ICP-OES は、20 年以上前から幅広いサンプルの元素分析に用いられてきました。従来の ICP-OES では、高い感度を実現する水平プラズマか、高濃度に対応する垂直プラズマを選ぶ必要がありました。従来のデュアルビュー技術 (水平配置トーチベース) はこの選択のジレンマを解消しようとしたものですが、特有の制限が付きまといます。従来のデュアルビュー ICP-OES では、同じサンプルで複数回の測定を行う必要があるため、時間がかかり、コストも高くなります。また、水平配置トーチを使用すると、総溶解固形分(TDS)の高い複雑なサンプルの分析が難しくなります。
アキシャル光とラディアル光の同時測定
新しい Agilent 5100 シンクロナス・バーティカル・デュアルビュー (SVDV) ICP-OES は、ICP-OES 分析に革命をもたらします。分析困難なサンプルでも、高い性能を保ちながら分析時間を短縮することができ、ガスの消費量を削減することができます。5100 SVDV は複雑なマトリックスサンプルで高感度を実現するため、垂直配置トーチのアキシャル測光を採用しており、アキシャル光とラディアル光の同時測定を実現します。
Agilent 5100 SVDV ICP-OES は、従来のデュアルビューと比べて分析時間が 55 % 短く、アルゴン消費量も半分になります。また、4 つの機器の機能を 1 つで提供します。
サンプルスループットに最大の影響を及ぼすのが、Agilent 5100 SVDV ICP-OES 独自のダイクロイックスペクトルコンバイナ (DSC) です。DSC はアキシャル光とラディアル光を同時に測定します。従来のデュアルビュー機器では、アキシャルモードで測定してからミラーを移動して、同じサンプルをラディアルモードで再度測定します。この記事では、石油化学アプリケーションでの Agilent 5100 SVDV ICP-OES の汎用性と効率を示す例を紹介します。
精度が高く、干渉のない Agilent 5100
潤滑油向けの添加物は、接着剤や塗料からセメントや導電性コーティングまで、数多くの市場向けに製造されています。品質上の目的から、これらの添加物を使用前後にモニタリングする必要があります。いくつかの添加物の元素組成を分析する目的で、Agilent 5100 SVDV ICP-OES を使用しました。表 1 に、添加物と対象元素を示します。
テストサンプル |
重量 (g) |
対象元素 |
前処理 |
---|---|---|---|
防錆剤 (防水) |
0.0232 |
S、Sb、Zn |
20 mL のケロシンで希釈 |
腐食耐性添加物 (抗酸化剤) |
0.0280 |
B、Ca、K、Li |
|
片状粉末ワックス |
2.0491 |
Cu、Fe、V |
90:10 で希釈 (2 % 硝酸 : メタノール) |
表 1.分析で使用された一部の潤滑油添加物のパラメータ
表 2 から、すべてのサンプルが、100 ± 10 % という初期基準条件と終了基準を満たしていることが分かります。
片状粉末ワックス
|
Cu 324.754 nm |
Cu 327.395 nm |
Fe 238.204 nm |
Fe 259.940 nm |
V 309.310 nm |
V 311.837 nm |
---|---|---|---|---|---|---|
µg/g |
||||||
粉末 A |
1.9 |
2 |
11 |
11 |
0.72 |
0.72 |
粉末 B |
1.9 |
2 |
11 |
11 |
0.71 |
0.72 |
粉末 C |
2 |
2 |
11 |
11 |
0.75 |
0.75 |
平均 |
1.9 |
2 |
11 |
11 |
0.73 |
0.73 |
%RSD |
0.6 |
0.5 |
0.16 |
0.18 |
2.9 |
2.4 |
予想される |
0 ~ 50 ppm |
|
0 ~ 100 ppm |
0 ~ 50 ppm |
|
防錆剤
|
Sb 206.834 nm |
Sb 217.582 nm |
S 180.669 nm |
S 181.972 nm |
Zn 202.548 nm |
Zn 206.200 nm |
---|---|---|---|---|---|---|
防錆剤 1 |
7.2 |
7.3 |
30 |
30 |
5.7 |
5.7 |
防錆剤 2 |
7.4 |
7.3 |
30 |
30 |
5.7 |
5.7 |
防錆剤 3 |
7.3 |
7.3 |
29 |
30 |
5.7 |
5.7 |
平均 |
7.3 |
7.3 |
29 |
30 |
5.7 |
5.7 |
%RSD |
1.1 |
0.3 |
0.34 |
0.05 |
0.16 |
0.15 |
予想される |
5 ~ 9 % |
|
29 ~ 32 % |
|
5 ~ 9 % |
|
腐食耐性添加物 (抗酸化剤)
|
B 208.956 nm |
B 249.678 nm |
B 249.772 nm |
Ca 315.887 nm |
Ca 393.366 nm |
Ca 422.673 nm |
K 766.491 nm |
K 769.897 nm |
Li 610.365 nm |
Li 670.783 nm |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
腐食 |
6 |
6 |
6 |
0.11 |
0.12 |
0.11 |
6 |
5 |
4 |
4 |
腐食 |
6 |
6 |
6 |
0.11 |
0.12 |
0.11 |
6 |
6 |
4 |
4 |
腐食 |
6 |
6 |
6 |
0.11 |
0.12 |
0.11 |
6 |
6 |
4 |
4 |
平均 |
6 |
6 |
6 |
0.11 |
0.12 |
0.11 |
6 |
6 |
4 |
4 |
%RSD |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
0.5 |
0.38 |
0.56 |
3.3 |
3.4 |
0.7 |
0.6 |
予想 |
6 ~ 10 % |
|
|
0.05 ~ 0.15 % |
|
6 ~ 10 % |
|
6 ~ 10 % |
|
表 2.Agilent 5100 SVDV ICP-OES による、潤滑油添加物に含まれる元素の添加回収率 (3 回の測定での平均値および精度)
上記の結果から、Agilent 5100 SVDV ICP-OES が、各種の有機サンプルマトリックスに含まれる複数の元素に対して、優れた精度を達成できる (%RSD データが非常に低い) ことが分かります。また、Agilent SVDV ICP-OES が各元素に対して複数の発光線の結果を比較することで、元素濃度の検証を「メソッド内」で実施できることが明らかになります。この結果は、干渉が発生していないことを示しています。
表 3. Agilent 5100 SVDV ICP-OES による使用済みエンジンオイルに含まれるすべての元素の添加回収率 (<MDL = メソッド検出下限)(図を拡大)
オイル中の金属の迅速な測定
ICP-OES によるラディアル測光プラズマを使用したオイル内の金属測定は確立されたテクニックであり、特に、ASTM 標準試験手法 D5185-13 を導入しているラボでは定評があります。この標準は、使用済みおよび未使用の潤滑油と基油に含まれる 22 種類の元素を ICP-OES によって迅速に測定する方法を規定したものです。
今回は、Agilent 5100 SVDV ICP-OES をラディアルビューのみの構成で使用しました。この構成は有機サンプルの分析に最適です。1 回の測定で元素が測定されました (表 3) 。すべての値が予想された値の 10 % 以内に収まっていました。サンプルあたりの分析時間は 30 秒であり、サンプル間での 3 秒の洗浄と 3 回の繰り返し測定が含まれます。サンプルあたりの合計アルゴン消費量は、わずか 9.5 L でした。
この分析の詳細については、アジレント文献 5991-5271EN をご覧ください。
コストパフォーマンスに優れたパワフルな石油化学分析
Agilent 5100 SVDV ICP-OES は、特に堅牢性、スピード、コスト削減の面において、元素分析の性能を新たなレベルへと引き上げます。5100 ICP-OES によるサンプル分析時間は短く、必要なアルゴンガス量も少ないため、多忙なラボにとって大きな節約になります。Agilent 5100 ICP-OES の性能をご覧ください。
アジレントは、石油化学業界向けの標準化した分析手順の開発と管理に関して、40 年以上にわたって ASTM International と協力してきました。GC、LC、MS、FTIR、GC/MS を含むアジレントの機器を使用して、多数の追加標準が開発されました。アジレントの石油化学/エネルギーソリューションの詳細もご確認ください。