ケーススタディ :エクスポソミクスが明らかにする疾患メカニズム解析 - Howard “Skip” Kingston 博士

Howard “Skip” Kingston 博士
分析化学および生化学教授

Duquesne University、米国ペンシルバニア州ピッツバーグ
Environmental Research and Education Center、Center of Excellence in Mass Spectrometry、および Center for Mass Spectrometry, Microwave, and Analytical Chemistry 創設者

ついに明らかに! エクスポソミクスが
ヘルスケアに革命を起こす

Howard “Skip” Kingston 博士は、世界中の最先端病院で患者治療にあたる医師らとの対話に多くの時間を費やしています。そのとき、確かな情報にもとづく実行可能な判断を下すためにはどのようなデータが必要かを尋ねます。それが現時点で可能かどうかは問いません。

Kingston 博士には、これまで不可能と思われていた測定を可能にする方法を編み出す才能があります。そして、その測定に利用されているのがアジレントの機器です。

Kingston 博士はこの 10 年に渡り、エクスポソミクスに重点的に取り組んできました。エクスポソミクスは、人の健康を脅かす最大の脅威の 1 つ、非伝染性疾患の急増の解明に必ずや役立つ分野として成長しつつあります。

心血管疾患からがんまで、多くの病気の原因は、人から人への感染ではなく、環境要因やライフスタイルの選択にあると考えられます。

Kingston 博士が開発した測定法の中には、2 つの改良型同位体希釈質量分析法と、ダイレクト SIDMS (Speciated Isotopic Dissolution Mass Spectrometry) というまったく新たな測定分野があります。では、なぜスペシエーションが重要なのでしょうか? Kingston 博士は、同博士の特許取得済みメソッドとアジレントの質量分析計を組み合わせることで、一般的な妊婦用ビタミン剤中の未測定またはラベルに記載のない毒素を正確に測定することに成功しました。この毒素には、発がん性、催奇性、突然変異誘発性のある、6 価クロムと呼ばれるクロム種も含まれています。

この他、Kingston 博士は自閉症にも注力しています。Kinston 博士は「これは単純な遺伝性疾患ではなく、遺伝要因が関連している環境疾患です。つまり、予防できるということです」と述べています。

もし純粋な遺伝性疾患であったなら、一卵性双生児の一方だけが自閉症という症例を目にすることはないでしょう。「環境にある何かがその引き金となっているのです」と、Kingston 博士は言います。

これが、Kingston 博士がエクスポソミクスに情熱を注いでいる理由です。エクスポソミクスでは、遺伝的変異と環境曝露に関するデータを組み合わせることにより、全体像の把握と、疾患の根底にあるメカニズムの解明を目指します。

化学物質への曝露は 1 つの要因です。しかし、それは氷山の一角に過ぎません。私たちが何を飲食し、どこでどのように生活し、またどんな仕事をしているのかもすべて関係しています。

その成果はすでに、Kingston 博士の友人であり、フロリダ州タンパで小児科医を務める David Berger 医師の取り組みに現れています。Berger 医師はこれまでに、次に生まれる子供も自閉症になる可能性のある (20 %)、自閉症児の母親約 600 名をサポートし、その苦境の克服に貢献してきました。その方法は、母親および新生児の食事と環境を慎重にコントロールするというものです。「自閉症になった兄弟姉妹は 1 人もいません」と、Kingston 博士は述べています。

Kingston 博士は、環境刺激が何であれ、免疫システムが機能不全に陥ることに言及し、「それは、疾患と戦う兵士はいても司令官がいないようなもので、兵士は何をすべきなのかわかっていません。そして、体が食物を攻撃し始めます。お察しのとおり、今まで役立っていたはずのものに対する抗体を持つことになります。」

この 10 年間、Kingston 博士は、Children’s Institute of Pittsburgh に務める別の小児科医 Scott Faber 医師と共同研究を行ってきました。この研究により、自閉症の子供をクリーンルームに入れると、免疫システムがリセットされ、回復し始めることがわかりました。

Kingston 博士は「Faber 医師は、症状改善に大きな成果をあげました。子宮内および生後数年間で生じた脳炎や脳の構造的差異による症状は残っている可能性はありますが、経験にもとづく優れたサービスを通して、多くの自閉症児を通常の教室に戻れるまでに回復させることができました。Faber 医師はまさに才能ある医療専門家であり、何を測定すべきかを相談できる相手でもあります」と述べています。

現在、自閉症は行動観察によって診断されています。「チック症状や、話せない、他人と目を合わせられないといった行動があれば、自閉症の診断を下すことができます。ただし、それでは手遅れなのです。その時点では、脳はすでに損傷しています。私たちの研究目標の 1 つは、Faber 医師とともに今から 48~72 か月間で、いずれ自閉症を発症する、まだ脳が損傷していない子供を診断するための新たな検査を開発し、NIH および FDA に申請することです。」

実は、Kingston 博士は重度の失読症です。若い頃には、この疾患であることを不幸だと思っていましたが、今は 1 つの才能だと考えています。「私は、学習障害と呼ばれる障害を抱えていますが、そのおかげで、一般の人々が陥るパターンという罠にとらわれないという意味で完全に自由でいることができます。私は創造力ある科学者です。解決できない問題があれば、知り得る情報をすべて引っ張り出して沈思黙考しながら歩き回り、数日後には「一体どうやってその答えを出したんだ?」と他人に言われるようなことを思いつくのです。ダイレクト SIDMS 測定技術は、最新の数学的自由度にもとづいています。私には、数学によって何が示されるかが方程式を解く前からわかります。なぜそれができるのかは誰にも分かりませんが」と、Kingston 博士は言います。

Kingston 博士にわかっているのは、他の人たちが問題をもっと簡単に解決できるよう手助けしたいということです。「私たちの持つスキルは一人ひとり違います。私が私にとって未知の知識を持つ人たちのチームと協力し合うのはそのためです。アジレントもそのチームの 1 つです。私はアジレントの機器を使用していますが、それは私の経験上最高の機器だからです。これまでに発表したどの研究でも、アジレントの質量分析計を使用してきました。そうでなければ、いまやっていることもできなかったでしょう」と、Kingston 博士は述べています。

「今は私たちにしかできない測定も、いつしか 10,000 人もの人たちが行えるようになるでしょう。その一人ひとりが一生のうちに重要な問題を 10 個解決したとすれば、今よりどれだけ進歩することになるか想像してみてください。」

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