Access Agilent 2011年6月号

ICP-MS による排煙/廃水サンプルの高スループット分析

Richard Burrows
TestAmerica Laboratories Inc.、テクニカルサービスディレクタ
Steve Wilbur
アジレントシニアアプリケーションケミスト

米国環境保護庁 (USEPA) は、蒸気発電業界の廃水処理水ガイドラインの改訂を行っています。これらのガイドラインは、石炭、石油、ガス、または核燃料を蒸気タービン発電機で使用している米国内のほとんどの大規模な火力発電所に適用されます。クリーンエア規制では、これらの発電所からの排煙を「スクラバーに通し」、大気中への放出前に SO2 を取り除くことを求めています。これらのスクラバーからの廃水、特に石炭火力発電所からの廃水には、通常は高濃度レベルの汚染物質が含まれています。これらの排煙脱硫 (FGD) 廃水の組成はさまざまですが、マトリックスには、数百~数千 ppm のカルシウム、マグネシウム、マンガン、ナトリウム、ホウ素、塩化物、硝酸塩、硫黄が含まれていることがあります。

これらのマトリックスに含まれる低ppb レベルの微量有害金属の測定は、高濃度レベルの溶解固形物や、マトリックスベースの多原子イオン干渉などが問題となり、ICP-MS の課題となっています。この課題に対応するために、Agilent 7700x ICP-MS を使用する新しいメソッドを開発しました。このメソッドには、高マトリックス導入 (HMI) システムと、ヘリウムコリジョンモードを使用した信頼性の高い干渉除去が含まれます。また、オプションの ISIS-DS によるディスクリートサンプリングを用いることで高いサンプルスループットを達成しました。

図 1. 89 サンプルの分析シーケンス(FGD 実サンプル、必要なすべての QC サンプル、模擬 FGD マトリックスサンプルを含む)における CCV 回収率。回収率の許容範囲 (85 ~-115%) を赤で示します (図を拡大)。

 分析シーケンス  
 ウォームアップ
 機器のチューニング
 マス軸キャリブレーション
 チェックの実行
 分解能チェックの実行
 チューニング基準の検証
 キャリブレーションブランク
 キャリブレーション標準 1
 キャリブレーション標準 2
 キャリブレーション標準 3
 ICV
 ICB
 メソッド (試薬) ブランク
 模擬 FGD マトリックス干渉
 チェック
 ラボ強化模擬 FGD マトリックス
 報告下限確認標準
 CCV
 CCB
 10サンプル (すべてのサンプル
 タイプを含めることが可能)
 1回のLCSと1回のMS/MSDの
 ペアを含める必要がある
CCV
CCB

表 1. 必要なすべての品質管理チェックが含まれる一般的な FGD 分析シーケンス。ICV = 初期キャリブレーションチェック、ICB = 初期キャリブレーションブランク、CCV = 定期キャリブレーションチェック、CCB = 定期キャリブレーションブランク、LCS = ラボ管理サンプル、MS/MSD = マトリックススパイク/マトリックススパイク重複。

USEPA 標準操作手順 (SOP) の開発および検証

はじめに EPA メソッドの性能要件を常に満たすことができることを確認しました。ここには次の内容が含まれます。

  • メソッド検出下限 (MDL) と線形ダイナミックレンジ (LDR) の確認

  • 模擬高マトリックスサンプルの多原子イオン干渉を除去するための He モードの有効性の検証

  • 高マトリックスサンプル分析後に許容可能なレベルまでメモリーが落ちることの確認

次に、一般的な EPA 品質管理 (QC) チェック基準を適用し、EPA で規定されたすべてのキャリブレーションと QC サンプルが含まれる代表的な検証シーケンスで機器の性能を確認しました (表 1)。その結果、必要なすべての品質管理チェックが許容範囲内に収まりましたが、さらに重要な点は、89 のサンプルシーケンスのすべてが範囲内に入ったことです。図 1 に示すように、実サンプルを10 個分析するたびに定期的に測定した定期チェック用標準液 (CCV) の回収率は、+/- 15% 以内に十分に収まっています。

新しい FGD 廃水メソッドには、模擬 FGD マトリックスサンプルと標準を添加した模擬 FGD マトリックスサンプルの 2 つの新しい QC サンプルが必要です。これらの新しいサンプルは、EPA メソッド 6020 に必要な干渉チェック溶液 ICS-A および ICS-AB に類似しています。ただし、模擬 FGD サンプルは、総溶解固形分 (TDS) が ICS-A および AB 溶液よりも大幅に高く、実際の FGD サンプルに一般に多く含まれる高マトリックス元素を含んでいる点が異なります。

混合した模擬 FGD 溶液に対し、すべての測定対象元素が 40 ppb になるようスパイクしました。模擬 FGD マトリックスブランクと模擬 FGD マトリックススパイクの分析結果を表 2 に示します。

質量数/元素 FGDマトリックスチェック溶液 標準添加FGDの添加回収率(%) キャリーオーバーチェック CCV (ppb) CCB (ppb)
51 V -0.187 102.2% -0.068 48.885 0.101
52 Cr 12.699* 96.6% 0.015 48.851 0.117
55 Mn -0.101 94.3% -0.328 48.435 0.100
60 Ni 0.247 88.4% -0.009 48.535 0.154
63 Cu 0.094 91.6% 0.096 47.316 0.115
66 Zn 3.181 86.1% -0.302 49.804 0.100
75 As 0.107 110.0% -0.043 48.205 0.009
78 Se 0.538 120.2% -0.144 49.605 0.186
107 Ag 0.145 94.3% 0.010 47.632 0.003
111 Cd 0.039 98.9% -0.017 48.695 0.017
121 Sb 0.181 98.4% 0.015 50.806 0.031
205 Tl 0.021 90.3% 0.000 48.108 0.008
208 Pb 0.436 92.1% 0.003 48.381 0.008

表 2. 混合マトリックス FGD 干渉チェックサンプルとスパイクした FGD マトリックス溶液の分析。CCV の予想値 = 50 ppb。*Cr の値は干渉でなく汚染であることを同位体比によって確認しています。

ICP-MS メソッドは FGD サンプルルーチン分析の厳しい EPA 基準に合格

新たに開発された SOP は、汚染度の高い、きわめて高マトリックスの FDG 廃水サンプルの分析に関するすべての USEPA 要件を満たします。HMI システムとヘリウムコリジョンモードおよびディスクリートサンプリングを組み合わせることにより、Agilent 7700x ICP-MS は、FGD サンプルの長いシーケンスで主要元素と微量元素の両方を迅速かつ高い信頼性で分析することができます。内部標準の回収率と優れた長期安定性が証明するきわめて堅牢な条件により、最小限の希釈でサンプルを分析できるため、一般に多原子イオン干渉の対象となる元素でさえも最高の検出下限を実現することができます。

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