ケーススタディ : 生体分子マッピングとイメージング - Philip Doble

Philip Doble

Director of the Elemental Bioimaging Facility
University of Technology Sydney
Sydney, Australia

生体イメージングを研究する人々を支援する
アジレントのソリューション

Philip Doble 氏の目標は、すべての人が疾患の進行程度とその治療方法を把握できるようにすることです。このため Doble 氏は疾患細胞組織の詳細な 3D 画像を作成できる新たな方法を開発しています。

これを次世代のイメージングと呼ぶことにします。

Doble 氏は、オーストラリアにある University of Technology Sydney の Elemental Bioimaging Facility で指導しています。Doble 氏のチームは、地質学者が岩石内の金属の調査に使用するのと同じ機器と、アジレントの最先端の ICP-MS 機器を使用しています。

Doble 氏は科学者としての経験から、多くのタンパク質が正常に機能するには金属が必要であることを知っています。例えば銅、亜鉛、マンガンなどです。そこで Doble 氏は、これらの金属と疾患で重要と思われるあらゆる種類の生体分子をマッピングしています。

Doble 氏の研究の主要な要素は、さまざまな病気に侵されたマウスの脳から、3D 画像を構築することです。

Doble 氏は次のように述べています。「これで、さまざまな神経構造領域と、その相互の関係性を調べることができます。脳のさまざまな領域でどの遺伝子が発現するかを調べ、機構的観点から何が起きているかを特定できます。我々は、必須元素を使ってこの研究を行おうとしています。これらの元素を 3 次元でマッピングすると、アレン脳地図の神経構造領域との対比を行うことができます。」

この新しい技法は、地質学分野から生まれた技術です。

「我々の使っている機器の一部は、最初は岩石の鉱物などの調査用に開発されたものです。我々が使用するのは基本的に、厚さ 10~15 ミクロンの細胞切片で 193~213 ナノメートルの放射線を出すレーザーを使っています。このレーザーによって細胞組織を破壊し、小さな粒子にします。次に、これらの小さな粒子は細胞から除去され、Agilent ICP-MS (非常に素晴らしい機器です) に導入されます。ここで、粒子は構成元素まで分解されます。」と Doble 氏は述べています。

「細胞片全体にレーザーを照射すると、レーザーサンプリングポイントで元素の空間的分布に関する情報を得ることができます。このため、時間を決めて結果分析を行うことができます。この手順が完了すれば、すべてのデータを取得して元のように組み合わせることができます。これは、従来のドットマトリクスプリンターで、ドットによって文字が形成されるプロセスと似ています。」

Doble 氏は、自分のチームがメタボロミクスやそれ以外の分野における優れた新しい技法と認められる研究に着手していると確信しています。

「金属を測定すると、代謝を間接的に測定することになります。金属は、細胞環境の発生事象に応じて、濃縮されたり激減したりするためです。」と Doble 氏は述べています。例えば輸送タンパク質によって、疾患の進行や治療の効果を調べることができます。」

Doble 氏は過去 15 年間、さまざまなプロジェクトでアジレントと協力しており、アジレントの機器とサポートサービスを (「文句のつけようがない」と) 高く評価しています。Doble 氏のおかげで、アジレントは他の科学者ともスムーズに連携できています。

「我々はこの技術を使って、米国の研究者と協力して筋ジストロフィーのイメージング測定を行っており、その複数のタンパク質の画像をいくつか取得できています。標識をした種々の抗体により、筋肉切片のさまざまなたんぱく質を多重染色する技術を用いることによって、どのタンパク質が重要であるかを特定できました。」

蛍光検出器などの他の技法もあるのに、どうしてこの方法を採用するのかという疑問があるかもしれませんが、Doble 氏の次世代イメージングには次のような特長があります。

「我々の研究対象はミクロン単位の分解能であり、非常に広い観点から細胞片を調査することができます。これに対し、蛍光検出器は細胞内の分布を調べるものです。我々の技法は既存技術の置き換えではなく、より多くの全体的な情報を提供するためのものです。」

「我々の目標は、バーチャルリアリティとゲームエンジンを利用してデータをインタラクティブな環境に置き、例えば宇宙船に乗り飛行しながら、これらの再構築を俯瞰することです。研究は初期段階ですが、このデータを赤外線分光分析や MRI などの他の多面的な画像 とリンクできる可能性もあります。」

Doble 氏によると、現時点の次世代イメージングは、さまざまな輸送タンパク質、環境、補因子などの間の相互作用を解明する研究ツール的なものです。

「代謝の発生過程、特に金属について研究が進めば、これを診断に利用できる可能性が出てきます。この標識プロトコルが完全に構築できれば、定量化可能なバイオマーカーイメージングを実現できます。我々の目標は、この技術を細胞表面の特定のタンパク質の解析に使用できるようにすることです。これが可能になれば、「よし、この腫瘍にはこの薬が効く」と判断できるかもしれません。個別化医療においては、この技術をさまざまな用途に使用できる可能性があります。」

関連情報

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