Access Agilent 2015年9月号

レーザーアブレーション-ICP-MS による 高純度銅中の微量元素の高精度定量分析

杉山尚樹
アジレント ICP-MS 製品マネージャ

大森美音子
アジレント ICP-MS アプリケーションスペシャリスト

レーザーアブレーション-ICP-MS (LA-ICP-MS) は、地質サンプルやセラミックから生体組織、法医学サンプルまで、固体サンプルや粉末サンプルの元素分析に広く利用されています。ところが、正確な定量分析を可能にする固体標準物質がないため、LA-ICP-MS 分析では、検量線の作成が問題となることがあります。固体分析用の標準の調製は、液体サンプルの場合ほど容易ではありません。また、固体のマトリックスマッチング標準物質を利用できるケースは稀です。

代替手段として、検量線用標準に既存の固体認証標準物質 (CRM) を用いる方法もありますが、これは実際に分析するマトリックスとは組成が異なります。また、アブレーションプロセスにおけるアブレーション効率や元素分別が CRM やサンプルによって変化する可能性があり、これが重大な定量誤差の原因になります。アーク/スパーク、グロー放電 (GD) 発光分析 (OES) など確立された分析法には固体標準物質が必要なことから、金属分析などでは、十分に特性解析されたマトリックスマッチング標準物質を入手できるケースもわずかながらあります。この記事では、銅の認証標準物質を検量線用標準に用いて高純度銅中の微量元素を LA-ICP-MS で分析し、真度および精度の高い定量データが得られた事例を紹介します。

ICP-MS MassHunter のプラグインモジュールで操作を簡素化

今回実施した分析では、NWR213 (ESI 社、米国カリフォルニア州) 遠紫外 Nd:YAG レーザーと Agilent 7900 ICP-MS を組み合わせて使用しました。レーザーの波長は 213 nm、パルス継続時間は 4 ns です。Agilent 7900 ICP-MS は、水素モードで動作させ、ArAr+、ArO+、CuAr+ などのアルゴン由来の多原子イオン干渉を除去しました。

ESI 社が開発した MassHunter プラグインソフトウェアを使用して LA システムを Agilent ICP-MS MassHunter 4.2 ソフトウェアから直接制御し、完全統合型のサンプル分析を実施しました。スキャンパターンを LA システムで設定して MassHunter にロードし、プラグインソフトウェアを使用して MassHunter で分析を制御しました。LA-ICP-MS システムのチューニングおよびキャリブレーションには、NIST 612 (ガラス標準物質) を使用しました。LA-ICP-MS の使用条件を表 1 に示します。

ICP-MS のパラメータ

単位

RF 出力

W

1550

サンプリング位置

mm

8

キャリアガス流量

L/min

1.15

He (レーザー) ガス流量

L/min

0.8

引き出し電極 1

V

-15

引き出し電極 2

V

 -180

エネルギーディスクリミネーション

V

3

H2セルガス流量

mL/min

3.8

データ取り込みモード

 

スペクトル

積分時間

s/mass

1

スイープ回数

 

50

繰り返し測定回数

 

3

LA のパラメータ

単位

フルエンス

J/cm2

3

スポットサイズ

µm

200

スキャンパターン

 

ライン

スキャン速度

µm/s

10

プレアブレーション

 

あり

ウォームアップ時間

s

10

表 1. LA-ICP-MS の操作パラメータ

図 1 銅標準物質を用いた As、Se、 Ag の検量線

図 1. 銅標準物質を用いた As、Se、 Ag の検量線(図を拡大)

図 1 銅標準物質を用いた As、Se、 Ag の検量線

図 1. 銅標準物質を用いた As、Se、 Ag の検量線

図 2 3 日間回収率の変動

図 2. 3 日間回収率の変動(図を拡大)

図 2 3 日間回収率の変動

図 2. 3 日間回収率の変動

マトリックスマッチング標準による定量

今回の実験では、マトリックスマッチング標準として銅標準物質(COPPERSPEC)を使用し、2 種類の銅 CRM (BAM-M385 および BAM-M383b) を未知サンプルとして分析しました。検量線用の銅標準には、11元素がそれぞれ 0.1、0.5、3、および 10 ppm 添加された 4 種類の COPPERSPEC 標準物質 001、005、030、および 100 を使用しました。また、LA システム、アブレーション効率、および ICP-MS のシグナル抑制/ドリフトを補正するために、内部標準 (ISTD) として 65Cu を使用しました。図 1 に示すように、代表的な3元素 (As、Se、および Ag) の検量線は良好な直線性を示しました。

表 2 は、2 種類の銅 CRM の認証値と 11元素の定量結果(5回測定(5ライン)の平均値 ± 標準偏差) です。測定値は認証値と一致し、すべて 認証値±10 % となりました。

また、同じ分析を 3 日間繰り返したところ、高い再現性が得られました。図 2 は、3日間の測定について認証値に対する測定値の回収率を表したものです。BAM-M383b については、この CRM に含まれる微量元素の濃度が非常に低いため (多くの元素が 1 桁もしくはサブ mg/kg レベル)、ばらつきが大きくなっています。ただし、このデータから、LA-ICP-MSでの分析は、一般的な試料では真度が ±10 % 以内で、固体銅中に mg/kg レベルで存在する微量元素の定量分析に適していることがわかります。

 

BAM-M383b

BAM-M385

元素

認証値 (mg/kg)

測定値 (mg/kg)

認証値 (mg/kg)

測定値 (mg/kg)

Fe

3.60 ± 0.60

3.92 ± 0.13

45.4 ± 1.4

43.5 ± 0.1

Ni

1.43 ± 0.18

1.59 ± 0.02

11.9 ± 0.8

12.0 ± 0.1

Zn

9.30 ± 0.40

9.69 ± 0.15

57.9 ± 4.0

61.6 ± 0.4

As

2.80 ± 0.40

3.05 ± 0.16

11.4 ± 0.8

11.7 ± 0.3

Se

1.17 ± 0.28

1.43 ± 0.13

7.20 ± 0.50

7.37 ± 0.64

Ag

10.60 ± 0.40

10.72 ± 0.36

28.6 ± 0.8

29.2 ± 0.4

Sn

0.80 ± 0.40

0.66 ± 0.04

18.0 ± 0.9

17.6 ± 0.5

Sb

1.69 ± 0.16

1.71 ± 0.13

19.9 ± 0.8

20.8 ± 0.6

Te

5.70 ± 0.90

5.94 ± 0.69

10.0 ± 0.4

10.1 ± 0.4

Pb

1.01 ± 0.17

1.03 ± 0.09

11.3 ± 0.5

12.6 ± 0.4

Bi

1.85 ± 0.21

1.98 ± 0.21

5.81 ± 0.17

6.18 ± 0.22

表 2. 2 種類の銅 CRM (BAM-M383b および BAM-M385) に含まれる代表的元素の測定値 (5回測定の平均値) と認証値

マトリクスの異なる標準物質による分析

今回の実験から、銅のマトリックスマッチング標準を用いると、銅 CRM 中の微量元素を認証値の ±10 % の真度で正確に分析できることがわかりました。ところが、LA-ICP-MS の多くのアプリケーションでは、利用できる濃度既知の標準物質や認証標準物質がなく、また作成も容易ではありません。このような場合も、NIST 612 (ガラス標準物質) など、十分に特性解析された、一般的な市販の CRM にもとづくマトリクスの異なる標準物質で対応できる場合があります。詳細については、アジレントの文献 5991-6156EN をご覧ください。

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