Access Agilent 2015年10月号

エキスパートに訊く: バイオシミラー分析でソフトウェアが担う役割

Ning Tang
アジレント・バイオ医薬アプリケーションケミスト

4 回シリーズのこれまでの記事では、先発薬とバイオシミラーを特性解析するためのクロマトグラフィー手法について取り上げました。バイオシミラーシリーズ最終回となる今回の記事では、バイオシミラーと先発薬との比較を簡素化することにより、生産性を高め、バイオシミラー開発を加速させる LC/MS データ解析ツールを探求します。

Q: なぜソフトウェアが重要なのか?

A: 生物製剤は複雑で、製造プロセスの変化に大きく左右されます。また、先発薬を参考にすることは、バイオシミラー開発に不可欠です。分析を成功させるうえで、複数の強力なデータ処理アルゴリズムと、高度な配列照合ツールおよびデータベース照合ツールを備えた LC/MS ソフトウェアが非常に重要な役割を担います。これらのツールを使用することで、単純な混合物や複雑な混合物に含まれるインタクトタンパク質、ペプチド、およびその変異体をすばやく正確に同定することができます。

A) LC/MS で採取したインタクトハーセプチン (トラスツズマブ) の電荷エンベロープ。B) トラスツズマブの最大エントロピーデコンボリューション結果。C) トラスツズマブのピークモデリングデコンボリューション結果。

図 1. A) LC/MS で採取したインタクトハーセプチン (トラスツズマブ) の電荷エンベロープ。B) トラスツズマブの最大エントロピーデコンボリューション結果。C) トラスツズマブのピークモデリングデコンボリューション結果。(図を拡大)

A) LC/MS で採取したインタクトハーセプチン (トラスツズマブ) の電荷エンベロープ。B) トラスツズマブの最大エントロピーデコンボリューション結果。C) トラスツズマブのピークモデリングデコンボリューション結果。

図 1. A) LC/MS で採取したインタクトハーセプチン (トラスツズマブ) の電荷エンベロープ。
B) トラスツズマブの最大エントロピーデコンボリューション結果。
C) トラスツズマブのピークモデリングデコンボリューション結果。

それでは、バイオシミラー分析において威力を発揮する Agilent MassHunter BioConfirm ソフトウェアとその独自の機能について説明しましょう。このソフトウェアは、質量スペクトルをデコンボリュートするためのさまざまなアルゴリズムを備え、インタクトタンパク質やペプチドの他、多様で複雑なサンプルの分析に最適化されています。エレクトロスプレーイオン化条件を使用して採取した質量スペクトルの電荷エンベロープは、多数の多価ピークで構成されています (図 1A)。アジレントのマックスエントロピー・デコンボリューション・アルゴリズムを使用することで、これらの複雑なスペクトルを電荷 0 の単純なスペクトルに変換できます (図 1B)。このスペクトルから、タンパク質およびその変異体の分子量を直接判断することができます。

このメソッドでは、1 つ以上のインタクトタンパク質の m/z 未処理スペクトルが、最も可能性の高い電荷 0 の質量スペクトルに変換されます。マックスエントロピー・デコンボリューションは、それほど複雑でないタンパク質データや比較的単純なタンパク質混合物に有効です。

Q: アーチファクトの処理は?

A: Agilent MassHunter BioConfirm は、ピークモデリング・デコンボリューション (pMod) という高度なデータデコンボリューションアルゴリズムも備えています。pMod により、自動ピークモデリング手法を適用することで、実質的にアーチファクトのない、最も可能性の高いデコンボリューション結果が得られます。また、S/N 比を改善し、タンパク質のピークの分解能を高め、精度の高い分析を行うことができます (図 1C)。

このアルゴリズムでは、まずマックスエントロピー・デコンボリューションが実行されます。次に、マックスエントロピーの結果をもとに質量スペクトルピークモデルが自動的に生成され、フィッティングとバリデーションによりこれらのモデルが適用されます。モデルに適合しないスペクトルデータはノイズとして排除されます。そのため、pMod の結果は、マックスエントロピー・デコンボリューション結果よりはるかにシンプルになり、アーチファクトも低減されます。pMod では、このプロセスに従うことで、非常に明確に分離した電荷 0 のスペクトルと、ピークごとの一連の質量精密評価が生成されます。

インタクト先発薬およびインタクトバイオシミラーのミラープロット

図 2. インタクト先発薬およびインタクトバイオシミラーのミラープロット(図を拡大)

インタクト先発薬およびインタクトバイオシミラーのミラープロット

図 2. インタクト先発薬およびインタクトバイオシミラーのミラープロット

Q: 複数の変異体の量を比較するには?

A: ミラープロットが最適です。バイオシミラーの開発では、バイオシミラーと先発薬の分子類似性を比較することが不可欠です。低分子医薬品とは異なり、生物製剤は不均一で、グリコシル化など複数の修飾が起こります。タンパク質の質量を正確に測定し、すべての変異体を同定することが、バイオシミラーの特性解析における第一ステップとなります。複数の変異体の相対アバンダンスを比較することも重要です。一般に、2 つの生物製剤の類似性を最も直接的に確認できる方法が、視覚的な比較です。Agilent MassHunter BioConfirm では、2 つのサンプルを視覚的に比較するためのミラープロットを生成できます (図 2)。

この例は、先発薬とバイオシミラーを LC/Q-TOF で分析したものです。タンパク質の分子量が正確に確認され、主なグリコフォームが同定されています。また、比較しやすいように、デコンボリュートした質量スペクトルがミラープロットされています。黒色のスペクトルはハーセプチン (トラスツズマブ)、赤色のスペクトルはバイオシミラーです。青色の線は、2 つのサンプルの差異を表します。青色の線がほぼ平坦であれば、2 つのサンプルのインタクトレベルでの類似性が非常に高いことを示します。

ハーセプチンとバイオシミラーのトリプシンペプチドマッピングクロマトグラムのミラープロット

図 3. ハーセプチンとバイオシミラーのトリプシンペプチドマッピングクロマトグラムのミラープロット(図を拡大)

ハーセプチンとバイオシミラーのトリプシンペプチドマッピングクロマトグラムのミラープロット

図 3. ハーセプチンとバイオシミラーのトリプシンペプチドマッピングクロマトグラムのミラープロット

Q: ペプチドマッピングを高速化するには?

A: ペプチドマッピングは、生物製剤の特性解析に不可欠なステップです。ただし、多数の成分が含まれるペプチド混合物の場合、LC/MS 結果を手動で分析するとなると膨大な時間がかかります。Agilent MassHunter BioConfirm は、このプロセスを自動化するモレキュラーフィーチャー抽出 (MFE) アルゴリズムを備えています。MFE は、LC/MS クロマトグラムでペプチドを見つけ、分離された同位体デコンボリューションによってその質量を判断します。その後、分離された同位体をもとに、ペプチドの荷電状態を直接特定し、隣接する荷電状態を持つ同じペプチドを表す関連イオンクラスターを探します。

バイオシミラーと先発薬など、2 つのサンプルを分析する場合には、BioConfirm の 比較解析モジュールが重要になります。このモジュールを使用すると、2 つのペプチドマッピングサンプルの LC/MS 分析結果を直接視覚的に比較できます。これを可能にするのが、図 3 に示すようなミラープロットと表形式での比較です。

Q: 詳細は?

A: この 4 回シリーズの「エキスパートに訊く」では、有効なバイオシミラーの発見と評価に必要なステップを深く掘り下げました。これらの手法は、先発薬の開発および評価に用いられているものと同様です。すべての特集記事は、アジレントの「Prepping Biosimilars」(英語)から無料でご覧いただけます。

アジレントのソフトウェアツールと、高度なバイオカラムおよび LC/MS システムを組み合わせて使用することで、生産性を格段に高め、バイオシミラー開発を加速させることができます。アジレントのバイオ医薬品ソリューションのページでは、生物薬理学研究の進歩に役立つ情報を詳しくご覧になれます。