16 世紀初頭、「A penny for your thoughts」という言い回しが生まれたとされています。これは、考え込んでいる人に何を考えているか尋ねる表現で、「考えていることを教えてくれたら1ペニーをあげよう」というのが元々の意味です。しかし科学について言えば、研究者の思考を実現するには 1 ペニーではとても足りません。研究を支えるお金はさまざまな経路で集められます。研究機関自体が用意することもあれば、政府が助成することもあり、さらに産業界からの支援も増えています。極めて必要性の高いこれらの多額の資金は、その資金によって可能になったかけがえのない科学的な進歩と比べれば、色あせて見えるものです。

ガリレオ・ガリレイ

革新的な科学的発展を可能にするもの

歴史的にも、科学は裕福な後援者からの寄付で発展してきました。地球の公転という大発見をしたガリレオ・ガリレイもそのような支援を受けています。ガリレオが教育を受けたピサ大学は、教育と芸術のパトロンだったローマ教皇クレメンス 6 世によって設立されました。

多くの大学が、科学の発展は大学の責務だという考え方を採っていましたし、この信念は今も当然であると受け止められています。大学での研究には政府が資金を出すべきだと考える人も多く、実際に多額の出資がされています。しかし、政府からの補助金は減額を続けており、近年は特に落ち込んでいるため、大学は自分たちの研究と将来の科学の発展のために、民間の基金や産業界からの支援に目を向けています。

産学連携の重要性

産学連携の重要性

研究資金の拠出元である産業界は、収益につながるプロジェクトへの投資を好むと考えられています。例えば、応用研究に力を入れれば、開発する製品を速やかに市場投入できる可能性があります。しかし、より広い分野での応用研究を可能にする知識基盤を得るには、基礎研究が欠かせないということも明白です。

大学にとって産業界との連携は、価値ある科学知識を得るための研究を支える資金集めや機器の調達などの手段として、非常に重要です。企業などの組織にとっても同様に、学術機関との連携 は欠かせません。現実の課題に対するソリューションの開発を目的に、科学的な研究プロジェクトを共同で実施するためです。資金提供を受けることで、大学は産業界に問題解決のためのリソースをより多く提供できるようになります。

アジレントの Thought Leader Award プログラム

この取り組みを通して、アジレントは長年にわたりプログラムを開発し、資金を投じ、世界中の科学研究を支援してきました。アジレントと研究機関の双方に利益をもたらすため、そして当然のことながら、科学の発展のためです。アジレントの University Relations and External Research 部門でアソシエートディレクターを務める Leo Brizuela は次のように述べています。「アジレントの Thought Leader Award プログラムは、アジレントと社会全体にとって重要な研究の最前線にいる人々が成果を上げられるように支援しています。一方で、連携して研究を続けていくための関係の構築も行っています」

10 周年を迎えたアジレントの Thought Leader Award プログラム

10 周年を記念して

2020 年、アジレントの Thought Leader Award プログラムは 10 周年を迎えました。アジレントの University Relations and External Research 部門が行っているプログラムの 1 つで、2010 年に始まって以来、ライフサイエンスや診断、化学分析の分野で影響力のあるソートリーダーの研究に、資金や製品、専門性を提供することで、基礎研究の発展を推進しています。

このプログラムの主な目的の 1 つは、厳選された大学のトップリサーチャーの研究を認め、支援することです。支援の中心は、戦略的な関係の構築と研究への資金提供です。もう 1 つの目的は、革新的かつ影響力の大きな研究でのアジレントの製品とソリューションの利用を促すことです。また、Thought Leader Award プログラムは、お客様のニーズと課題について重要な情報を得る機会にもなっており、アジレントの製品提供や新しいアプリケーション開発の拡大につながっています。

世界中で起こっている科学の進歩を祝して

アジレントの Thought Leader Award プログラムはアメリカ大陸で始まり、次に欧州、そしてアジア太平洋地域へと広がっていきました。招待制のプログラムで、これまでに世界中から 50 人のソートリーダーが受賞し、長期的な繋がりと関係を築いています。アジレントは 5 人の Thought Leader Award の受賞者から、このアワードのメリットと研究にもたらした影響について聞きました。

Gang Yu

清華大学、Gang Yu 教授(中国、北京)は、水質汚染の原因となる新たな有機物に関連した環境科学およびエンジニアリングの研究で、2019 年 8 月に受賞しました。Yu 教授は次のように述べています。

「技術開発、才能の育成、そして社会への貢献を促進するために、産業界との連携は非常に重要です。研究資金や高度な機器、アプリケーション技術などの支援を受けることで、将来を見据えた研究を行うことができます。例えば、環境中に微量に存在する新規汚染物質を調査したり、そのような汚染物質が特定の地域の生態系にもたらすリスクを分析するための高度なスクリーニングメソッドを確立したりすることが可能になったのです。管理のため、また政策決定の参考として政府にも提出しています」

Rohit Bhargava

イリノイ大学、Rohit Bhargava 教授(米国イリノイ州アーバナ、アーバナ・シャンペーン校)は、赤外線分光分析イメージングの開発とそのライフサイエンス研究への応用に関する先駆的な研究で、2016 年 10 月に受賞しました。Bhargava 教授は次のように述べています。

「アジレントからのサポートにより、IR イメージングの発展について、ラボで進行中のプロジェクトやこの分野での現在の方向性にとらわれることなく、再考することができました。光学設計をゼロからやり直し、顕微鏡の新たな形状について考え、さらに新しい組織イメージングアプリケーションや IR イメージングの理論基盤の研究が可能になりました」

Jeffrey Gordon

ワシントン大学医学部、Jeffrey Gordon 教授(ミズーリ州セントルイス)は、人体とその消化管に住む数百億の微生物との互恵的な関係についての先駆的な研究で、2015 年 10 月に受賞しました。Gordon 教授は次のように述べています。

「アジレントの Thought Leader Award は、私たちの研究にとってカギとなる最先端の分析機器やリソース、そしてアジレントの科学者たちとの極めて有益かつ長期的な交流をもたらしてくれました。そういった交流は、子ども時代の栄養不足に起因する発症機序の分析や、微生物を利用した治療の開発に関連する私たちの研究にさまざまな面で大きな影響を与えています」

Emmanuel Barillot

キュリー研究所、Emmanuel Barillot 教授(フランス、パリ)は、システム毒性学用の Web ベースで使いやすいバイオインフォマティクスツールの先駆的な開発で 2013 年 8 月に受賞しました。Barillot 教授は次のように述べています。

「アジレントの Thought Leader Award は、生物学的パスウェイ解析のバイオインフォマティクスツールの開発という私たちの研究にとって、大きな後押しになりました。がん研究は現在、その大部分をバイオテクノロジーの革新に拠っています。このような技術を開発する産業界と、技術を使って科学的な問いに答え、独創的な知識を生み出す研究者とが協調して行動することが重要です。私たちの場合は、アジレントからの資金提供により、がんを特性解析するために生成される大量の分子データ間のギャップを埋め、がん発症への理解を深めるとともに、新しい治療戦略を提案するための進展が可能となりました」

Jens Frisvad

デンマーク工科大学、Jens Frisvad 教授(デンマーク、リュンビュー)は、食品安全性、特にカビ毒であるマイコトキシンのメタボロミクスに関する研究を支える測定ソリューションへの貢献と専門性で、2012 年 5 月に受賞しました。Frisvad 教授は次のように述べています。

「研究プロジェクトの資金獲得や新しい機器への投資が一般的に難しくなっている昨今、産業界との連携には大きな意味があります。アジレントのような企業の果たす役割は重要で、私たちは助成金という形で産業界の関与に支えられています。場合によっては、行っている研究の成果として、産業界にその見返りとなるような助言を贈ることもできます。これこそ、両方がメリットを得られる適切な連携を生み出すものです」

資金の適正な使用

アジレントはすべての人の健康のために多くの力を注いでいます。これは生活の質の向上と人間の健康状態の改善というアジレントのミッションにも反映されています。Thought Leader Award プログラムなどのイニシアチブを通して、アジレントは、意義のあるコラボレーションの創造と科学的な発展の実現、そして次の世代のための人間の未来と地球環境の保全に取り組んでいます。