Access Agilent 2015年11月号

食品中の残留農薬検出へのノンターゲット質量分析の活用

John Lee
アジレント食品市場マネージャ

食品サプライチェーンが拡大しグローバル化がますます進むにつれ、残留農薬汚染のタイプが多様化してきています。1,000 種類を超える承認済みの農薬があり、農業生産者が使用許容量を超えて使用してしまうミスが生じることもあります。使用禁止農薬の使用という潜在的リスクも、無視することはできません。その結果、健康被害防止のためにターゲットを絞った農薬類を選択して分析することは極めて困難になってきており、多くの政府研究分析機関は重要なデータを採取するためにノンターゲット質量分析 (MS) 手法に注目しています。

農薬類のモニタリングに関して Access Agilent では 2 つの記事を準備しました。今号の記事では、フルスキャンモードで機能する質量分析計が農薬類の検出と測定でいかに効果的なツールであるかを解説します。この測定データは再解析する際でも特定の農薬類だけに限定されることがありません。通常、監視のスキームで設定されていない新たな農薬でも以前のデータから検索することができます。分析に際して、フルスキャンでモニター対象となる農薬類の数が多く、求められる検出限界が低いときには、マトリックス効果への不安があります。そのため、サンプル前処理は重要です。

農薬ライブラリとオメトエートの精密質量スペクトルを示す PCDL ソフトウェア。

図 1. 農薬ライブラリとオメトエートの精密質量スペクトルを示す PCDL ソフトウェア。(図を拡大)

農薬ライブラリとオメトエートの精密質量スペクトルを示す PCDL ソフトウェア。

図 1. 農薬ライブラリとオメトエートの精密質量スペクトルを示す PCDL ソフトウェア。

ターゲット MS/MS モードとライブラリ検索による果実および野菜中農薬のスクリーニングと確認の結果。

表 1. ターゲット MS/MS モードとライブラリ検索による果実および野菜中農薬のスクリーニングと確認の結果。(図を拡大)

ターゲット MS/MS モードとライブラリ検索による果実および野菜中農薬のスクリーニングと確認の結果。

* 主な化合物の付加物のスペクトルはありません
*** 負イオンモードで得られた化合物の分析結果

表 1. ターゲット MS/MS モードとライブラリ検索による果実および野菜中農薬のスクリーニングと確認の結果。
(緑:MS/MSライブラリによる自動検出とスペクトル同定された農薬、黄:MS/MSライブラリによる自動検出された農薬)

イオンクロマトグラム (A) と農薬スクリーニング分析から計算で求めた共溶出プロット (B) との重ねあわせ。

図 2. イオンクロマトグラム (A) と農薬スクリーニング分析から計算で求めた共溶出プロット (B) との重ねあわせ。(図を拡大)

イオンクロマトグラム (A) と農薬スクリーニング分析から計算で求めた共溶出プロット (B) との重ねあわせ。

図 2. イオンクロマトグラム (A) と農薬スクリーニング分析から計算で求めた共溶出プロット (B) との重ねあわせ。

カルベンダジムの 5 つの有効な定量フラグメントを示すソフトウェア分析の結果。

図 3. カルベンダジムの 5 つの有効な定量フラグメントを示すソフトウェア分析の結果。(図を拡大)

カルベンダジムの 5 つの有効な定量フラグメントを示すソフトウェア分析の結果。

図 3. カルベンダジムの 5 つの有効な定量フラグメントを示すソフトウェア分析の結果。

農薬類の拡大に伴って必要となる最適なサンプル前処理

ノンターゲット MS を活用するラボでは、有効なサンプル前処理ストラテジーを見つける必要があります。農薬類を確実に回収するとともに高感度で信頼性の高い検出を可能にするために、妨害となる食品マトリックスを十分に除去する必要があります。農薬類の性質は様々で、また分離を必要とする農薬類も存在します。アジレントは、分析が難しいとされている高脂肪食品などのマトリックスであっても、十分に設計された QuEChERS プロトコルを使用して多くの農薬類を抽出する方法を示してきました。

フルスキャンスクリーニングに最適なツールとしての Agilent Q-TOF MS

アジレントは、LC および GC の優れた分離と Q-TOF 質量分析計の優れたフルスキャン性能を提供します。農薬類を幅広くカバーするには、GC と LC の分離が必要となります。食品の高マトリックスでは、前処理クリーンアップした後でも、 MS イオン源に農薬イオンと共に大量のマトリックスが導入され、イオン化されます。Agilent Q-TOF システムは、質量精度 5 ppm 未満という高分解能でこれらのイオンを検出できるため、大量のマトリックスイオンが発生していても、より低いレベルで農薬類を検出できます。さらに、Q-TOF の選択性によって農薬と同時に MS検出部に至るマトリックスイオンを排除します。イオントラップ型質量分析計では、マトリックスイオンの排除は困難です。イオントラップ型機器とは異なり、Q-TOF の農薬の感度は、同時に発生する他の妨害イオンの量に影響を受けません。そのため、Q-TOF システムはノンターゲット分析に適しています。

グローバル連携が作りあげた新しい農薬精密質量ライブラリ

アジレントは世界中の主要な政府研究機関と共同で研究して Q-TOF MS を使用する定量農薬スクリーニングのソリューションを構築しました。ドイツ、ドレスデンにある健康と獣医学に関する州立研究所 (State Laboratory for Health and Veterinary Affairs) とのプロジェクトでは、農薬の精密質量 LC/MS/MS ライブラリを利用して果実や野菜の抽出物中の農薬の LC/Q-TOF スクリーニングを実行しました。MS/MS ライブラリ一致により結果の信頼性が高いことを検証しました。偽陽性率を低く抑えられるという結果が得られました (図 1)。

3 つの異なる農作物で 50 種類以上の農薬のスクリーニングおよび同定を行い、メソッドが適切であることが検証されました (表 1)。ルーチンモニタリングプログラムから得られる実際のサンプルに適用したところ、以前に検出されたすべての農薬がこの Q-TOF 手法で同定できました。

この分析で使用したライブラリには 770 種類の農薬類の最大 3 つの異なるコリジョンエネルギーと両方の極性での精密質量 MS/MS スペクトルが収録されています。このライブラリは、精査された条件の下に作成され、現在、Agilent PCDL (パーソナル化合物データベース) ポートフォリオのベースとなっています。1600 種類の検索可能な化合物がエントリされている Agilent LC/MS 農薬アプリケーションキットの一部にもなっています。

シンプルな操作でデータ確認ができる Agilent LC/Q-TOF データの検索と確認

LC/Q-TOF では、Agilent All Ions MS/MS データ取り込みで Agilent PCDL ライブラリを併用することも可能です。これは完全なノンターゲットのデータ採取モードで、分子イオンとフラグメントイオンの両方の情報を同時に採取可能なモードです。 PCDL 内のすべてのフラグメントイオンの溶出プロファイルを追跡する共溶出スコアによって農薬類を検出します (図 2)。データ確認はとてもシンプルで、フラグメントイオンを基に農薬類の確認も実行できます (図 3)。

アジレントQ-TOFテクノロジーは、 LCと GC両方で威力を発揮します。

GC/Q-TOF においても、より多くの農薬類がモニタリングできます。ノンターゲット分析では、LC/Q-TOF と同様なデータ処理が可能です。次の Access Agilent 記事では GC/Q-TOF の解説も予定しています。ご期待ください。 Agilent LC/MS および GC/MS の食品分析ソリューションも合わせてご覧ください。