Access Agilent 2015年8月号

エクスポソームの解明: Agilent 7010 トリプル四重極 GC/MS を使用した インテグレートバイオロジーソリューション

Melissa Churley
アジレントシニアアプリケーションサイエンティスト

Anthony Macherone
アジレントシニアアプリケーションサイエンティスト
ジョンズホプキンス大学薬学部客員教授

全世界の死亡原因の3 分の 2 は慢性疾患によるものです。そのうち、大部分を占めるのは、呼吸器疾患、心血管疾患、癌です [1]。一部には、これらの慢性疾患を引き起こすのは遺伝的性質であり、個々人のゲノム (G) をシーケンシングすることで何年も前に健康状態を予測できるという考え方もあります [2]。実際には、1300 以上のゲノムワイド関連解析 (GWAS) で、代表的な一塩基多型 (SNP) に対して 1.2 を上回るリスク関連性が報告されているものはほとんどありません。慢性疾患の遺伝率は比較的低く、おおよそ 10% から 20% の間になります [3]。

一般的な曝露化合物の血中濃度。Environmental Health Perspectives より転載。

図 1.一般的な曝露化合物の血中濃度。Environmental Health Perspectives より転載。(図を拡大)

一般的な曝露化合物の血中濃度。Environmental Health Perspectives より転載。

図 1. 一般的な曝露化合物の血中濃度。Environmental Health Perspectives より転載。

大半の慢性疾患に結び付く日常的な曝露

実際に遺伝子のみが原因となる特定の慢性疾患もありますが、その数は多くありません。多くの科学者が、複合的な慢性疾患の9割は、その原因が日常生活で生じる曝露であると気付き始めています。曝露は、私たちが食べる食品や摂取する薬品、外部環境の汚染物質、さらには腸内フローラの活性を含む体内の化学反応で生じる化学物質です (図 1)。エクスポソーム (E) はこれらの化学物質の生涯を通じた総量として定義されます [4]。この考え方の枠組みでは、慢性疾患で亡くなるリスクは主に、E またはエピジェネティクスを含む GxE の組み合わせに結び付けられます。包括的な手法で このE を測定するために、探索研究およびターゲット測定としてGC/MSとLC/MSの両方が使用されています。金属曝露には ICP-MS が使用されます。

残留性有機汚染物質 (POP) が血中を循環している場合、ターゲット GC-MS/MS 測定が適しており、200 μL という少量のサンプル血漿で 5.0 pg/mL (5 ppt) という低濃度の化合物を検出できます。これらのワークフローから得られたデータを、Agilent Mass Profiler Professional (MPP) ソフトウェアを使用して統計的差分解析すると、特定の集団での有意性が解明できます。

PCB 118 に対する MRM トランジション。5.0 pg/mL の血清キャリブレータ、S/N > 25。挿入図は  5 ~ 1000 pg/mL の検量線、注入量 5 ~ 1000 fg。

図 2.PCB 118 に対する MRM トランジション。5.0 pg/mL の血清キャリブレータ、S/N > 25。挿入図は 5 ~ 1000 pg/mL の検量線、注入量 5 ~ 1000 fg。(図を拡大)

PCB 118 に対する MRM トランジション。5.0 pg/mL の血清キャリブレータ、S/N > 25。挿入図は  5 ~ 1000 pg/mL の検量線、注入量 5 ~ 1000 fg。

使用した分析機器、消耗品とソフトウェア

  • MassHunter ソフトウェア
  • Mass Profiler Professional (MPP) ソフトウェア
  • 7693 ALS
  • 7890B ガスクロマトグラフ
  • 7010 トリプル四重極質量分析計
  • HP-5MS UI カラム (30 m x 0.25 m x 0.25µm)、部品番号 19091S-433UI
  • ウルトライナートライナ (5190-3983)

図 2. PCB 118 に対する MRM トランジション。5.0 pg/mL の血清キャリブレータ、S/N > 25。挿入図は 5 ~ 1000 pg/mL の検量線、注入量 5 ~ 1000 fg。

共変量の階層型クラスタリングは化合物の存在量と頻度に基づいて、各集団内でケースとコントロールを明確に区別。

図 3.共変量の階層型クラスタリングは化合物の存在量と頻度に基づいて、各集団内でケースとコントロールを明確に区別。
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共変量の階層型クラスタリングは化合物の存在量と頻度に基づいて、各集団内でケースとコントロールを明確に区別。

図 3. 共変量の階層型クラスタリングは化合物の存在量と頻度に基づいて、各集団内でケースとコントロールを明確に区別。

次世代 GC/MS/MS を使用したヒト血漿のスクリーニング

より理解を深める目的から、2 つの集団から抽出された不適合ケース / コントロールの 51 種類の抽出血漿が盲検的に提供されました。Agilent 7890B GC と EI MRM モードの超高感度ソースを備えた Agilent 7010 トリプル四重極 GC/MS を使用して、66 種類の POP (15 種類の多環状芳香族炭化水素、12 種類のダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル、11 種類のポリ臭素化ジフェニルエーテル、18 種類の有機塩素系農薬、5 種類のダイオキシン、5 種類のフラン) のターゲット GC/MS/MS分析を実行しました。カラムは HP-5MS (30 m x 250 µm、0.25 µm) を使用しました。各化合物に定量 MRM と定性 MRM を設定しました。3 段階の濃度でシステム性能と精度を確認しました。各抽出サンプルは 繰り返し3回、分析しました。

13C12-DDT 内部標準に対する繰り返し精度は、平均で 3% 以下の RSD を示しました (最小 = 0.38% RSD、最大 = 6.79% RSD、n = 153)。リテンションタイム精度は ± 0.122 分 (n = 9,608) でした。これらの結果により、200 µL の血漿サンプルを使用した場合に、5 pg/mL という低い検出下限でより広い POP 濃度範囲の測定が可能であることが分かります (図 2)。共変量の階層型クラスタリングでは、化合物の頻度 / 存在量などの変数と集団グループに基づいてケースとコントロールを区別しました (図 3)。

高速高分離 GC/MS/MS による、低濃度化合物の検出

ヒトの血液内の POP 濃度は、食品中化学物質、薬品、代謝物の 1000 分の 1 です。液体クロマトグラフィー飛行時間型またはフーリエ変換型質量分析法を使用した、ノンターゲット検出に基づく分析では、ほとんどの場合これらの化合物の 約 70% を検出できません [5]。今回の調査では、ターゲット GC/MS/MS が、5 pg/mL という優れた検出下限で幅広い POP 濃度範囲に対応して分析できることが実証されました。主成分分析と階層型分析により、頻度、集団、その他のメタデータに基づいてケース、コントロール、リファレンスサンプルが区別されました。これは、POP と疾患発生の間にある関係性の検証を目的とする今後の実験につながる結果です。

アジレントの分析装置とソフトウェアを使用した環境曝露の評価

人間の健康と曝露の因果関係は複雑です。アジレントの分析装置とソフトウェアは、インテグレートバイオロジーソリューションに有用なツールです。Access Agilent 記事「広範なアジレントのソリューションによるマルチオミクスでエクスポソーム研究をサポート」をご覧ください。これまではどの GC/MS でも不可能であった超低濃度レベルの分析対象が定量できる Agilent 7010 トリプル四重極 GC/MS カタログをダウンロードできます。

本記事はカリフォルニア大学バークレー校公衆衛生大学院の Sarah Daniels 氏と Martyn T. Smith 氏、NMS Labs の Alex L. Maggitti 氏と Matthew McMullin 氏にご協力いただきました。感謝いたします。

References

  1. R. Lozano, et al. “Global and regional mortality from 235 causes of death for 20 age groups in 1990 and 2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study”. Lancet, 2012, 380, 2095–2128.
  2. P. Brodin, V. Jojic, T. Gao, S. Bhattacharya, C.J. Lopez Angel. “Variation in the human immune system is largely driven by non-heritable influences”. Cell, 2015, 160, 37–47.
  3. S.M. Rappaport, M.T. Smith. “Environment and disease risks”. Science, 2010, 330, 460–461.
  4. C.P. Wild. “Complementing the genome with an ‘Exposome’: the outstanding challenge of environmental exposure measurement in molecular epidemiology”. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev., 2005, 14, 1847–1850.
  5. S.M. Rappaport, D.K. Barupal, D. Wishart, P. Vineis, A. Scalbert. “The blood exposome and its role in discovering causes of disease”. Environ Health Perspect, 2014, 122(8), 769–774.