Access Agilent 2015年7月号

Agilent ICP-MSによる環境試料中ナノ粒子の特性解析および定量

Craig Marvin
アジレントグローバル環境産業マネージャ

ナノ粒子は、寸法がおよそ 10-9 m から 10-7 m の範囲内で、あらゆる形状をした天然または人工の微細粒子です (IUPAC)。人工のナノ粒子により、半導体材料から食品、医薬品、化粧品、消費財に至るさまざまな製品の性能または特性が強化されます。このような材料は今までにない物理的特性や化学的特性を持つため、多くは、その環境動向や毒性が知られないままとなっています。農業用途で除草剤、農薬、および肥料の輸送手段としてナノ粒子を使用すると、ナノ粒子が食品で検出される場合や、 環境汚染の可能性があることが懸念されます。その結果、多くの種類のサンプルでナノ粒子の特性解析と定量を実施できる、精度と感度に優れた高速テクニックに対するニーズが高まっています。

ICP-MS を使用してナノ粒子分析の感度を向上

ナノ粒子の研究に使用される他の手法と比較して、誘導結合プラズマ質量分析 (ICP-MS) では、ナノ粒子の含有量の特性分析に必要な感度と特異性が得られ、また、単一のナノ粒子の特性を評価できる分解能を備えています。ICP-MS は、限られたサンプル前処理のみを必要とする高速分析手法です。ICP-MS は、単一粒子 ICP-MS およびハイフネーテッド ICP-MS という 2 つの異なる戦略と特徴としています。

サンプルから ICP MS インタフェースまでの粒子移動と、質量分析計によって生成された時間分析シグナル。

図 1. サンプルから ICP MS インタフェースまでの粒子移動と、質量分析計によって生成された時間分析シグナル。(図を拡大)

サンプルから ICP MS インタフェースまでの粒子移動と、質量分析計によって生成された時間分析シグナル。

図 1. サンプルから ICP MS インタフェースまでの粒子移動と、
質量分析計によって生成された時間分析シグナル。

単一粒子を容易に検出して定量化

単一粒子 ICP-MS では、プラズマ中に導入された単一粒子を原子化およびイオン化することで生成されたシグナルを直接検出し、定量化します。単一粒子を含む液滴は順次、脱溶媒化され、その成分が原子化およびイオン化されることで、質量分析計に入るイオンのプルームが生成されます。質量形では、イオンが m/z で分離され、時間分析 (TRA) モードにて検出されます (図 1)。イオン強度は元の粒子の対象元素の質量に比例しているため、理論上の粒子サイズおよび粒子の濃度 (数) を判定できます。

アジレントのアプリケーションノート『ICP-MS を使用した水溶性サンプル中ナノ粒子の特性解析』 (5991-5516JAJP) では、ナノ粒子分析での ICP-MS の強みを、他の分析手法と比較して示しています。

積分時間 100 µs を用いた単一の 100 nm Ag ナノ粒子の測定

図 2. 積分時間 100 µs を用いた単一の 100 nm Ag ナノ粒子の測定(図を拡大)

積分時間 100 µs を用いた単一の 100 nm Ag ナノ粒子の測定

図 2. 積分時間 100 µs を用いた単一の 100 nm Ag ナノ粒子の測定

Agilent 7900 ICP-MS を使用して分析を最適化

サンプル内のナノ粒子の含有量を判定するには、1 つのナノ粒子からの信号全体を収集できるようにし、粒子が部分的に測定されるのを防ぐために、ICP-MS の積分時間を最適化する必要があります。また、バックグラウンド信号から粒子信号を正確に区別するためにも、積分時間を十分に長く設定することが重要です。逆に、1 つの積分期間で 2 つのナノ粒子を測定することがない程度にまで、積分時間を短く設定しなければなりません。1 つの積分期間で 2 つのナノ粒子を測定すると、ナノ粒子のサイズを実際よりも大きく測定してしまったり、粒子数を過小に測定してしまったりする原因となるためです。これらの要件を満たすために推奨される標準的な積分時間 (ドウェルタイム) の範囲は、1 ポイント当たり 1 ~ 10 ms です。

Agilent 7900 ICP-MS などの最新世代の ICP-MS システムでは、さらに短いドウェルタイム (1 ms 未満) が可能になったため、各測定間で必要になる設定時間が排除されます。積分時間を短くすると (100 µs など)、単一のナノ粒子がプラズマを通過する際に生成したイオン雲からの信号パルス全体で、複数のデータポイントを測定できます (図 2)。対照的に、積分時間が 3 ms の場合、個々のナノ粒子からの信号パルス全体が 1 回の TRA 測定に含まれ、単一の強度として報告されます。

Agilent 7900 ICP-MS によるナノ材料の単一粒子分析について詳しくは、アジレントのアプリケーションノート (5991-4401JAJP) を参照してください。

ハイフネーテッド ICP-MS により複雑なマトリックスから干渉を除去

ハイフネーテッドシステムでは、オンライン分離ステップ (キャピラリ電気泳動など) の後に、元素固有の高感度検出器として ICP-MS が使用されます。CE-ICP-MS では、必要なサンプルサイズは小さく、分離能は高く、実行時間はフィールドフローフラクショネーション (FFF)よりも大幅に短くなります。イオンクロマト、液体クロマト、およびガスクロマトグラフシステムとのハイフネーションも可能です。

例えば、アジレントのICP-MS Journal  ( 5991-5513EN ) では、消費財や環境水サンプルでのナノ粒子の同定および正確なサイズ特性評価のために CE-ICP-MS を使用する方法を示しています。データには、複数のナノ粒子の化学組成およびサイズ分布に関連する多次元情報と、サンプル内に存在するイオン種のレベルが含まれます。これらすべてを 1 回の分析で取得できます。

この研究で得られたデータは、銀のナノ粒子の良好な回収率 (88.2 ~ 95.2 %) と、Ag ナノ粒子のわずかな凝集体を示しています (表 1)。消費財と環境サンプルまたは臨床サンプル中のナノ粒子の濃度は、通常は非常に低くなっています。例えば、さまざまな環境サンプルにおける Ag ナノ粒子の環境密度の予測値は、ng L-1 から mg kg-1 までの範囲にわたります (Fabrega 、Environ. Int. 37、2011)。透過電子顕微鏡や動的光散乱などの一般的な手法では、粒子の組成を同定したり、溶解したイオン種を測定したりすることはできませんが、それらと比較して CE-ICP-MS は感度が高いツールです。

スパイクした Ag NP

河川水

Waste water

回収率 (%)

粒子サイズ測定値 (nm)a

回収率 (%)

粒子サイズ測定値 (nm)a

10 nm の Ag NP

92.9±1.6

16.4±12.1

95.2±2.1

15.9±10.3

20 nm の Ag NP

91.6±2.2

28.3±8.8

89.6±2.4

22.4±17.2

40 nm の Ag NP

88.2±2.9

51.8±6.4

91.5±3.2

49.4±11.3

a) CE-ICP-MS で測定された粒子サイズが、スパイクされた Ag ナノ粒子の公称サイズよりも多少大きかったことを意味します。これは、マトリックスの複雑さが誘因となって Ag ナノ粒子がわずかに凝集したことを示します。

表 1. 河川水および排水における Ag ナノ粒子の回収率、精度 (n = 3)、およびサイズ特性解析

アジレントが可能にする高速で正確、かつ生産性の高い環境分析

アジレントは、環境分析と法規制に関して 40 年以上にわたり蓄積された専門知識を保有しています。水、土壌、大気、または食品中の有機化学物質および無機化学物質の測定に携わるお客様のために、アジレントでは、特にそのようなニーズを満たすように設計された、 機器、アクセサリ、消耗品、およびサービスを提供しています。

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