Agilent 2D-LC/MS ソリューションによる、ワルファリン代謝物アキラル-キラル分析の効率化

Smriti Khera
アジレント医薬品分野マーケティングマネージャ
Siji Joseph
アジレントアプリケーションサイエンティスト

生体試料中の薬物代謝物の分析は、多くのマトリックスの影響を受ける一方、高感度検出と広いダイナミックレンジが求められ、きわめて困難な分析です。酸化代謝物は類似した構造をしている場合が多く 、共溶出することが多く、またMS フラグメンテーションパターンにほとんど差がないことから、分離するためにはクロマトグラフィー手法および直交的手法が必要となります。

キラル薬物代謝物ではさらなる問題が加わります。薬物と法規制の観点から、キラル代謝物エナンチオマーを明確に分離して適切に同定し定量する再現性のあるメソッドが必要となります。Agilent 1290 Infinity II 2D-LC ソリューションは、この困難な分離の問題に対処するために必要な分離能を備えています。

アキラルおよびキラル薬物代謝物の同時、立体特異性分離

インド、バンガロール州、バイオコンブリストルマイヤーズスクイブ研究センター (BBRC) の科学者たちと共同で、アジレントはキラル薬物代謝物を分析するためのメソッドを開発しました。このメソッドでは二次元液体クロマトグラフィー LC (2D-LC) を高分解能 Agilent 6500 シリーズ Accurate-Mass Q-TOF LC/MS と組み合わせて使用しました。2D-LC は、一次元目でサンプルマトリックスから薬物関連の分析対象物のアキラル分離を達成した後に二次元目のキラル分離を行い、このアプリケーションに最適な分離が得られます。Agilent 1290 Infinity II 2D-LC ソリューションは、二次元クロマトグラフィーとメソッド開発をバイオ分析担当者にとってきわめて身近で再現性の高いものにします。

ワルファリンの研究が示す 2D-LC の利点

私たちは 50 年以上使用されてきた抗凝血剤のワルファリン (クマジン) [1] 代謝物分析にマルチハートカット 2D-LC を用いました。ワルファリンは R- エナンチオマーと S- エナンチオマーの等量な混合物として投与されます。各ワルファリンエナンチオマーはさまざまな活性および不活性の立体特異性の酸化代謝物よって差異が消失します。酸化ワルファリン代謝物は類似した構造であり、その多くは同様の MS/MS フラグメンテーションパターンを持っています。ワルファリン療法中の用量反応の関係を理解するには、個体相互間のワルファリン代謝物をより適切に理解することがきわめて重要です。インドの BBRC で同僚の科学者たちとともに、アジレントが提案するワークフローの概念を実証するために、Agilent 2D-LC/MS Q-TOF を用いたワルファリン代謝について研究しました。

この困難な分離を実現するために、一次元目にアキラル逆相カラムを使用して 5 種類のアキラルのヒドロキシワルファリンを相互にかつ親ワルファリンから、そしてマトリックスから分離しました。その後、各ヒドロキシワルファリンを二次元目に転送しマルチハートカット手法を用いてキラル分析を行いました。このメソッドの詳細については、オンデマンドウェビナーおよび以前の Access Agilent の記事で確認できます [2]。

立体異性体を 1 回の測定で適切に同定および定量

図 1. Agilent 2D-LC/Q-TOF メソッドによるワルファリンおよびヒドロキシ代謝物のエナンチオマー分離

図 1. Agilent 2D-LC/Q-TOF メソッドによるワルファリンおよびヒドロキシ代謝物のエナンチオマー分離

図 2. 1 回のクロマトグラフィー測定でのミクロソームインキュベーションの時間経過にともなう、ラセミ体 (R/S)、(R )- ワルファリン、(S)- ワルファリンからのヒドロキシワルファリンの生成速度率

図 2. 1 回のクロマトグラフィー測定でのミクロソームインキュベーションの時間経過にともなう、
ラセミ体 (R/S)、(R )- ワルファリン、(S)- ワルファリンからのヒドロキシワルファリンの生成速度率

図 3. 標準混合物 (上) と重ねて表示した 24 時間の肝細胞インキュベーション (下) の抽出イオンクロマトグラム。すべてのヒドロキシル化代謝物が正確に同定され定量されました。

図 3. 標準混合物 (上) と重ねて表示した 24 時間の肝細胞インキュベーション (下) の抽出イオンクロマトグラム。
すべてのヒドロキシル化代謝物が正確に同定され定量されました。

図 1 は、私たちのメソッドによって、ワルファリンに関連する 12 個すべてのピークをベースライン分離で同時かつ立体特異的に分離できたことを示しています。この分離によって各ヒドロキシワルファリン立体異性体を正確に同定し定量できました。メソッドはすべての分析対象物で 3 桁のダイナミックレンジを持ち、検出下限 (LOD) は 数 nM 範囲で分析可能です。優れた結果によってこの手法の堅牢性が検証されました。

次に、このメソッドを使用して、ヒト肝ミクロソームによるラセミとエナンチオの純ワルファリンのインキュベーションに由来する実環境のサンプルを分析しました。プレートに蒔かれた肝細胞を用いてラセミのワルファリンの経時的研究と 24 時間インキュベーションの両方を実行しました。これらの研究結果は驚くべきものでした。各時点での 1 回のクロマトグラフィー分析のみで、すべての代謝物の生成速度および親薬物の消失速度を求めることができました (図 2)。これらの速度から、各代謝物の固有クリアランス (CLint) を計算できました。

さらに、このメソッドでは 1 回分析するだけで、実際の代謝物サンプルのリテンションタイムと高分解能の Q-TOF MS および MS/MS データ (図 3) との組み合わせによって、各ヒドロキシワルファリンのエナンチオマーを正確に同定できました。

包括的な分析のための包括的なソリューション

アジレントの高度な Agilent 1290 Infinity II 2D-LC ソリューションと高分解能 Q-TOF 質量分析装置との組み合わせは、薬物代謝研究グループが直面するきわめて困難かつ非常に一般的な分析上の問題に対処できるクラス最高のソリューションを提供します。

このアプリケーションの詳細については、この無料のウェビナーをご覧ください。また、医薬品を市場により速く投入するために役立つ新しいヒントやツールについてもご確認ください。