Access Agilent 2016年4月号

Agilent LC-ICP-QQQ による
食品および尿分析のための高速ヒ素スペシエーション

Brian Jackson
地球科学准教授、
ダートマス大学
Amir Liba
アジレント SPSD アプリケーションケミストチームマネージャ

無機ヒ素 (iAs) はクラス 1 の発癌物質であり、2015 年の米国有害物質・疾病登録局(ATSDR) の汚染物の優先リストの第 1 位、および世界的に主な健康被害物質のうちの 1 つです。

ヒトへの主な曝露ルートは水と食物の摂取であり、主な排泄ルートは尿によるものです。ヒ素 (As) は環境中にさまざまな形状 (種) で存在するために、こうした個別種の定量化にはスペシエーション分析が必要です。アルセノベタイン (AB)、アルセノコリン (AC)、モノメチルアルソン酸 (MMA)、ジメチルアルシン酸 (DMA) をはじめとする有機ヒ素は、iAs (As(III) および As(V)) よりも毒性が低いため、総ヒ素量ではなく、iAs の閾値が主に規制対象となります。

莫大なサンプルと進化する規制

多数の個体群に基づくヒト曝露の研究では、数千もの数の尿サンプルが必要となり、高速かつ高い信頼性のルーチンメソッドが不可欠です。間近に迫った EU の食品規制では米に含まれる iAs について、乳幼児を対象とする白米では 0.2 mg/kg、米製品では 0.1 mg/kg に規制限度が指定されます。これらの新しい規制により、iAs 分析の高サンプルスループットの必要性が高まっています。また、米国でも同様の規制が予期されます。

クロマトグラフィー分析高速化への要求

As スペシエーションでよくみられる分析メソッドは、陰イオン交換カラムを用いた液体/イオンクロマトグラフィー (LC/IC) で、コリジョン/リアクションセル ICP-MS を接続します。クロマトグラフィーメソッドや分離対象のヒ素の種類の範囲に依存しますが、一般的に分析時間は 10 ~ 20 分です。例えば、現在のアメリカ疾病予防管理センター(CDC) の方法では 17 分間の分析時間を要します [1]。クロマトグラフィー分析の時間を短縮することは、サンプルスループットを改善するのにきわめて有効です。

短いカラムと高い流量で実現する高速クロマトグラフィー

以前の研究 [2] で開発されたメソッドに基づき、Agilent 8800 ICP-QQQ に接続しました。MS/MS モードで As を測定するように ICP-QQQ を設定し、O2 をリアクションセルガスとして用いました。最初の四重極 (Q1) は 75 amu に設定され、As およびオンマス (m/z 75) 干渉を除去して、セルへの侵入を防ぎました。2 番目の四重極 (Q2) は 91 amu に設定され、反応プロダクトイオン AsO+ の検出を可能にし、As は O2 と定量的に反応し、一般的な干渉物質または二価化学種は反応しませんでした。

図 1. 500 ng/L (ppt) でのヒ素 4 種のイソクラティック分離。流量 1.5 mL/min での 50 mM (NH4)2CO3。カラム温度、35 ℃。As(V)* は酸化後の As(V) および As(III) の合計。

図 1. 500 ng/L (ppt) でのヒ素 4 種のイソクラティック分離。流量 1.5 mL/min での 50 mM (NH4)2CO3。カラム温度、35 ℃。As(V)* は酸化後の As(V) および As(III) の合計。

図 2.表 1 のグラジエント条件を用いた尿内に 400 ng/L (ppt) で添加されたヒ素 6 種の分離。カラム温度 35 ℃。

図 2.表 1 のグラジエント条件を用いた尿内に 400 ng/L (ppt) で添加されたヒ素 6 種の分離。カラム温度 35 ℃。

食品サンプル: 2 分未満での完全な分離

今回のテストで、クロマトグラフィーによる分離の前に As(III) を As(V) に酸化しました。希釈酸抽出が iAs の酸化状態のメソッド誘導変化を促進するため、この手法は食品分析に役立ちます。また、規制当局の視点から必要なことは、他の種から総 iAs (つまり、As(III) + As(V) の合計) 量を分けて定量化することのみです。

50 mM (NH4)2CO3 (溶離液 A) を用い、 1.5 mL/min の流量でイソクラティック分離法を実施し、AB、DMA、MMA および As(V)* を分離しました。ここでは、As(V)* が酸化後の総 iAs 量です (図 1)。分離は 1.7 分間で完了しました。AsB、DMA、MMA については約 10 ng/L (ppt)、As(V) として測定された iAs については 50 ng/L の機器検出下限が達成されました。食品分析の品質管理については、MMA、DMA、iAs 認証の NIST SRM 1568b 米粉を用いました。1568b (n=3) の回収率は、DMA、MMA、総 iAs についてそれぞれ 104 %、106 %、96 % で、3 回の CV は各種とも 10 % 未満でした。

尿サンプル: 3.5 分未満での完全な分離

尿中の As スペシエーションについては、さまざまな流量と溶離液の強度でグラジエント分離 (表 1) を用いて、AC、AB、As(III)、DMA、MMA および As(V) を分離しました (図 2)。AC は AB から部分的に分離されましたが、これらの化合物はボイドボリュームで溶出し、「保持されない有機ヒ素」としてひとまとめにされることが多くあります。実際、ラボで分析された尿サンプルのうちのいずれからも AC は検出されていません。

時間 (分) 溶離液 A: 3 % メタノール中の
50 mM (NH4)2CO3、%
溶離液 B: 3% メタノール、% 流量 (mL/min)
0 20 80 1
1.45 20 80 1
0.46 100 0 2
2.5 100 0 2
2.51 20 80 1
3.5 20 80 1

表 1.尿サンプルのグラジエント溶出プロファイル

As(III) と DMA との分解能は高温で向上しましたが、MMA と As(V) のリテンションタイムは伸びました。As(V) は 2.5 分で溶出し、初期条件を再度確立するにはさらに 1 分間の再平衡化時間がかかりました。合計で 3.5 分の分析時間であり、CDC メソッドの分析時間 17 分と比較して優位な結果となりました。

新しい手法がクロマトグラフィー分析の時間を短縮

新しいメソッドは、これまで報告された同等の分離法と比較し 4 ~ 7 倍高速であり、規制事項の変更やバイオモニタリングの必要性の増加に対応した As スペシエーションのためのサンプルスループット向上にきわめて有用です。

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