Agilent GC/MS/MS による
環境中ダイオキシンの微量分析

Craig Marvin、 アジレント環境分析マネージャ

環境サンプル中のポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン (PCDD) およびポリ塩化ジベンゾフラン (PCDF) のコンジナーの測定は複雑なため、高感度で選択性の高い機器が必要となります。現在、従来の標準的なメソッドでは GC と高分解能 MS のシステム (GC/HRMS) で分析しています。US EPA メソッド 1613 に記載されているように、GC/HRMS は、正確で詳細な PCDD/PCDF 測定の標準的な分析法です。現在の高分解能MSを使わない MS メソッド EPA 8280 では、土壌、飛灰、汚泥などのマトリックス中に十億分の一の濃度で含まれる PCDD/PCDF は分析可能ですが、このような濃度レベルは一般的な環境中濃度範囲ではありません。例えば、土壌に関する規制では一兆分の一のレベルでの分析が必要です。

最新の研究で、食品および飼料サンプルの GC/MS/MS と GC/HRMS で同等の分析結果が報告されています。環境サンプルでも、この新しい分析手法が適用できる可能性が示されています。GC/MS/MS の適用性評価のため、低濃度の環境サンプル中の PCDD/PCDF を測定して 2 つの手法を比較しました。

GC/HRMS とトリプル四重極 GC/MS/MS の比較

EPA メソッド 1613 に従って、10 ~ 30 g の 22 種類の土壌サンプルを乾燥させ 13C12-ラベル化サロゲート 2,3,7,8-PCDD/PCDF のコンジナー標準を添加し、有機溶媒で抽出して精製しました。European Air Method EN 1948 に従って、5 種類の排ガスサンプルを準備しました。精製したサンプルを GC/MS/MS と GC/HRMS で分析しました。GC/MS/MS メソッドでは Agilent 7890 GCAgilent 7000C トリプル四重極 GC/MS を使用し、EI モード、MRM 測定しました。

同位体希釈メソッドを使用して各成分を定量しました。検出下限 (LOD) はサンプルごとに 3:1 の S/N 比から算出しました。濃度は、検出濃度に、該当する毒性等価係数 (TEF) をかけて計算し、pg TEQ/g の単位で毒性等量 (TEQ) として求めました。TEQ 計算では、LOD よりも低い濃度は LOD の半分とします (middle bound メソッド)。

図 1. GC/HRMS と GC/MS/MS を用いた低濃度の都市大気サンプル (46 fg/m3 TEQ 濃度) の分析は同等の結果を示しています。

図 1. GC/HRMS と GC/MS/MS を用いた低濃度の都市大気サンプル (46 fg/m3 TEQ 濃度) の分析は同等の結果を示しています。

図 2. PCDD/PCDF 土壌濃度 (WHO-TEQ で示す) の良好な相関

図 2. PCDD/PCDF 土壌濃度 (WHO-TEQ で示す) の良好な相関

図 3. 良好な一致: さまざまな PCDD/PCDF 濃度における GC/MS/MS と GC/HRMS メソッド間の相対差異率 (%)

図 3. 良好な一致: さまざまな PCDD/PCDF 濃度における GC/MS/MS と GC/HRMS メソッド間の相対差異率 (%)

選択性の比較

GC/MS/MS 手法が実現する選択性は高分解能 GC/MS/MS の選択性は GC/HRMS と遜色ありません。その例として、図 1 に GC/MS/MS と GC/HRMS の両方で分析した都市大気サンプル中のヘキサクロロジベンゾダイオキシンのコンジナーのマスクロマトグラムを示します。このサンプルは 46 fg/m3 TEQ 濃度で、中から低レベル濃度の代表的な都市部での環境サンプルです。両方の手法で、明らかに同じコンジナーのピークを検出でき、相対強度も同等でした。この結果は、環境大気サンプル分析で同等の選択性を示しています。

図 2 は GC/MS/MS と GC/HRMS による分析による PCDD/PCDF の土壌濃度 (WHO-TEQ として表される世界保健機関毒性等量) を示しています。PCDD/PCDFが低濃度であるにも関わらず、R2 相関係数は約 0.97 が得られており、良好な結果で一致しました。

これらの相関は 図 3 に示すように濃度に依存しています。|±Δ%| で表した、低 PCDD/PCDF 濃度 (<1 pg WHO-TEQ/g) 土壌サンプル中の 2 つの測定値の相対差異は、61 % でした。

PCDD/PCDF 濃度が 1 pg WHO-TEQ/g より高い場合、平均相対差異は 4 % と低く、この範囲では Agilent 7000 トリプル四重極 GC/MS で環境土壌サンプル中の PCDD/PCDF を定量できることを示しています。この GC/MS/MS 法は、少なくともスクリーニングメソッドについて、従来の GC/HRMS メソッドに対する現実的な代替手法となります。

結果の良好な一致

今回の実験結果から、1 pg WHO-TEQ/g (住宅地の土壌の 10 分の 1 以下の濃度) 以上の土壌サンプルおよび一般廃棄物 (MSW) プラントの大気排出物の分析で、GC/MS/MS と GC/HRMS の結果が良好に一致していることがわかります。

大気排出サンプルのコンジナーのいくつかでは外れ値が観察されましたが、実験結果は実際の濃度を過小評価するものではありませんでした。以上の実験結果から、GC/MS/MS メソッドを環境サンプル中の PCDD および PCDF のスクリーニング手法として使用できることが示唆されました。食品および飼料中のダイオキシン分析と同様に、GC/MS/MS メソッドを使用することにより、多くの分析ラボで大気排出物および環境サンプルの PCDD と PCDF のスクリーニングが可能です。

この実験に関する詳しい説明については、アジレントのアプリケーションノート 5991-5158EN を参照してください。

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