Access Agilent 2016年4月号

GC/Q-TOF による指定薬物 2-EAPB
代謝物の同定と検出

アジレント・テクノロジー アプリケーションケミスト 小笠原 亮

2-EAPB
分子組成式: C13H17NO
分子量: 203.1310

2-EAPB
分子組成式: C13H17NO
分子量: 203.1310

Fig.1 2-EAPBヒト肝ミクロソーム反応性生物のクロマトグラム (TICCとマスクロマトグラム)

Fig.1 2-EAPBヒト肝ミクロソーム反応性生物のクロマトグラム (TICCとマスクロマトグラム)

Fig.2 B2-TFAのPICIマススペクトル

Fig.2 B2-TFAのPICIマススペクトル

Table1 B2-TFAの分子組成式計算結果

Table1 B2-TFAの分子組成式計算結果

Fig.3 B2-TFAのPICIプロダクトイオンスペクトル

Fig.3 B2-TFAのPICIプロダクトイオンスペクトル

Fig.4 B2-TFAのPICIプロダクトイオンスペクトルの帰属

Fig.4 B2-TFAのPICIプロダクトイオンスペクトルの帰属

Fig.5 2-EAPBを摂取した人の尿抽出物のクロマトグラム (TICCとマスクロマトグラム)

Fig.5 2-EAPBを摂取した人の尿抽出物のクロマトグラム (TICCとマスクロマトグラム)

平成26年4月より旧薬事法が改正され、指定薬物はその所持や使用も規制対象となりました。その数は年々増加を続け、平成28年1月現在、2300物質以上に上ります。薬物使用を証明するには血液や尿から未変化体または代謝物を検出する必要がありますが、代謝物が報告されている指定薬物は限られており、各薬物の主要な代謝物を予測しそれを検出する手段が求められています。

GC/Q-TOFは定性能力に優れた分析装置であり、EI TOFモードでのマススペクトルライブラリによる同定の他、正イオン化学イオン化 (Positive ion chemical ionization, PICI) TOFモードによる分子組成式決定、さらにQ-TOFモードでの分子構造推定などを行うことができます。また、高分解能やMS/MS機能を活かした選択性により、高マトリクスサンプル中のターゲット化合物を検出する能力にも優れています。

本研究では、1-(Benzofuran-2-yl)-N-ethylpropan-2-amine (2-EAPB)(平成27年1月30日に指定薬物指定)をヒト肝ミクロソームで処理し、得られた反応成生物をTFA誘導体化後GC/Q-TOFで同定しました。ヒト肝ミクロソームは代謝物の研究によく用いられており、緩衝液中で基質とともにインキュベートすることによってインビトロで代謝物を作成すること可能です。そして実際に2-EAPBを摂取したと思われる人の尿中から検出を試み、それらが代謝物として生成していることを確認しました。

2-EAPBとヒト肝ミクロソーム反応成生物を探索した結果、代謝物と思われるピーク(A、B1、B2およびB3)が検出されました。TICCおよび各マスクログラムを Fig.1 に示します。

一例としてB2のTFA誘導体のPICIマススペクトルを Fig.2 に示します。メタンPICIに特有のパターンから[M+H]+および[M+C2H5]+が同定されました。

[M+H]+からB2のTFA誘導体の分子組成式を計算した結果をTable1に示します。C17H15F6NO4がスコア97.85でトップヒットしました。m/zの理論値との誤差は-2.17 ppmでした。分子組成式および帰属された[M+H]+のプロダクトイオンスペクトルからB2は2-EAPBヒドロキシル体のTFA誘導体と考えられました。[M+H]+のプロダクトイオンスペクトルを Fig.3 に、主要なプロダクトイオンの帰属を Fig.4 に示します。

2-EAPBを摂取したと思われる人の尿抽出物について、 Fig.1 と同様のマスクログラムを描いたところ、ヒト肝ミクロソーム反応成生物とR.T.の一致するピークが確認されました (Fig.5)。さらにマススペクトルおよび[M+H]+のプロダクトイオンスペクトルを確認した結果、それらはヒト肝ミクロソーム反応成生物中から同定されたピークのスペクトルと精密質量レベルで完全に一致し、薬物摂取が裏付けられました。

GC/Q-TOFを用いて指定薬物2-EAPBのヒト肝ミクロソーム反応成生物の定性を行いました。その結果、脱エチレン体およびヒドロキシル体を検出・同定しました。そして、その薬物を摂取したと思われる人の尿中から同様の代謝物が検出されました。本法は代謝物が明らかになっていない薬物や、代謝物の標準品が市販されていない薬物についてその摂取を裏付けるための有効な方法であることが示されました。