Access Agilent 2016年3月号

キラル薬物代謝物を高い再現性で分離する
マルチハートカット 2D-LC/MS メソッド

Siji Joseph、アジレントアプリケーションサイエンティスト

複雑な生体試料マトリックス中の薬物代謝物は、微量であることから、分析が容易ではありません。また、分析対象となる代謝物は多くが類似した構造であり、同様のフラグメンテーションパターンを持つため、従来の LC/MS 分析メソッドでは明確な同定が困難です。キラル薬物とその代謝物にいたっては、分析は困難をきわめます。薬物代謝と薬物動態 (DMPK) の研究や、その法規制の遵守に伴う作業では、代謝物のキラルを分離し、モニタリングするための再現性に優れたメソッドを用意することが重要になります。マルチハートカット機能を搭載した Agilent 1290 Infinity II 2D-LC ソリューションは、このような厳しい状況で確実な結果を得るうえで大きな役割を果たします。

分離に伴う困難な問題

ワルファリンは、ラセミ体の抗凝固剤として広く利用されています。主に酸化代謝を経て 4’-、6-、7-、8-、および 10-ヒロドキシル化代謝物になります。これらのヒドロキシル化代謝物の構造は類似しており、同様のフラグメンテーションパターンを持つため、質量分析計で微量の代謝物を確実に測定するうえで、クロマトグラフィーピークが完全に分離されることが重要になります。

超臨界流体クロマトグラフィー (SFC) とトリプル四重極 (QQQ) 質量分析計を組み合わせて使用することで、ワルファリンとヒドロキシル化代謝物の同定と定量を同時に行った研究が、アジレントのアプリケーションノート (5991-5725EN) で紹介されています。ここでは、ワルファリンのアキラル体とキラル体、および主要な 5 種類のヒドロキシル化代謝物を良好に分離することのできるマルチハートカット 2D-LC/四重極飛行時間型 (Q-TOF) メソッドについて説明します。

マルチハートカット機能ですべてのピークを分離

この調査では、Agilent 1290 Infinity II 2D-LC ソリューションAgilent 6530 Accurate-Mass 四重極飛行時間型 (Q-TOF) LC/MS システムを組み合わせて使用しました。2D LC/MS メソッドでは、一次元目 LC (Phenyl Hexyl) でアキラル体を逆相分離しました。次に、マルチハートカット機能を利用してワルファリンとヒドロキシワルファリン代謝物を二次元目のキラルカラム (Chiral OD-3R または Chiral AD-3R、あるいはその両方) へ送りました。このメソッドにより、キラル薬物とその代謝物を高分離能精密質量 MS および MS/MS 分析の前に分離することができました。

図 1. 正確なハートカットを実現する 2 ポジション/4 ポートデュオバルブの概略図

図 1. 正確なハートカットを実現する 2 ポジション/4 ポートデュオバルブの概略図

図 2. UV データから、Agilent ZORBAX Eclipse Plus Phenyl Hexyl カラムにより一次元目でアキラル体が明確に分離されているのがわかります。

図 2. UV データから、Agilent ZORBAX Eclipse Plus Phenyl Hexyl カラムにより一次元目でアキラル体が明確に分離されているのがわかります。

図 3. 二次元目の ChiralPak カラムによるヒドロキシワルファリンのラセミ体対および R/S-ワルファリンの立体選択的分離

図 3. 二次元目の ChiralPak カラムによるヒドロキシワルファリンのラセミ体対および R/S-ワルファリンの立体選択的分離

図 4. 6 個のサンプリングループがあらかじめ組み込まれている 6 ポジション/14 ポートバルブでは、6 個のハートカットを容易に捕集できます。

図 4. 6 個のサンプリングループがあらかじめ組み込まれている 6 ポジション/14 ポートバルブでは、6 個のハートカットを容易に捕集できます。

図 5. 高性能のバルブループ構成では、12 個のハートカット溶出液を捕集できます。この構成は、1 つの 2 ポジション/4 ポートバルブ (図の中央) と 2 つの 6 ポジション/14 ポートバルブから成ります。

図 5. 高性能のバルブループ構成では、12 個のハートカット溶出液を
捕集できます。この構成は、1 つの 2 ポジション/4 ポートバルブ
(図の中央) と 2 つの 6 ポジション/14 ポートバルブから成ります。

ハートカットのタイミングは、一次元目 LC 後にダイオードアレイ検出器 (DAD) で記録した UV 信号をもとに決定しました。マルチハートカットの実行には、2 ポジション/4 ポートデュオバルブを使用しました (図 1)。バルブがポジション 1 にあるときは、一次元目カラムの溶離液は DAD へ送られ、その後廃棄されます。バルブがポジション 2 にあるときは、ハートカットが行われ、一次元目カラムの溶出液が 80 µL のループへ送られます。ピーク幅から決定した 0.6 分間の溶出液がループに溜められます。他のピークについても、同様にハートカットを行いました。2D-LC ハートカットは、Agilent LC/MS ChemStation ソフトウェア (C01.03、2D-LC アドオンを付加) により簡単かつ正確に行うことができました。

薬物代謝物の立体異性体の分離

Agilent ZORBAX Eclipse Plus Phenyl Hexyl 逆相カラムにより、ワルファリンおよび 5 種類すべてのヒドロキシル化代謝物を 4 より高い分離能で良好にベースライン分離することができました (図 2)。

二次元目で ChiralPak OD-3R カラムを使用した実験では、ヒドロキシワルファリンの 5 種類の位置異性体のうち、10-ヒドロキシワルファリンエナンチオマーを除く 4 種類のエナンチオマー対がベースライン分離されました (図 3A)。一方、ChiralPak AD-3R カラムでは、ヒドロキシワルファリンの 5 種類の位置異性体のうち、10-ヒドロキシワルファリンを含む 4 種類のエナンチオマー対が分離されましたが、7-ヒドロキシワルファリンエナンチオマーは分離されませんでした (図 3B)。次に、二次元目 LC で ChiralPak OD-3R カラムと AD-3R カラムを直列に連結して使用したところ、5 種類すべてのヒドロキシワルファリン位置異性体のエナンチオマーとワルファリンをすべて分離し、合計 12 個のピークを 25 分未満で得ることができました (図 3C)。Agilent 1290 Infinity II LC は、カラム充填剤がそれぞれ異なる 2 種類のカラムの連結にも対応できる圧力上限を備え、代謝物のエナンチオマーをきわめて良好に分離できました。

高度なマルチハートカット分析の鍵をにぎる高性能ハードウェア

マルチハートカットは、アジレントの新たな高性能のマルチハートカットバルブキットを用いることにより格段に容易になります。マルチハートカット 2D-LC アップグレードキット (G4242A) に含まれる 6 ポジション/14 ポートバルブは、2 ポジション/4 ポートデュオバルブ (5067-4170) への接続が可能です。6 ポジション/14 ポートバルブには、6 個のサンプリングループがあらかじめ組み込まれており、一次元目カラムから溶出した 6 個のハートカット溶出液を容易に捕集することができます (図 4)。

さらにハートカットが必要な場合は、デュオバルブと 2 つの 6 ポジション/14 ポートバルブを組み合わせて使用できます。このバルブ構成により、12 個のループ位置を持つ 2 つのパーキングデッキが実現されます (図 5)。また、新しい「マルチハートカットビューワ」ソフトウェアを使用すれば、マルチハートカット実験を簡単に実行し、モニタリングできます。

構成済みのハードウェアが困難な分析を容易に

微量の構造が類似するキラル薬物およびその代謝物を正確に分析するには、この分析に伴う課題を理解しておく必要があります。これらの化合物は、質量スペクトル上に同様のフラグメンテーションパターンとして現れるため、クロマトグラフィーの段階で完全に分離しなければなりません。前述の調査では、ワルファリンと、5 種類の主要なヒドロキシル化代謝物のエナンチオマー対を良好に分離できることが実証されました。この結果から、マルチハートカット 2D-LC と Q-TOF による検出を組み合わせることで、キラル薬物代謝物の分析を容易に、かつ確実に実施できます。

Agilent 1290 Infinity II 2D-LC ソリューションがあれば、2D-LC を使用して、分離に伴う困難な問題を簡単に解決することができます。