カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの主要元素は、食品に欠かせない栄養素です。フルーツジュースに含まれるこれらの元素の分析は、一般的な品質管理プロセスとなっています。フレーム原子吸光分析 (FAAS) は、必要な性能を低価格で得られ、これらの分析に適しています。しかし、FAAS には分析上の問題点もあります。Agilent マイクロ波プラズマ原子発光分光分析装置 (MP-AES) の登場は、FAAS の問題点が克服します。Agilent 4200 MP-AES は、FAAS より高性能で安全に使用できるラボに最適な分析機器です。
MP-AES が FAAS に勝る利点
Agilent 4200 MP-AES の主要動作ガスは窒素です。この窒素は、Agilent 4107 窒素ジェネレータで供給できます (コンプレッサから空気とともに供給)。この構成により、使用コストが大幅に低下するだけでなく、FAAS で必要なアセチレンや亜酸化窒素などの危険性を持つ特殊ガスが不要になり、安全性が高まります。
さらに、Agilent 4200 MP-AES の窒素ベースのプラズマソースは、FAAS のフレームソースよりも高温で動作するため、FAAS で見られる化学的干渉 (特に Ca などの元素に対する干渉) がありません。各元素に固有の時間がかかるサンプル前処理が不要であり、FAAS では同一サンプルに含まれる Ca、Na、K、Mg 分析で必要となるバーナーヘッドの交換も不要です。
Agilent 4200 MP-AES では、コストと時間のかかるイオン化抑制剤などの試薬を使用する必要がありません。MP-AES、FAAS よりも優れた検出下限と直線ダイナミックレンジを実現します。可燃性ガスを使う必要がない MP-AES なら、SPS-3オートサンプラーによる自動運転も可能です。これにより、サンプルスループットが向上すると同時に、分析技術者がほかの業務に集中することが可能になります。
MP-AES の真価を示すフルーツジュース分析
Agilent 4200 MP-AES と Agilent 4107 窒素ジェネレータを用いて、フルーツジュースサンプルを分析しました。サンプル導入システムは、ダブルパススプレーチャンバと Agilent OneNeb ネブライザで構成しました。
機器のコントロールには、パワフルで使いやすい Agilent MP Expert ソフトウェアを使用しました。4200 MP-AES は連続的な波長カバー能力を備え、MP Expert は包括的な波長データベースを搭載しています。そのため、分析に必要な濃度範囲に適した波長を選択することが可能です。今回の分析では、感度の高い Mg 285.213 nm ラインよりも、感度の低い Mg 518.360 nm ラインの方実試料の分析に適していました。
アジレントアプリケーションノート (5991-3613JAJP) では、この分析の詳細な条件を紹介しています。
下記の 2 つの品質管理 (QC) テスト用試料を分析し、メソッドのバリデーションをおこないました。
また、長期安定性試験では、市販のアップルジュースを分析しました。
5 % HNO3 を用いて、すべてのフルーツジュースサンプルを 20 倍に希釈しました。イオン化抑制剤などの試薬は使用しません。10,000 mg/L 複数元素を含む混合標準試料 (Inorganic Ventures) から、標準溶液を調製しました。すべての較正用ブランクと標準試料は、5 % HNO3 を用いて調製しました。
優れた動作範囲、回収率、長期安定性を示す結果
標準溶液の動作濃度範囲を表 1 に示します。MP-AES の測定範囲は FAAS を大きく上回るため (一部のケースでは最大 20 倍)、サンプルを 1 回希釈するだけで、元素すべてを測定することができました。
元素 |
波長 (nm) |
4200 MP-AES濃度範囲 |
相関係数 |
---|---|---|---|
カルシウム |
422.673 |
0–20 |
0.99990 |
マグネシウム |
518.360 |
0–100 |
0.99988 |
ナトリウム |
589.592 |
0–20 |
0.99996 |
カリウム |
769.897 |
0–100 |
0.99968 |
表 1.4200 MP-AES 標準溶液の動作濃度範囲
表 2 には、2 種類のフルーツジュースに含まれる 4 種類の元素の濃度と回収率を示しています。このメソッドを用いて分析したフルーツジュース中 Ca、Mg、Na、K の回収率は、表示値に対して +/- 10 % の範囲内でした。この研究で測定したすべての結果は、2 つの品質管理テスト用試料でも認証値の範囲内でした。
アップルジュース |
認定値 (mg/L) |
測定値 (mg/L) |
回収率 (%) | |
---|---|---|---|---|
|
表示値 |
範囲 |
|
|
マグネシウム |
49.0 |
40.3–57.8 |
49.9 ± 0.6 |
102 |
ナトリウム |
21.2 |
16.9–25.4 |
22.2 ± 0.5 |
105 |
カリウム |
1044 |
926–1161 |
1039 ± 29.7 |
100 |
グレープフルーツジュース |
認定値 (mg/L) |
測定値 (mg/L) |
回収率 (%) | |
---|---|---|---|---|
|
表示値 |
範囲 |
|
|
カルシウム |
145.6 |
123.6–167.6 |
158.3 ± 3.2 |
109 |
マグネシウム |
92.5 |
77.5–107.4 |
91.1 ± 0.6 |
99 |
カリウム |
1102 |
979–1225 |
1100 ± 14.7 |
100 |
表 2.Agilent 4200 MP-AES と窒素ジェネレータを用いて分析したフルーツジュース中元素 4 種類の優れた回収率
図 1. 安定した結果: 6 時間にわたる分析におけるアップルジュースサンプル中カリウムの標準化濃度(図を拡大)
長期安定性を評価するために、市販のアップルジュールを 5 % HNO3 で 20 倍に希釈し、6 時間にわたって繰り返し連続分析しました。図 1 に、分析により得られた安定性プロットを示しています。すべての元素で、6 時間での変動は相対標準偏差 (RSD) は 4 % 未満でした。Agilent OneNeb ネブライザにより、糖含量の多い複雑なマトリクスを伴うサンプルでも、優れた安定性が得られました。
優れた結果が得られるシンプルな高速メソッド
今回の実験では、MP-AES を用いたシンプルな高速メソッドにより、フルーツジュース中の Ca、Mg、Na、K を分析しました。2 つの QC テスト用試料の分析で得られた回収率は、表示値の値の +/- 10 % の範囲内であり、認証値の濃度範囲内に収まりました。Agilent 4200 MP-AES に付属する標準的なサンプル導入システムを用いた分析では、6 時間にわたって優れた長期安定性が得られました。
ラボの分析機能を向上させるのに、4200 MP-AES は理想的な機器といえます。MP-AES を採用することにより、使用コストの低下、使いやすい多くの機能や簡単なサンプル前処理による生産性の向上、安全性の向上、検出下限の向上、直線ダイナミックレンジの向上など多くの利点を得られます。
本記事で紹介した分析の詳細や、FAAS から Agilent 4200 MP-AES へ移行した場合のコスト削減額の比較については、アジレント文献 5991-3613JAJP をご覧ください。