Access Agilent 2010年10月号

トリプル四重極 LC/MS の感度を高める iFunnel 技術

Paul Momoh、Anabel Fandino、Ed Aisawa、Tim Schlabach、Ken Miller、George Stafford
アジレントサイエンティストおよびエンジニア

トリプル四重極型質量分析計は、多くのアプリケーションで低い検出下限が求められるラボにおいて、主力定量機器として使われています。食品中の微量農薬や、血清に低濃度で含まれる代謝物、血漿中のバイオマーカーの分析において、より感度を向上させると言う事は分析の堅牢性が高め、微量の重要化合物を検出できる事を意味します。アジレントの革新的な iFunnel 技術を搭載する Agilent 6490 トリプル四重極 LC/MS システムを使えば、従来のシステムの最大 10 倍の感度が実現します。

図 1. iFunnel 技術を搭載した新しい Agilent 6490 トリプル四重極型 LC/MS は、ゼプトモル域の高感度分析を可能にします (写真は Agilent 1290 Infinity LC システムと連結したもの)。

タンデム LC/MS のイオンの欠点を解消

エレクトロスプレーイオン化 (ESI) は、さまざまな種類の化合物の分析に利用できる堅牢な手法ですが、システムを通過し、MS 検出器でシグナルレスポンスを発生させるイオンの数は、103 から 105 個につきわずか 1 つにすぎません [1]。この欠点が、LC/MS システムの感度を根本的に制限しています。

アジレントの新しい iFunnel 技術は、Agilent Jet Stream (AJS) サーマルグラジエントフォーカシング技術の優れたイオン生成およびフォーカシング機能と、ヘキサボアキャピラリサンプリングアレイを組み合わせたものです。これにより、質量分析計のイオンオプティクスへ送りこまれる ESI スプレープルームが、従来よりも大幅に増加しています。また、独自のデュアルステージイオンファネルにより、イオン透過率を向上させると同時に、より多くのガスを除去することが可能になっています。iFunnel 技術は、四重極型タンデム質量分析計の歴史上初めて、従来の流量でゼプトモル (10-21 モル) 域の検出下限を実現し、高感度分析の新時代を切り開くものです。

より多くの分析イオンを送り込む新しいヘキサボアサンプリングキャピラリ

iFunnel 技術の開発に先立って実施された研究では、平行な ESI プルーム中で生成されるイオンの多くが、質量分析計で捕捉されていないことが明らかになりました。質量分析計のエントランスキャピラリ正面に位置する AJS プルームの横方向の位置を変化させる実験により、もっとも多くのイオンが生成されるのは、プルーム中心から水平方向に 3 ~ 5 mm の範囲の領域であることがわかりました。つまり、感度の高い Agilent 6460 トリプル四重極型 LC/MS システム (1 つ前の世代の機器) でも、多くのイオンがシングルボアキャピラリに入ることができないのです。

複数のキャピラリを導入すれば、イオンサンプリング効率が高まり、良好な脱溶媒性能を維持できることが、研究により明らかになっています。6490 トリプル四重極システムでは、6 つのキャピラリが円形に配置されています。しかし、キャピラリの数が増えると、質量分析計のガスロード量が増加します。Agilent 6460 トリプル四重極のシングルボアキャピラリでは大気ガスのロード量が 1.5 L/min であるのに対し、ヘキサボアキャピラリサンプリングアレイでは約 9 L/min になっています。このアレイでは、平行な ESI プルームから来るイオンの処理量は増加しますが、それと同時に、従来よりも大量のガスをイオンから分離する必要が生じます。

図 2. iFunnel デュアルイオンファネルアセンブリは、大気ガスと中性種を除去し、Agilent 6490 トリプル四重極の低圧オプティクスへイオンを導きます(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 3. オンカラム 1 pg のアルプラゾラムの感度比較では、iFunnel 技術を備えた 6490 トリプル四重極 LC/MS の感度が、6460 トリプル四重極システムの 10 倍にのぼることが示されています(画像を拡大するにはここをクリックします)。
図 4. オンカラムで 100 アトグラムのベラパミルを用いた分析では、新しい 6490 トリプル四重極 LC/MS の優れた感度が示されています(画像を拡大するにはここをクリックします)。

圧力を下げながらイオンを集束させる
革新的なデュアルイオンファネル

この問題を解決するのが、イオンファネルシステムの導入です。イオンオプティクスの構成要素であるこのシステムは、分散するイオンを効率的に捕捉して集束させ、イオンのフローを導いて、ガス量が増加している MS システムの初期段階を通過させるためのものです。

6490 トリプル四重極型システムでは、デュアルイオンファネルアセンブリが導入されました。このアセンブリは、図 2 に示すように、2 段階でガスを除去します。第 1 のファネルは高圧で、専用の低真空システムにより圧出されています。この第 1 のファネルの電圧と RF フィールドがイオンを前方へ送り出し、第 2 の低圧ファネルの入口に合わせてイオンの軌道を集束させます。第 2 のイオンファネルでも、このプロセスが繰り返されます。

劇的な感度の向上

iFunnel 技術を備えた新しい 6490 トリプル四重極 LC/MS システムでは、6460 トリプル四重極システムと比べて、アルプラゾラムのシグナル/ノイズ比が 10 倍も向上します。いずれのシステムも、Agilent Jet Stream 技術を使用しています (図 3)。新しい 6490 LC/MS システムでは、ポジティブイオンモードとネガティブイオンモードの両方で、多くの化合物の感度が大幅に向上することが確認されています。

iFunnel 技術による劇的なシグナル強度の向上は、検出下限の大幅な向上につながります。オンカラムでわずか 100 アトグラムのベラパミルを注入した分析では、ノイズと明確に区別できるレスポンスが得られています (図 4)。このケースのベラパミルの検出下限は、約 100 ゼプトモルです。

アジレントの iFunnel 技術は、独自の Agilent Jet Stream 技術とヘキサボアキャピラリサンプリングアレイ、そしてデュアルステージのイオンファネルアセンブリという組み合わせにより、AJS スプレープルームから 6490 イオンオプティクスへ送りこまれるイオンのサンプリング効率と透過率を向上させます。この新技術により、以下のことが実現します。

  • タンデム LC/MS の感度が大幅かつ安定して向上
  • ポジティブイオンとネガティブイオンの感度がともに劇的に向上
  • 一部の化合物ではゼプトモルの検出下限が実現

トリプル四重極型分析の感度を高める必要がある場合は、iFunnel 技術の技術概要 (5990-5891EN) で詳細をご確認ください。その後、お近くのアジレント代理店にお問い合わせください。

参考文献

  1. J. S. Page, R. T. Kelly, K. Tang, and R. D. Smith, "Ionization and transmission efficiency in an electrospray ionization-mass spectrometry interface," J. Am. Soc. Mass Spectrom., 18:1582-1590, 2007.