食品中の残留農薬分析におけるサンプル前処理時間を短縮させ、高い効率を実現する新製品

Joan Stevens
アジレント SPE アプリケーションケミスト

果実や野菜などの食品に含まれる残留農薬分析は、世界中の規制関連ラボや製造メーカーラボ、受託ラボの重要な業務です。農薬の種類が幅広く、食品マトリックスが複雑であることから、そうした分析の際には、あらかじめサンプルを抽出し、精製する必要があります。さまざまな濃度や種類を扱う農薬分析に関して、高速かつ効率の良い手法を求めるニーズに応えるために、アジレントは前処理時間を短縮し、分析の一貫性を確保できるシンプルなキットを提供しています。

アジレントのキットは、USDA 科学者により導入された QuEChERS メソッドをベースにしています。このキットを使えば、農薬分析用の食品サンプルの前処理を大幅に単純化することができます。QuEChERS (「キャッチャーズ」と発音します) は、迅速「Quick」、簡単「Easy」、安価「Cheap」、効率「Effective」、堅牢「Rugged」、安全「Safe」の頭文字をとったものです。 QuEChERS メソッドを使えば、いくつかの簡単な手順のみで、農薬分析用の食品サンプルの前処理を行うことができます。あらかじめパッケージされた Agilent SampliQ QuEChERS キットは、QuEChERS メソッドの効率を提供するほか、面倒な前処理作業を減らし、メソッドの信頼性を高めます。

図 1. QuEChERS サンプル前処理手順により、サンプル前処理ステップが簡単になり、必要な溶媒の使用量やガラス器具が減少します (画像を拡大するにはここをクリックします)
図 2. 農薬 10 ng/g を添加したリンゴ抽出物のクロマトグラムは、規定された濃度における感度が十分に得られていることを示しています (画像を拡大するにはここをクリックします)
図 3. ブランクリンゴ抽出物のクロマトグラムでは、干渉は観察されていません (画像を拡大するにはここをクリックします)
図 4. 分散 SPE 精製で抽出した 1 および 8 mL のサンプルにおける AOAC メソッドの回収率と RSD は、良好な値が得られています (画像を拡大するにはここをクリックします)

用途の広いキット

ラボで使われている QuEChERS メソッドには、Association of Analytical Communities メソッド (AOAC 2007.01) と European Committee for Normalization メソッド (EN 15662) という 2 つのバージョンがあります。SampliQ QuEChERS キットは、どちらのバージョンにも対応しています。図 1 は、2 つのバージョンにおけるサンプル前処理手順を示しています。

QuEChERS メソッドでは、ステップ1のアセトニトリル抽出を行う一方で、サンプルから水分を塩析し、液液分配を誘発します。さらに精製する場合は、分散固相抽出 (分散 SPE) により有機層をさらに精製します。アジレントは、メソッドやサンプルサイズに応じて選択できる各種抽出キットに加えて、メソッドや分析する食品に応じて選択できる幅広い分散 SPE キットも提供しています。標準的な操作手順で、キット選択の方法を紹介しています。

最新のアジレントアプリケーションノート (5990-3937EN および 5990-3938EN) では、16 種類の農薬を用いて、一般的な果実や野菜の分析における Agilent SampliQ QuEChERS AOAC および EN バッファ抽出キットと、AOAC および EN 分散 SPE キットの性能を紹介しています。この分析では、酸性農薬、塩基性農薬、中性農薬、塩基及び酸に不安定な農薬など、9 種類の代表する農薬を使用しています。リンゴから農薬を抽出および精製したのちに、LC/MS/MS で分析しました。これらの農薬の最大残留基準値 (MRL) は、10 ng/g 以上です。

時間を短縮し、結果を向上

これらの研究では、Agilent SampliQ QuEChERS キットの独特なデザインにより、手順全体が高速化し、簡単になっていることが示されています。40~50 のサンプルを、数時間で処理できます。図 2 は、農薬 10 ng/g を添加したリンゴの分析結果を示しています。これほど低い濃度でも、すべての化合物が良好に検出されていることがわかります。各農薬の定量下限 (5 ng/g~5 ppb) は、規定された MRL を下回りました。図 3 は、ブランクのアップル抽出液の分析結果を示しています。マルチプルリアクションモニタリングモードにおけるトリプル四重極 LC/MS/MS の選択性の高さにより、あらゆる干渉が除去されています。

難しい化合物でも優れた回収率を実現

アジレントの SampliQ QuEChERS の塩およびバッファは、無水パッケージで独自に調製されています。これにより、オリジナルの QuEChERS メソッドで規定されているように、サンプルへ溶媒を添加した後に塩を添加することが可能になっています。水含有率の高い食品サンプルを塩に直接添加すると、発熱反応が生じ、分析物の回収率に影響を与える必要がありますが、SampliQ QuEChERS ではそうした問題を回避できます。

AOAC メソッドにおける 2 通りの抽出量の回収率と精度を 図 4 に示しています。このグラフでは、比較を簡単にするために、すべての農薬について、3 段階の濃度で添加した場合の平均回収率と平均精度を示しています。ジクロフルアニドやトリフルアニドといった塩基性で不安定な農薬でも、良好な回収率と相対標準偏差 (RSD) が得られています。酸に不安定なピメトロジンでも、回収率と RSD は許容範囲内に収まっています。

QuEChERS メソッドは、果実や野菜、加工食品に含まれる残留農薬分析におけるサンプル抽出および精製手順を大幅に簡略化します。Agilent SampliQ QuEChERS キットを使えば、手間やコストを削減し、高品質で一貫した分析結果を得ることができます。詳細については、QuEChERS メソッドの各手順を説明する紹介ビデオでご覧いただけます。また、ここで挙げた実験を解説したアプリケーションノート (5990-3937EN および 5990-3938EN) もダウンロードできます。