サンプル前処理の性能向上は、昔から食品中の農薬残留物の信頼性のある分析を実現するために重要です。Agilent QuEChERS 抽出メソッドは、多くのラボで性能とコスト面から汎用されていますが、更なる前処理技術の開発も望まれています。アジレントはこの要望に応えられる従来の QuEChERS メソッド をよりマイクロスケール化したサンプル前処理バージョンである Mini-QuEChERS メソッドを開発しました。これにより、従来の QuEChERS メソッドのサンプルと溶媒と塩分を同じ比率のままマイクロスケール化でき、使用するサンプル、溶媒、試薬類の量を減らせます。
Agilent 7010 シリーズトリプル四重極 GC/MS に搭載された超高感度イオン源 (HES) は、感度の大幅な向上を実現しています。HES はイオン源から四重極アナライザに移送されるイオンの数を増大させます。イオン量が増えると信号が大きくなり、感度が向上します。食品の残留農薬分析では、必要な検出限界を達成したまま、使用する注入量の低減 (2 µL から 0.5 µL) ができるなどの実用面での大きな利点があります。
サンプル前処理のマイクロスケール化の利点には次のことが含まれます。
食品サンプルの分析における Agilent 7010 トリプル四重極 GC/MS の HES とスケールダウンした Mini-QuEChERS 抽出メソッドの組み合わせは、注入量の低減と機器のメンテナンス頻度の削減により、サンプル前処理に関連するコストを大幅に下げ、かつ、分析メソッドの堅牢性を高めます。重水素化キャプタンおよびフォルペットなどの追加の内部標準は、サンプルあたりの添加量が低減でき、大幅なコスト増大を伴わずに分析できます。標識標準化合物を用いるこういった分析困難な塩基性の不安定な化合物に対するルーチン分析で有用です。
図 1 に分析性能を示します。Mini-QuEChERS メソッドを用いて人参、トマト、セロリを抽出しました。溶媒、充填剤、内部標準 (ISTD) の低減によりコストが 40 % 以上削減できました。1、5、10、50 ng/g の濃度において、人参、トマト、セロリの野菜マトリックスに添加した 126 種類の農薬の 97 % に対して相関係数 0.992 以上 (R) を得ることができました。この 3 種類の野菜マトリックスでは、分析した 126 種類の農薬の 86~90 % が回収率ベースの LOQ で 1 ng/g、95~98 % が LOQ で 5 ng/g 以下でした。これは基準とされる最大残留基準値 (MRL) である 10 ng/g の半分です。分析困難なキャプタンおよびフォルペットの残留物もそれぞれ、5 ng/g 以下および 1 ng/g で定量されました。定量分析では、1 サンプルあたりわずか 0.04 ドル分の市販 ISTD キャプタン-d6 とフォルペット-d4 を用いました。
分析性能を向上させるために、Agilent J&W HP-5ms ウルトライナート GC カラム (5 m x 0.25 mm、0.25 µm および 15 m x 0.25 mm、0.25 µm)、Agilent ウルトライナート 2 mm ディンプルライナを使用しました。また、カラムをバックフラッシュするために 不活性な Agilent Purged Ultimate Union、Agilent UltiMetal Plus フレキシブルメタルフェラルを使用しました。
表 1 は、人参、トマト、セロリでモニタリングされた分析困難な農薬の例を示しています。堅牢で高感度な HES により、注入量が 75 % 低減できました。
ニンジン | トマト | セロリ | |
---|---|---|---|
ビフェントリン | 1 | 1 | 1 |
ブピリメート | 1 | 1 | 1 |
キャプタン | 5 | 5 | 1 |
クロロタロニル | 1 | 1 | 1 |
クロルプロファム | 1 | 1 | 1 |
クロマゾン | 1 | 1 | 1 |
シペルメトリン | 1 | 1 | 1 |
シプロジニル | 1 | 5 | 1 |
ダイアジノン効果 | 1 | 1 | 1 |
ジクロラン | 1 | 1 | 1 |
ディルドリン | 1 | 1 | 1 |
ジフェノコナゾール I | 1 | 1 | 1 |
ジフェニルアミン | 1 | 1 | 1 |
エンドスルファン I | 5 | 1 | 1 |
エンドスルファン II | 1 | 1 | 1 |
硫酸エンドスルファン | 1 | 1 | 1 |
エンドリン | 1 | 1 | 1 |
エトリジアゾール | 1 | 1 | 5 |
フェンプロパスリン | 1 | 1 | 1 |
フェンバレレート | 1 | 1 | 1 |
フルジオキソニル | 1 | 1 | 1 |
フォルペット | 1 | 1 | 1 |
フベリダゾール | 5 | 5 | 1 |
イプロジオン | 1 | 1 | 1 |
レナシル | 1 | 1 | 1 |
リンデン (γ-BHC) | 1 | 1 | 5 |
リニュロン | 1 | 1 | 5 |
メタラキシル | 1 | 1 | 1 |
メトキシクロル-p,p | 1 | 1 | 1 |
ヌアリモル | 1 | 1 | 1 |
パラチオンエチル | 1 | 1 | 1 |
ペンコナゾール | 1 | 1 | 1 |
ペンジメタリン | 1 | 1 | 1 |
ペルメトリン I | 1 | 5 | 5 |
ペルメトリン II | 1 | 1 | 1 |
ピリミカルブ | 1 | 1 | 1 |
ピリミホスメチル | 1 | 1 | 1 |
プロクロラズ | 1 | 1 | 1 |
ピリダベン | 1 | 1 | 5 |
ピリプロキシフェン | 1 | 1 | 1 |
キナルホス | 1 | 1 | 1 |
セクブメトン | 1 | 1 | 1 |
テブコナゾール | 1 | 1 | 1 |
テルブチラジン | 1 | 1 | 1 |
テトラクロルビンホス、 E-異性体 | 1 | 1 | 5 |
テトラコナゾール | 1 | 1 | 1 |
THPI | 1 | 5 | 1 |
トリアジメホン | 1 | 1 | 1 |
トリアジメノール | 1 | 1 | 1 |
トリフルラリン | 1 | 1 | 1 |
表 2 に示すように、Agilent Mini-QuEChERS メソッド は、コストをサンプルあたり 43~48 % 削減できます。
サンプルあたりの サンプル前処理コスト |
遠心分離管 | アセトニトリル | 塩 | 内部標準物質: キャプタン-d6、フォルペット-d4 | 分散 SPE 一般的な果物と野菜用または汎用 | サンプルあたりの総コスト | コスト削減 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
QuEChERS メソッド |
0.43 ドル | 1.50 ドル |
2.96 ドル | 0.30 ドル | 1.32 ドル/ 1.96 ドル |
6.51 ドル/ 7.15 ドル |
- |
Mini-QuEChERS メソッド |
0.42 ドル | 0.20 ドル |
0.80 ドル | 0.04 ドル | 1.32 ドル/ 1.96 ドル |
2.78 ドル/ 3.42 ドル |
43%/48% |
Agilent Mini-QuEChERS メソッド はサンプル前処理をスケールダウンし、機器のメンテナンス回数を低減することでコスト削減に大幅に寄与します。これは、マイクロスケール化したメソッドと GC/MS/MS 分析のための超高感度イオン源を使用することで実現しました。サンプル注入量を 75 % 削減したにもかかわらず、人参、トマト、セロリにスパイクした農薬の 86~90 % で 1 ng/g という低い LOQ を実現でき、メソッド全体の堅牢性が向上しました。
食品分析の QuEChERS メソッドについては、アプリケーションノートを参照してください。マイクロスケール化した Mini-QuEChERS メソッドの採用により、分析ラボのコストの大幅な削減が実現できます。
食品に残留する農薬の検出は最も困難です。食品分析では、サンプルの多様性および複数の前処理メソッドがあるため、分析ラボでは効率性の高い分析が求められています。アジレントの食品分析ソリューションは、GC/MS/MS、ICP-MS、ICP-OES、MP-AES、LC/MS、GC/MS による食品やサプリメントなどの分析に幅広く対応しています。効率の高いサンプル前処理はスムーズな分析ワークフローにとっても重要です。アジレントはさまざまなサンプル前処理ポートフォリオを有しており、多くの前処理メソッドをお客様の選択肢としてご提供しています。詳細については、アジレントまでにお問い合わせください。