ポリマーの大きな用途の 1 つが、食品包装材です。ゲル浸透クロマトグラフィ (GPC) は、そうしたポリマーの分析に用いられる汎用的で有用なテクニックです。 GPC 食品分析においては、よく水性溶媒が用いられますが、でんぷん多糖類や、石油由来のポリプロピレンなどの包装材ポリマーといった複雑な化合物では、有機メソッドも有効です。
ポリエチレンなどのポリオレフィンは、フィルムや成形容器の製造で用いられます。食品包装材用途でのポリマーの適用性を評価するためには、機械的強度や強靭性などの特性を理解することが求められます。食品包装材に用いられる高密度および高分子量ポリマーの分析では、サンプル前処理や高温での分析で非常に長い時間が必要となるケースも生じます。アジレントの分析システムとカラムは、こういった高分子GPC分析ソリューションにも最適です。
図 1. ポリオレフィン分子量分布を正確に反映する Agilent PLgel Olexis カラム。
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図 2. Agilent PLgel Olexis カラムにより、幅広いポリオレフィンの正確なモダリティが明らかになります。(図を拡大)
図 3. ほぼ同一:Agilent PLgel 10 µm MIXED-B カラムに HDPE を 8 回連続で注入して得られた未処理データクロマトグラムの重ね表示。(図を拡大)
アーティファクトのない高分子量ポリオレフィンの分析
ポリオレフィンの用途は、低分子量の炭化水素ワックスから超高分子量の硬質プラスチックまで、多岐にわたります。ポリオレフィンの分子量分布は、強靭性、溶融粘度、結晶化度といった物理的特性と直接相関します。高分子量ポリオレフィンは、きわめて広い分子量分布 (MWD) を示す傾向があり、せん断劣化が起こす場合も生じます。そのため、分析に使用するカラムとしては、ポアサイズと粒子サイズの小さい LC カラムは適していません。アジレントでは、ポアサイズの大きい粒子の Agilent PLgel Olexis カラムを推奨しています。
溶媒には、沸点の高いトリクロロベンゼン (TCB) を使用します。サンプルとカラムの劣化を防ぐために、安定剤/酸化防止剤を TCB溶媒 に添加する必要があります。安定剤/酸化防止剤として、ブチルヒドロキシトルエン (BHT) を使用します。
転位とも呼ばれるアーティファクトが、数種の充てん剤を混合したカラムで生じることがあります。その原因としては、混合成分のポアボリュームのミスマッチにより起こります。転位が生じると、モダリティと多分散性が正しく測定されません。PLgel Olexis カラムは、転位を避けるようにデザインされたカラムです。充填剤成分の正確な混合によるカラム製造を行うことにより、なめらかな分子量分布をもつカラムとなっており、ポリマーの MWD 形状が正確に反映されます (図 1)。PLgel Olexis は、正確な多分散性指数とモダリティ情報が求められる分析に最適です。
図 2 に、幅広い分子量をカバーする各種ポリオレフィンサンプルを、PLgel Olexis カラムで分析した結果を示します。転位が生じることなく、きわめて幅広いサンプルピーク形状が、サンプルの正確なモダリティを示しています。
再現性の高い高密度ポリエチレン分析
高密度ポリエチレン (HDPE) は、強度対密度比が高く、プラスチックボトルやボトルケースに広く利用されています。HDPE の分析には、通常、時間のかかる高温でのサンプル前処理が必要です。図 3が、Agilent PL-SP 260VS サンプル前処理システムを用いて、市販の HDPE を 2 mg/mL で前処理した例です。溶解温度は 160 °C、溶解時間は 2 時間です。マスターバッチ溶液の 8 つのアリコートをオートサンプラバイアルに分注し、Agilent PL-GPC 220 システムのオートサンプラカルーセルに設置しました。このオートサンプラには、デュアルゾーン加熱機能があります。サンプルの劣化を防ぐために、高温ゾーンを 160 °C、低温ゾーンを 80 °C としました。
得られたデータについて、以下のマルク-ホウインクパラメータを用いてポリスチレン標準検量線と比較して解析し、表 1に示すポリプロピレン相当の分子量平均を算出しました。
TCB 中ポリスチレン K = 12.1 × 10-5 α = 0.707 [1]
TCB 中ポリエチレン K = 40.6 × 10-5 α = 0.725 [2]
注入回数 |
Mn |
Mp |
Mw |
1 |
17,289 |
76,818 |
333,851 |
2 |
16,988 |
77,434 |
335,496 |
3 |
17,428 |
77,514 |
332,616 |
4 |
17,521 |
77,052 |
335,635 |
5 |
17,348 |
76,520 |
334,212 |
6 |
17,487 |
77,728 |
333,511 |
7 |
16,898 |
77,578 |
335,642 |
8 |
17,717 |
77,288 |
334,923 |
平均 |
17,302 |
77,241 |
334,485 |
標準偏差 |
220 |
387 |
1,048 |
変動 % |
1.3 |
0.5 |
0.3 |
Mn = 数平均分子量
Mp = ピークトップの分子量
Mw = 重量平均分子量
表 1. 高密度ポリエチレンの 8 回注入で得られた分析結果のまとめ
ミツバチがつくるハチミツ以外の成分
ワックス (蝋) という用語は、共通の外見や硬さをもつ様々な材質を指すのに用いられます。一般に、ワックスは白か黄褐色で、成形しやすい柔らかなもの、より耐久性の高い硬いものがあります。大きく分けると、カルナウバ蝋や蜜蝋などの天然の再生可能ワックスと、パラフィン蝋などの石油由来製品の 2 種類があります。どちらのタイプも、果実や野菜、キャンディなどの保護コーティング材として、食品業界で使用されています。たとえば蜜蝋は、劣化を防ぐ目的で、チーズの可食性コーティング材として使われています。
図 4. Agilent PLgel 3 µm 2 カラムセットで得られた蜜蝋のクロマトグラム。
(図を拡大)
ワックスの溶解性は、分子量に大きく関係します。分子量の小さいワックスは、テトラヒドロフラン (THF) に溶解します。分子量が大きくなると、ワックスは硬く、砕けやすくなり (結晶化度が大きくなるため)、溶解させるためにはトリクロロベンゼンなどの溶媒が必要となります。THF は、蜜蝋の GPC に適した溶媒です。
蜜蝋は幅の広いピークで溶出します (図 4)。この結果は、溶液中の各種成分が同じサイズであることを示しています。
食品分析用の Agilent GPCソリューション
ポリマー化合物は食品処理や包装材で幅広く使用されます。ポリマーは包装材以外に、風味や食感、外見の向上を目的として、天然成分や添加物としても利用されます。食品中に異物として見つかることもあります。アジレントの GPC カラムと消耗品を使用すれば、幅広い用途で食品分析において優れた分析結果が得ることができます。アジレントの GPC ソリューションの詳細については、このビデオでご覧になれます。
References