Access Agilent 2015年2月号

ICP-QQQ による 204Pbに対する 204Hg 同重体干渉を除去した 正確な鉛同位体比の分析

Glenn Woods
アジレント ICP-MS アプリケーションスペシャリスト

考古学、環境汚染、医薬品、食品、地質年代学 (岩石、鉱物の年代測定) などの調査において、放射性鉛 (Pb) 同位体の相対アバンダンスの自然変異は、その由来の追跡に有効です。地質年代学では、204Pb 基準同位体の正確な測定を要求される場合も多く発生します。ICP-MS を使用した測定は、204Pb に対して 204 Hg からの同重体干渉が生じます。高分解能型ICP-MSを使用しても、204Hg と 204Pb の分離に必要なスペクトル分離能 (M/ΔM) が得られません。

<sup>204</sup>Hg の干渉を除去するための MS/MS リアクションモード概略図。Q1 は m/z <sup>204</sup> に設定されており、<sup>204</sup> amu 以外の質量で全イオンを排除することで、複雑なマトリックスでも化学的分離を実現します。

図 1.204Hg の干渉を除去するための MS/MS リアクションモード概略図。Q1 は m/z204 に設定されており、204 amu 以外の質量で全イオンを排除することで、複雑なマトリックスでも化学的分離を実現します。(図を拡大)

<sup>204</sup>Hg の干渉を除去するための MS/MS リアクションモード概略図。Q1 は m/z <sup>204</sup> に設定されており、<sup>204</sup> amu 以外の質量で全イオンを排除することで、複雑なマトリックスでも化学的分離を実現します。

図 1. 204Hg の干渉を除去するための MS/MS リアクションモード概略図。Q1 は m/z 204 に設定されており、
204 amu 以外の質量で全イオンを排除することで、複雑なマトリックスでも化学的分離を実現します。

1 ppb の Pb および Tl 、 10 ppb の Hg に対するノーガスモードのスペクトル。<sup>204</sup>Pb に対する <sup>204</sup>Hg の明確な干渉が確認できます。

図 2.1 ppb の Pb および Tl 、 10 ppb の Hg に対するノーガスモードのスペクトル。204Pb に対する 204Hg の明確な干渉が確認できます。(図を拡大)

1 ppb の Pb および Tl 、 10 ppb の Hg に対するノーガスモードのスペクトル。<sup>204</sup>Pb に対する <sup>204</sup>Hg の明確な干渉が確認できます。

図 2.1 ppb の Pb および Tl 、 10 ppb の Hg に対するノーガスモードのスペクトル。204Pb に対する 204Hg の明確な干渉が確認できます。

1 ppb の Pb および Tl と 10 ppb の Hg に対する MS/MS アンモニアリアクションモードのスペクトル。質量スペクトルから Hg の干渉が完全に除去されています。測定されたスペクトルは、Pb と Tl に対する理論上の同位体アバンダンステンプレートと一致しています。

図 3. 1 ppb の Pb および Tl と 10 ppb の Hg に対する MS/MS アンモニアリアクションモードのスペクトル。質量スペクトルから Hg の干渉が完全に除去されています。測定されたスペクトルは、Pb と Tl に対する理論上の同位体アバンダンステンプレートと一致しています。(図を拡大)

1 ppb の Pb および Tl と 10 ppb の Hg に対する MS/MS アンモニアリアクションモードのスペクトル。質量スペクトルから Hg の干渉が完全に除去されています。測定されたスペクトルは、Pb と Tl に対する理論上の同位体アバンダンステンプレートと一致しています。

図 3. 1 ppb の Pb および Tl と 10 ppb の Hg に対する MS/MS アンモニアリアクションモードのスペクトル。質量スペクトルから Hg の干渉が完全に除去されています。
測定されたスペクトルは、Pb と Tl に対する理論上の同位体アバンダンステンプレートと一致しています。

コリジョン/リアクションセル (CRC)による 測定対象イオンと干渉イオンの「化学的分離」は、CRC を備えた ICP-MSで実現できる代替手法です。この手法では、CRC にリアクションガスを投入してイオン分子化学を利用して、干渉イオンとの反応を通じて中和する、または異なる質量へ移動させます。対象成分との反応により新しいプロダクトイオンを生成し、干渉のない代替質量で測定することもあります。この実験では、204Pb に対する 204Hg の干渉を除去するため、MS/MS モードで動作する Agilent 8800 トリプル四重極 ICP-MS (ICP-QQQ) とセルガスにアンモニア (NH3)ガスを使用します。Hg+ イオンは非常に効率的に NH3 と反応します。図 1 に示すとおり、電荷移動反応により Hg0 に中和され、イオンビームから除去されます。

効果的な干渉除去

NH3 がどれだけ効果的に 204Hg の干渉を除去するかを評価するため、1 µg/L の Pb 溶液に 10 µg/L の Hg を添加しました。水素供与によるTl-Hの新たな干渉が発生していないことを確認するため、1 µg/L の Tl を添加しました。図 2 に示すノーガスモードのスペクトルは、天然の Hg 同位体を示します。Pb に対する重ね書きした理論上の同位体テンプレートが良好に一致しないことから、204Hg 同位体が 204Pb に対して大幅に干渉していることが確認できます。図 3 に、MS/MS アンモニアリアクションモードで測定した同じ溶液の結果を示します。m/z 204 で Hg の干渉が完全に排除され、測定された Pb と Tl のピークが理論上のテンプレートに正しく一致し、バイアスや新しい干渉が発生していないことが分かります。

メソッドの検証

Pb 同位体分析に対するメソッドの精度を検証するため、2 つの Pb 同位体標準試料 (NIST 981 および 982) を使用して、Pb 同位体比を測定しました。Pb 標準試料はそれぞれ、無添加、10 ppb の Hg を添加、50 ppb の 希土類元素 (REE) 混合物を添加、Hg と REE の両方を添加した状態で測定しました。質量バイアスを補正するため、無添加の NIST 982 標準試料を基準標準試料として使用しました。未知化合物として分析された NIST 981サンプル (無添加および添加) で測定された204/206 同位体比を表 1 に示します。認証値の比率と、認証値に対する偏差 / 回収率を記載します。添加された NIST 982 サンプルに対するデータも記載しており、すべての比率は無添加の NIST 982 により質量バイアスが補正されています。測定された値は認証値と一致しており、アンモニアをリアクションガスとして使用する MS/MS モードで動作させた Agilent 8800 ICP-QQQ が、204Pb に対する 204Hg の同重体干渉の除去に効果的であったことが確認できます。対照的に、ノーガスモードまたは NH3 セルガスを使用する「シングル四重極」モードで同一溶液内の Pb 比を測定した場合、深刻な干渉の影響が観察されます。

204/206

ノーガス

NH3 バンドパス

NH3 MS/MS

IR

偏差

IR

偏差

IR

偏差

認証値

0.059042

NIST 981*

0.1403

2.376

0.0605

1.025

0.0591

1.001

NIST 981 + Hg

22.0480

373.429

0.0589

0.998

0.0588

0.997

NIST 981 + REE

0.1489

2.522

0.1192

2.019

0.0582

0.986

NIST 981 + Hg REE

17.0132

288.155

0.1192

2.018

0.0611

1.034

認証値

0.027219

NIST 982

0.0272

1.000

0.0272

1.000

0.0272

1.000

NIST 982 + Hg

0.8851

32.517

0.0273

1.003

0.0278

1.022

NIST 982 + REE

0.0292

1.072

0.0989

3.633

0.0275

1.012

NIST 982 + Hg REE

0.7251

26.639

0.0989

3.635

0.0276

1.013

* 981 溶液にはいくらかの Hg 汚染が含まれていたため、ノーガスモードの結果に偏りが生じています。

表 1.Hg および REE マトリックス添加の使用 / 未使用時の、認証済み NIST 鉛同位体標準試料中の 204/206 Pb 比の分析。質量バイアス補正のために NIST 982 試料を使用。

干渉除去の向上とアプリケーションの拡大

Agilent 8800 ICP-QQQ とアンモニアリアクションガスを使用した測定対象イオンと干渉イオンの化学的分離は、時間のかかるサンプル前処理なしで、204Pb に対する 204Hg の同重体干渉を除去するパワフルなソリューションを提供します。この手法は高分解能型 ICP-MS では対応できないアプリケーション分野にも適用できます。8800 トリプル四重極 ICP-MS の詳細については、カタログをご覧ください。

この実験に関する詳しい説明については、アプリケーションノート 5991-5270EN を参照してください。

Agilent ICP-MS ジャーナル

微量金属の分析に興味がおありですか? ICP-MS 分野の最先端技術に関する最新情報をお知りになりたいですか? そうであれば、ICP-MS 分野を専門に扱うアジレントの ICP-MS ジャーナルを是非ご覧ください。ICP-MS ジャーナルは、年に 4 回、PDF 形式で発行しています。ICP-MS ジャーナルアーカイブでは、最新号のほか、過去の号をすべて読むことができます。