600 bar の Agilent 1260 Infinity バイオイナートクォータナリ LC システムを使用しました。このシステムは次のモジュールで構成されています。
表 1 に、今回の実験で用いたクロマトグラフィーパラメータを示します。
図 1. Agilent AdvanceBio SEC、130 Å、7.8 × 300 mm、2.7 µm カラムにより得られたインタクト治療用 PEG GCSF の SEC プロファイル。
図 2. Agilent AdvanceBio SEC カラムを用いて SEC HPLC で測定した PEG GCSF 凝集動態。(A) インタクト PEG GCSF、(B) 55 °C で 60 分間加熱、(C) 55 °C で 120 分間加熱、(D) 55 °C で180 分間加熱。
パラメータ | 条件 |
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移動相 | 150 mM リン酸ナトリウムバッファ、pH 6.8 |
カラムコンパートメントの温度 | 室温 |
イソクラティック分離 | 移動相 A |
注入量 | 10 µL |
流量 | 0.8 mL/min |
UV 検出 | 214 および 280 nm |
表 1. SEC HPLC で使用したクロマトグラフィーパラメータ
図 1 に示すように、このクロマトグラフィー条件で 5.989 分に単一の対称ピークが現れており、インタクト PEG GCSF が良好に分離しています。この図の拡大図の矢印から、この複合体には明らかに、二量体および三量体以上の凝集体も含まれていることがわかります。ただし、遅く溶出しているピークがないことから、このサンプルには、遊離 GCSF は含まれていません。
熱ストレスを加えた PEG GCSF の SEC プロファイルを図 2 に示します。この図から Agilent AdvanceBio SEC カラムにより凝集体の分離および検出が可能なことがわかります。このクロマトグラムでは、インタクト PEG GCSF および二量体以上の PEG GCSF 凝集体が相互に明確に分離しています。表 2 に、面積パーセントにもとづく PEG GCSF の単量体および凝集体の相対的な定量結果をまとめます。
ストレスを加えた PEG GCSF (60 分間) |
ストレスを加えた PEG GCSF (120 分間) |
ストレスを加えた PEG GCSF (180 分間) |
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時間 | 面積 % | 時間 | 面積 % | 時間 | 面積 % |
5.59 | 2.85 | 5.24 | 16.01 | 5.12 | 91.89 |
5.99 (単量体) | 96 | 5.59 | 12.74 | 5.57 | 1.14 |
5.99 (単量体) | 70.29 | 5.98 (単量体) | 6.44 |
表 2. ピーク面積にもとづく単量体と凝集体の相対的な定量結果。
このデータから 55 °C での熱ストレスにより、凝集体の濃度が高くなっていることは明らかです。それに伴い、単量体の含有量はそれぞれ 96 % から 70 %、6.44 % に減少しています。
ここでは、モデルタンパク質として PEG GCSF を用い、PEG 化タンパク質の分析に有効なソリューションを紹介しました。Agilent AdvanceBio SEC カラムを用いて、PEG GCSF の純度をモニタリングするための単純な SEC HPLC メソッドを開発しました。移動相で有機溶媒は使用しませんでした。治療用 PEG タンパク質のストレス調査から、AdvanceBio SEC カラムにより、凝集体の分離および検出と、面積パーセントにもとづく定量が可能なことが実証されました。このようなシンプルで再現性の高いメソッドを、バイオ不活性で耐腐食性の機器と組み合わせることで、信頼性があり、バイオ医薬品業界の PEG 化タンパク質のルーチン QC に最適なソリューションを実現できます。
この他のデータも記載されている、このアプリケーションの詳細については、アジレントのアプリケーションノート 5991-6791JAJP を参照してください。また、アジレントのソリューションによって多忙なラボでスループットおよび効率をどのように向上できるかについては、文献、ビデオ、e-セミナーをご覧ください。