Access Agilent 2012年2月号

お客様の事例 : GC/Q-TOF を用いた河川水および海底堆積物の抽出物に含まれる汚染物質の定量

Sofia Aronova
アジレント GC/MS アプリケーションケミスト

地表水は、私たちの毎日の生活にとってきわめて重要です。地表水は飲料水の源であり、食物連鎖を構成する水生生物の生息場所でもあります。そうした貴重な資源を守るためには、質量分析を伴う化学試験が必要です。河川水、廃水、海底堆積物の GC/MS 分析では、多数の未知化合物が検出され、それぞれを同定し、さらには定量することが求められます。こうしたサンプルでよく見られる複雑な有機マトリクスの影響で、分解能の低い MS では同定や定量が難しい場合があります。

もっとも分析困難なサンプルで新製品を活用

英環境庁ラネリ研究所の National Laboratory Service に所属する環境科学者の Anthony Gravell 氏は、2 つの新製品をリリース前に試用し、フィードバックをいただいたアジレントのお客様の 1 人です。その新製品は、次の 2 つです。

半透過性膜装置 (SPMD) により、地表水と海底堆積物から幅広い汚染物質を抽出しました。SPMD は、河川や湖、入江の地表水に直接浸し、内部にある脂質型の材料で小さな有機分子を吸着および濃縮することのできるサンプリング装置です。

サンプルの分析には、Agilent 7200 シリーズ高分解能四重極飛行時間型 GC/MS (GC/Q-TOF) を使用しました。このサンプルのバックグラウンドマトリクスはきわめて複雑で、徹底的なサンプル精製か、選択性の高い質量分析テクニックのいずれかが必要となります。

(a) 海底堆積物抽出物の複雑さを示すトータルイオンクロマトグラム。(b) 四重極 MS と同じ範囲を用いた抽出イオンクロマトグラムでも、ヘキサクロロベンゼンではない多くのピークが残されています。 (c) +/- 2 ppm という抽出範囲の選択性により、ヘキサクロロベンゼンの適度な感度を保ちながら、1b の図で見られるマトリクスピークとベースラインの不安定性が排除されています

図 1. (a) 海底堆積物抽出物の複雑さを示すトータルイオンクロマトグラム。
(b) 四重極 MS と同じ範囲を用いた抽出イオンクロマトグラムでも、ヘキサクロロベンゼンではない多くのピークが残されています。
(c) +/- 2 ppm という抽出範囲の選択性により、ヘキサクロロベンゼンの適度な感度を保ちながら、1b の図で見られるマトリクスピークとベースラインの不安定性が排除されています
(図を拡大)。

(a) 海底堆積物抽出物の複雑さを示すトータルイオンクロマトグラム。(b) 四重極 MS と同じ範囲を用いた抽出イオンクロマトグラムでも、ヘキサクロロベンゼンではない多くのピークが残されています。 (c) +/- 2 ppm という抽出範囲の選択性により、ヘキサクロロベンゼンの適度な感度を保ちながら、1b の図で見られるマトリクスピークとベースラインの不安定性が排除されています

図 1. (a) 海底堆積物抽出物の複雑さを示すトータルイオンクロマトグラム。
(b) 四重極 MS と同じ範囲を用いた抽出イオンクロマトグラムでも、ヘキサクロロベンゼンではない多くのピークが残されています。
(c) +/- 2 ppm という抽出範囲の選択性により、ヘキサクロロベンゼンの適度な感度を保ちながら、
1b の図で見られるマトリクスピークとベースラインの不安定性が排除されています

GC/Q-TOF 分析の選択性

次に、この研究の一環として、多環芳香族炭化水素 (PAH)、ポリ塩化ビフェニル (PCB)、ポリ臭素化ジフェニルエーテル (PBDE)、有機塩素系農薬 (OCP)、多環ムスク系香料 (PCM) といった幅広い種類のサンプルを分析しました。

SPMD サンプルの単純な溶媒抽出物を、GC/Q-TOF で分析しました。図 1a は、600 ppt のヘキサクロロベンゼンを含む海底堆積物サンプルのトータルイオンクロマトグラムにおけるマトリクスの一般的な複雑さを示しています。シングル四重極 GC/MS で得られる特定質量 (m/z 283.8 +/- 0.5 Da) の抽出イオンクロマトグラム (EIC) を図 1bに示しています。この図は、選択性が若干向上していることを示していますが、マトリクスに起因する大きな干渉は依然として残っています。高分解能を備えた Agilent 7200 Q-TOF なら、図 1cに示すように、きわめて狭い抽出質量範囲を用いて選択性を高め、マトリクス干渉を排除することができます。

質量精度とダイナミックレンジ

EIC の優れたピーク形状と低いバックグラウンドにより、直線性が向上します。この種の研究で一般に分析される化合物であるヘキサクロロベンゼンでは、直線ダイナミックレンジが 3 桁を超えています (図 2参照)。定性的な分析や、狭い質量抽出範囲を用いた EIC 分析では、分析サンプルの濃度範囲における質量精度と安定性も重要となります。表 1 では、代表的な化合物グループについて、サンプル濃度 10 ppb における質量精度をまとめています。質量誤差は、おおむね数 ppm レベルでした。

3 桁を超える濃度範囲で直線性を示すヘキサクロロベンゼンのレスポンス

図 2. 3 桁を超える濃度範囲で直線性を示す
ヘキサクロロベンゼンのレスポンス
(図を拡大)。

3 桁を超える濃度範囲で直線性を示すヘキサクロロベンゼンのレスポンス

図 2. 3 桁を超える濃度範囲で直線性を示すヘキサクロロベンゼンのレスポンス

標準溶液 10 ppb

分子式

正確な
質量

測定
質量

質量誤差
(ppm)

フルオレン

C13H10

165.0699

165.0695

-2.42

ヘキサクロロブタジエン

C4Cl6

224.8408

224.8403

-2.22

ヘキサクロロベンゼン

C6Cl6

283.8096

283.8093

-1.05

ディルドリン

C12H8Cl6O

262.8564

262.8551

-4.94

BZ # 52
(2,2',5,5'
–テトラクロロビフェニル)

C12H6Cl4

291.9189

291.918

-3.08

BDE-47_1

C12H6Br4O

485.7106

485.7091

-3.29

DPMI (カシュメラン)

C14H22O

191.1430

191.1430

0

HHCB (ガラクソリド)

C18H26O

243.1743

243.1738

-2.05

 

平均

2.38

表 1. 10 ppb レベルにおける 8 つの化合物の質量誤差、
単位 ppm (測定質量と計算上の正確な質量の誤差)

MS/MS と TOF の組み合わせにより、さらなる柔軟性と利便性を実現

この研究では、ターゲット分析の対象化合物のほとんどを、必要な範囲および定量下限で分析できることが示されました。TOF 質量アナライザの高分解能精密質量分析機能に MS/MS モードをあわせ、MS/MS プロダクトイオンスペクトルをスキャンすれば、選択性をさらに高め、検出下限を引き下げることが可能です。

環境、食品安全、毒物学、メタボロミクス関連の化合物の同定および定量が目的なら、ぜひ、Agilent GC/Q-TOF の利点の詳細を確認してみてください。