食品中残留農薬の検出下限を引き下げる 新しい Agilent 7000C トリプル四重極 GC/MS システム

Melissa Churley
アジレントシニアアプリケーションサイエンティスト

食品汚染物質の分析に求められる検出下限が引き下げられるのに伴い、感度の高い機器の必要性が高まっています。最近の研究では、複雑なサンプルでも精密な分析結果が得られるように設計された新しい Agilent 7000C トリプル四重極 GC/MS システムを使えば、そうしたニーズを満たせることが明らかになりました。

食品中の残留農薬については、検出下限を引き下げる取り組みが続けられています。そうした取り組みは、世界中の分析科学者の悩みの種になっています。SANCO/3346/2001 rev 7 では、最大残留基準値 (MRL) について、次のように規定されています。「適切な散布量および待機期間で農薬を作物に使用した試験から得られた残留値にもとづく。この値が消費者曝露の許容範囲内であるかどうかを確認するには、急性摂取と慢性摂取の両方について、各種消費者群の摂取量を計算する。値が許容範囲内なら、委員会により MRL を設定する。許容範囲外なら、LOD (分析測定限界) を適用する」。

欧州連合 (EU) および日本では、このデフォルト値 (閾値) は 0.01 mg/kg (10 ng/g) に設定されています。しかし、ベビーフードなどについては、影響を受けやすい消費者群における曝露を評価するために、できる限り低い値で残留農薬データを採取することが求められます。本研究 は、10 ng/g を下回る濃度の残留農薬分析において、新しい Agilent 7000C トリプル四重極 GC/MS の性能を評価することを目的としています。

抽出メソッドと分析メソッドのバリデーション

この研究で用いた抽出および分析メソッドは、Agilent 7000 シリーズトリプル四重極 GC/MS を用いて、複数の米国立研究所で完全にバリデーションされたものです。メソッドの詳細については、Agilent GC/MS/MS 残留農薬分析ガイドとアジレントアプリケーションノート 5990-1054EN (英語版)に記載されています。

この研究では、最高の GC/MS サンプル流路の不活性度を高めるために、以下の不活性部品を使用しました:

  • Agilent J&W HP-5ms ウルトライナート GC カラム、5 m × 0.25 mm × 0.25 µm および 15 m × 0.25 mm × 0.25 µm (G3903-61005、19091S-431UI)
  • Agilent ウルトライナート 2 mm ディンプルドライナ (5190-2297)
  • Agilent UltiMetal Plus フレキシブルメタルフェラル、カラムバックフラッシュのためにパージ付き Ultimate ユニオンを使用
冬カボチャおよびプラムに一般的に含まれる典型的な農薬について、推定 LOQ で優れた結果が得られています。

図 1.冬カボチャおよびプラムに一般的に含まれる典型的な農薬について、推定 LOQ で優れた結果が得られています。(図を拡大)

冬カボチャおよびプラムに一般的に含まれる典型的な農薬について、推定 LOQ で優れた結果が得られています。

図 1.冬カボチャおよびプラムに一般的に含まれる典型的な農薬について、推定 LOQ で優れた結果が得られています。

分析したマトリックスは、分析難度が中程度の冬カボチャから高難度のプラムまで、多岐にわたります。サンプル前処理には、Agilent AOAC QuEChERS 抽出および分散キット (5982-5755、5982-5058) を使用しました。抽出したマトリックスを 0.1、0.5、1、5、10、20、50、100 ng/g で添加し、110 種類の農薬混合物のキャリブレーション用標準を作成しました。その後、一連の標準を 3 回または 5 回連続して注入し、シーケンスの途中でキャリブレーションをおこないました。分析したすべての農薬の 8 点検量線は、直線適合法を使用して作成しました。

優れた直線性を示す結果

キャリブレーションで得られた R2 は、すべてのケースで 0.99 を上回りました。
図 1 は、冬カボチャおよびプラムで一般的に検出される典型的な農薬について、規定の定量下限 (LOQ) で定量した結果を示しています。LOQ の決定にあたっては、算出値について得られた %RSD < 20 (n=5) および S/N >10 などの基準を使用しました。平均算出値と %RSD を示しています。

信頼性の高い定量を実現

8 種類の濃度の 5 つのキャリブレーションセットの連続注入をもとに、LOQ を推定しました。表 1 では、きわめて分析困難なものを含む一部の農薬の推定 LOQ と EU 最大残留基準値 (MRL) を比較しています。一部の例外を除き (MRL を上回ったのは、各マトリックスで LOQ の 3 % のみ)、冬カボチャおよびプラム中のすべての分析対象農薬について、EU MRL を大きく下回る信頼性の高い定量下限が得られています。冬カボチャ中の 110 種類の農薬のうち、84 種類で推定 LOQ が 1 ng/g 以下となり、100 種類で LOQ が 5 ng/g 以下となりました。プラムでは、83 種類の農薬の推定 LOQ が 1ng/g 以下、100 種類が 5ng/g 以下でした(この研究では使用していませんが、塩基に対する反応性が高いキャプタンとフォルペットについては、特に注入 40 回を超える連続測定の場合は、回収率をコントロールして信頼性の高い結果を確保するために、重水素化 ISTD の添加を推奨します)。

農薬

冬カボチャの EU MRL
(ng/g)

推定 LOQ
(ng/g)

プラムの EU MRL
(ng/g)

推定 LOQ (ng/g)

キャプタン

20

1

7000

51

シペルメトリン

200

20

2000

20

デルタメトリン

200

1

100

5

ジクロベニル

10

0.1

10

0.5

エンドスルファン、アルファ-

502

5

502

10

硫酸エンドスルファン

502

1

502

0.5

フェンプロパスリン

10

1

10

1

フォルペット

1000

0.5

20

51

フルシラゾール

20
0.1
100
0.5

イプロジオン

1000
0.5
3000
0.5

フェノトリン I および II (合計)

50
5
50
10

ピペロニルブトキシド

103
1
103
5

レスメトリン I および II

1004
10
1004
5

トリフルラリン

10
0.5
10
0.5

1 n = 3 にもとづく推定 (3 キャリブレーションセット、24 回注入に相当)
2 アルファおよびベータ異性体、硫酸エンドスルファンの合計
3 記載なし
4 各異性体の合計
規則 (EC) No 1107/2009で定められた MRL、 8/10/2013 に更新された MRL (EU 農薬データベース)

a) 冬カボチャおよび b) プラムにおける濃度 0.5、1、10 ng/g  %RSD の分布 (すべて n = 5)。

図 2.a) 冬カボチャおよび b) プラムにおける濃度 0.5、1、10 ng/g %RSD の分布 (すべて n = 5)。(図を拡大)

a) 冬カボチャおよび b) プラムにおける濃度 0.5、1、10 ng/g  %RSD の分布 (すべて n = 5)。

図 2.a) 冬カボチャおよび b) プラムにおける濃度 0.5、1、10 ng/g %RSD の分布 (すべて n = 5)。

80 % を超える農薬で、濃度 1 ng/g の %RSD が 20 未満

図 2 は、冬カボチャ (a) とプラム (b) について、0.5、1、10 ng/g という 3 つの濃度で算出した値をもとに、それぞれの %RSD が得られた農薬の数を示しています。8 種類のキャリブレーション用標準の 5 回注入から、RSD 値を算出しました。分析した 110 種類の農薬のうち、冬カボチャでは 92 種類、プラムでも 92 種類で、濃度 1 ng/g の %RSD が 20 を下回りました。

Agilent 7000C トリプル四重極 GC/MS システムを使えば、冬カボチャおよびプラムに含まれる主要農薬を、10 ng/g の閾値濃度以下で定量することが可能です。堅牢で信頼性と感度の高い7000C トリプル四重極GC/MSシステムをぜひご検討ください。(http://www.agilent.co.jp/chem/7000C_TQ