Access Agilent 2012年2月号

新しい Agilent 8800 の紹介 -世界初のトリプル四重極 ICP-MS

Ed McCurdy
アジレント ICP-MS プロダクトマーケティング

Noriyuki Yamada
アジレント ICP-MS R&D

新しい Agilent 8800  トリプル四重極 ICP-MS.

図 1. 新しい Agilent 8800 トリプル四重極 ICP-MS.

誘導結合プラズマ質量分析法 (ICP-MS) は、幅広い業界のアプリケーションに適した多元素同時測定法です。最新の ICP-MS システムのほとんどには、四重極質量分析計 (QポールMS) と、干渉を制御するコリジョン/リアクションセル (CRC) が搭載されています。

CRCを搭載したシングル四重極 ICP-MS では、コリジョンモードによる測定が効果的です。その一例が、Agilent 7700 シリーズ ICP-MS です。7700 では、ヘリウム (He) セルガスと運動エネルギー弁別 (KED) を用いて多原子干渉を除去するため、複雑なマトリクスが含まれている場合でも、一般に扱われるほとんどの化合物を正確に測定することができます。

しかし、リアクションモードの場合、ICP-QMS には干渉が落ち切らないケースもありました。CRC のリアクションプロセスはセルに進入するイオンにより左右されますが、それらのイオンは通常、サンプルによって異なるためです。半導体業界で用いられる高純度処理化学物質などの、単純な既知マトリクスサンプルは、これまでリアクションモードでうまく分析できました。しかしそうした単純なマトリクスの場合でも、予想外の汚染物質や、高濃度で存在する別の分析対象化合物により、干渉の影響が出てしまう可能性もありました。しかしそれは、もう過去の話です。

コリジョン/リアクションセルに進入するイオンを制御する Q1 の機構を示す Agilent 8800 の概略図

図 2. コリジョン/リアクションセルに進入するイオンを制御する Q1 の機構を示す Agilent 8800 の概略図 (図を拡大)。

コリジョン/リアクションセルに進入するイオンを制御する Q1 の機構を示す Agilent 8800 の概略図

図 2. コリジョン/リアクションセルに進入するイオンを制御する Q1 の機構を示す Agilent 8800 の概略図

リアクションモードの干渉除去のありかたを一新する
Agilent 8800 トリプル四重極ICP-MS

新しい Agilent 8800 トリプル四重極 ICP-MS は、リアクションセルの前に別の四重極が配置された独自の構造を備えています。1 つ目の四重極でセルに進入・反応するイオンを選別することで、シングル四重極のリアクションモードに見られる変動や不確実性を除去し、比類のない干渉除去の性能と柔軟性を実現しています。Agilent 8800 トリプル四重極 ICP-MS では、リアクション(反応)を制御することにより、ユニークなCRC の操作が可能です。

イオンをあらかじめ選別し、
セル中の反応を制御する独自のトリプル四重極構成

Agilent 8800 トリプル四重極 ICP-MS の第 1 の四重極 (Q1) は、簡単なイオンガイドとしてもバンドパスフィルターとしても機能するように設定できるため、シングル四重極 ICP-MS で一般的に用いられるおなじみの動作モード (ノーガスモード、コリジョンモード、リアクションモード) にも対応できます。シングル四重極 ICP-MS と比べると、Agilent 8800 トリプル四重極 ICP-MSでは感度がきわめて高く、ランダムバックグラウンドが低くなるため、検出下限が大幅に向上します。

プリセット測定条件とアプリケーションテンプレートを用いることにより、幅広いアプリケーションを簡単かつ素早く実行できます。しかし、Agilent 8800 トリプル四重極 ICP-MSでは、研究開発分野や品質等のトラブルシューティングなどでも、パワフルで斬新なデータ採取モードを適用できます。以下に示すこれらのモードでは、セルに導入されたイオンをリアクションガスと反応させたあと、2つ目のQポールで選別するという独自の機能を有しています。

48Ti と NH3セルガスから形成されたクラスターイオンの対数スケールスペクトル。他のプレカーサイオンがすべて  Q1 により除去されるため、ここに示すクラスターイオンはどれも 48Ti を含んでいます

図 3. 48Ti と NH3セルガスから形成されたクラスターイオンの対数スケールスペクトル。他のプレカーサイオンがすべて Q1 により除去されるため、ここに示すクラスターイオンはどれも 48Ti を含んでいます (図を拡大)。

48Ti と NH3セルガスから形成されたクラスターイオンの対数スケールスペクトル。他のプレカーサイオンがすべて  Q1 により除去されるため、ここに示すクラスターイオンはどれも 48Ti を含んでいます

図 3. 48Ti と NH3セルガスから形成されたクラスターイオンの対数スケールスペクトル。
他のプレカーサイオンがすべて Q1 により除去されるため、ここに示すクラスターイオンはどれも 48Ti を含んでいます

・ プレカーサ (または親) イオンスキャン – Q1 でセルに進入して反応するプレカーサイオンを選別し、Q2(第2の四重極) をターゲットイオン質量に設定します。

・ プロダクトイオンスキャン – ターゲットのプレカーサイオン質量のみがセルに進入できるように Q1 を設定し、セル内で生成されたプロダクトイオンの質量数をQ2 に設定します。

・ MS/MS モード – Q1と Q2 の両方をターゲットの分析対象質量に設定します。Q1 でセルに進入して反応するイオンを制御し、Q2 で分析対象質量以外のすべてのイオンを除外します。

・ 質量シフトモード – Q1 を分析対象質量 (たとえば 75As など) に設定し、セルに進入して反応するイオンを制御します。Q2 をターゲットの反応プロダクトイオンの質量 (たとえば 91AsO など) に設定します。

・ クラスターイオン分析 – 分析対象物とともにクラスターイオンを形成する、NH3 などの反応性の高いセルガスを用いた質量シフト分析。オーバーラップする可能性のあるすべてのイオンが Q1 により除去されるため、分析対象物のクラスターイオンの生成および測定が他の分析対象物に影響を受けることはありません。図 3のスペクトルでは、すべての NH3 クラスターイオンに 48Ti が含まれています。これは、48 以外のすべての質量が Q1 により除去されたためです。

多くの性能上の利点

コリジョンセルに進入するイオンを制御する Agilent 8800トリプル四重極 ICP-MSの機能は、ICP-MS におけるリアクションの化学を根本から覆すものです。Agilent 8800 トリプル四重極 ICP-MSは、複雑でさまざまなサンプルに対しても、一貫した反応プロセスを実現し、シングル四重極 ICP-MS よりも優れた選択的な干渉除去を可能にします。

これらの機能により、材料科学、半導体製造、臨床、生命科学といった幅広いアプリケーションのほか、シングル四重極 ICP-MS では厄介な干渉により測定が妨げられていた高度な研究的なアプリケーションにおいても、性能が劇的に向上します。

Agilent 8800 トリプル四重極 ICP-MSは、シングル四重極 ICP-MS におけるリアクションモードの制約を取り払い、次のような独自の特長をもっています。

・ コリジョンセルに進入するイオンの選別が可能なため、セル内の反応プロセスを制御することができ、さまざまなサンプルや複雑な組成のサンプルでも信頼性の高い一貫した結果を実現します。

・ターゲット以外の物質の除去機能と質量シフトモードとを組み合わせることができます。シングル四重極 ICP-MS では、セルで生成されたプロダクトイオンをコリジョンセルから四重極へ通過させるように KED とバンドパスを設定しなければならないため、こうした機能は不可能です。

・ 見かけの質量は同じでも、異なる分析対象物から生成されたクラスターイオンを分離することができます。たとえば、上の図 3 で示すスペクトルでは、シングル四重極 ICP-MS を用いて測定した場合は48TiNH+63Cu がオーバーラップしています。また、48TiNH(NH3)363Cu(NH3)364ZnNH2(NH3)2 と分離することもできません。これは、これらのクラスターイオンも質量 114 で観察され、114Cd および 114Sn とオーバーラップするためです。Agilent 8800トリプル四重極ICP-MSを用いた測定では、63Cu、64Zn、114Cd、114Sn がすべて Q1 により除去されるため、オーバーラップがまったくない状態で Ti クラスターイオンを測定することができます。

定評のある信頼性の高いプラットフォームがベース

Agilent 8800トリプル四重極 ICP-MSは、独自の構成と性能を備えていますが、ハードウェアコンポーネントやソフトウェアプラットフォームの多くは、業界最高の Agilent 7700 シリーズICP-MS と共通のものを使用しています。高性能ソリッドステート高周波数 (RF) ジェネレータから 9 桁のダイナミックレンジを備えたデュアルモード検出器まで、現場での定評がある 7700 シリーズの技術が、8800 でも活用されています。

しかし、7700 シリーズが、高性能でコスト効率の良い ICP-MS を代表する機器であり、He モードで比類ない干渉除去機能を発揮することには変わりありません。今回、7700 に革新的な Agilent 8800 が加わったことで、より柔軟で応用範囲の広い独自の動作モードにより、困難なアプリケーションで最高のリアクションモード性能を実現することが可能になりました。

Agilent ICP-MS ジャーナル

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