Access Agilent 2014年2月号

元素分析を新たな次元へ:ICP-MS のアプリケーションの幅をより広げ、より高い濃度とマトリクスレベルに対応する新しい Agilent 7900

Ed McCurdy
アジレント ICP-MS 製品マーケティング

Tomoyuki Yamada
アジレント ICP-MS 製品マネージャ

四重極誘導結合プラズマ質量分析計 (ICP-MS) は、さまざまな業界や研究アプリケーションの低濃度元素分析に適したテクニックです。ICP-MS は、優れた検出下限、広い元素をカバー、高速多元素分析機能を兼ね備えています。近年、コリジョン/リアクションセル技術が進歩したことで、干渉制御機能も向上しています。これにより、複雑で可変的なマトリクスでも、多くの元素を確実に測定できるようになりました。

しかし従来、ICP-MS が適しているのは、微量レベルの分析のみと考えられてきました。また、総溶解固形分 (TDS) を多く含むサンプルには対応できないとされてきました。そうした制約には、以下のようなもっともな理由があります。

  • 多くの業界では、微量の分析対象物をきわめて低い濃度で定量する必要があります。食品や環境、臨床などのアプリケーションや、高純度化学および半導体といった分野では、一般に 1 桁レベル ng/L (ppt) またはそれ以下の濃度で定量することが求められます。そうした低濃度で元素を測定するためには、きわめて感度の高い ICP-MS が必要となりますが、その結果、主成分元素のシグナルが検出器の測定範囲を超える可能性があります。ICP-MS のダイナミックレンジはおよそ 9 桁で、各種の分析テクニックのなかでも広いものですが、検出下限が 0.1 ng/L の元素の場合、測定濃度の上限 (9 桁上) は、わずか 100 mg/L (ppm) ということになります。こうした制約があるため、ほとんどの種類のサンプルでは、主成分元素測定に ICP-MS を使用できません。そのため、多くのケースでは、ICP-MS による微量分析のほかに、別の分析装置 (通常は ICP-OES やフレーム AAS) を用いた主要元素測定をおこない、各サンプルを 2 回にわたって測定する必要が生じます。
New Agilent 7900 ICP-MS.

図 1. New Agilent 7900 ICP-MS.
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New Agilent 7900 ICP-MS.

図 1.New Agilent 7900 ICP-MS.

  • 直接、一般的なICP-MSで分析する、イオンを ICP からサンプリングし、インターフェースを通過させ、質量分析計のある真空領域へ送る必要があります。インターフェースでは、真空を維持するために、穴径の小さいオリフィスが用いられています。そうしたオリフィスは、高濃度サンプルマトリクスによるつまりの影響を受けやすくなります。この制約により、ICP-MS で測定するサンプルの一般的なマトリクスの TDS 上限は、0.2 % (2000 ppm) となります。尿や塩濃度の高い水といった多くの天然水性サンプルや固体分解物は、この TDS 上限を大きく上回ります。そのため、一般にはサンプルを希釈してから ICP-MS 分析をおこないます。しかし、サンプルを希釈すると、ワークフローが増えるだけでなく、微量元素の検出下限の低下、サンプル汚染の可能性、希釈のための試薬コストや所要時間の増加、廃棄コストの増加など、分析に手間がかかります。

ICP-MS の従来の制約を克服する新技術

新しい Agilent 7900 四重極 ICP-MS (図 2) は、そうした ICP-MS の制約を克服するために開発されました。より高濃度のマトリクスや分析対象物にまで広げる新技術が導入されただけでなく、使いやすさと生産性も向上しています。

25% NaCl マトリクス中の 100 ug/L スパイクの回収率、4 時間にわたって安定

図 2.25% NaCl マトリクス中の 100 ug/L スパイクの回収率、4 時間にわたって安定(図を拡大)

25% NaCl マトリクス中の 100 ug/L スパイクの回収率、4 時間にわたって安定

図 2.25% NaCl マトリクス中の 100 ug/L スパイクの回収率、4 時間にわたって安定

比類のないマトリクス耐性を実現する UHMI 技術

アジレントが特許を保有する独自の高マトリクス導入 (HMI) 技術は、 7500 および 7700 シリーズ ICP-MS や Agilent 8800 ICP-QQQ 機器で定評のある技術で、TDS レベルが最高 2 % のマトリクスまで分析することができます。これは、従来の ICP-MS システムの 10 倍にあたります。Agilent 7900 のために開発された新しい超高マトリクス導入 (UHMI) システムは、エアロゾル希釈範囲をさらに 10 倍に広げ、最高 25 % の TDS レベルにまで対応できます。これは、一部の ICP-OES システムの性能をも越えるレベルです。このレベルのマトリクス耐性は、ICP-MS では前例のないものです。これにより、あらかじめ希釈をおこなわない飽和食塩水 (25 % NaCl) などのサンプルのルーチン分析が可能になります (図 2 参照)。UHMI には、エアロゾル希釈係数が高い場合にも、高いキャリアガス流量を維持できるというさらなる利点もあります。そのため、サンプル分析間に、エアロゾルをより迅速にスプレーチャンバから除去することができます。

ルーチン分析を簡単にする広い濃度範囲

ICP-MS の測定上限は、イオン透過率を調節するか、検出器ゲインを下げれば簡単に引き上げることができます。しかし、そうした方法では、測定範囲が高濃度方向へ動くだけで、範囲が広がるわけではありません。そのため、低濃度の分析対象物の検出性能が低くなってしまいます。新しい Agilent 7900 ICP-MS は、新しいインターフェース真空設計、イオンレンズ、検出器システムにより、ランダムなバックグラウンドを低減し、イオン透過率を高め、アナログモードの測定範囲を広げます。これらの新技術により、シグナル/ノイズ比 (S/N) が 10 倍になり、検出下限が向上するとともに、測定上限も 10 倍に引き上げられます。そのため、濃度 1000 ppm 以上の主成分元素と微量元素を、同じ分析で定量することができるようになりました。

未希釈 CASS-4 海水参照物質のスペクトルの重ね表示。添加なしサンプルと 1 ug/L および 10 ug/L (ppb) 添加サンプルを、Agilent 7900 の He モードで測定しました。挿入図は、約 1 % (9,500 mg/L (ppm))で測定した主成分 Na ピークを示しています。

図 3. 未希釈 CASS-4 海水参照物質のスペクトルの重ね表示。添加なしサンプルと 1 ug/L および 10 ug/L (ppb) 添加サンプルを、Agilent 7900 の He モードで測定しました。挿入図は、約 1 % (9,500 mg/L (ppm))で測定した主成分 Na ピークを示しています。(図を拡大)

未希釈 CASS-4 海水参照物質のスペクトルの重ね表示。添加なしサンプルと 1 ug/L および 10 ug/L (ppb) 添加サンプルを、Agilent 7900 の He モードで測定しました。挿入図は、約 1 % (9,500 mg/L (ppm))で測定した主成分 Na ピークを示しています。

図 3.未希釈 CASS-4 海水参照物質のスペクトルの重ね表示。添加なしサンプルと 1 ug/L および 10 ug/L (ppb) 添加サンプルを、Agilent 7900 の He モードで測定しました。
挿入図は、約 1 % (9,500 mg/L (ppm))で測定した主成分 Na ピークを示しています。

この測定範囲の拡大を、図 3 の挿入図のスペクトルで示しています。この図では、希釈していない海水サンプル中の Na ピークが測定されています。沿岸海水の塩分濃度は約 3 % (30 g/L 塩) で、そのうちの 3 分の 1 (1 %) が Na です。そうした海水中の Na を測定できることから、Agilent 7900 ICP-MS を使えば、ほとんどの ICP-MS システムの TDS 上限を大きく上回る主成分元素を定量できるといえます。未希釈海水の測定には UHMI が必要ですが、この測定に用いたエアロゾル希釈係数でも、感度の低下はわずか 10 分の 1 程度なので、同じ分析で ng/L レベルの微量元素も定量することができます (メイン図のスペクトル)。Agilent 7900 の広いダイナミックレンジなら、主成分元素のための別の測定が不要になるため、さまざまな種類のサンプルのルーチン分析を簡単にすることが可能です。

新しいISIS により、生産性と使いやすさが向上

7900 ICP-MS では、アジレントの第 3 世代のインテグレートサンプル導入システム (ISIS 3) の設計が一新して、7 ポートスイッチングバルブが、ネブライザの隣に配置されました。これにより、サンプルチューブの長さが短くなるため、安定化のディレイタイムが短くなるとともに、サンプルが通過する取り込みチューブの表面積が小さくなります。また、Agilent 7900 は、第 4 世代のコリジョン/リアクションセルである ORS4 を搭載しています。この新しいセルでは、新しいガスコントローラ設計が採用されています。これにより、セルガス切り替え時の安定化時間が 3 秒未満にまで減少しています。これらの新技術により、生産性が向上しています。忙しいコマーシャルラボでは、生産性の高さはきわめて重要です。EPA メソッド 6020 に準拠したマルチモード分析 (2 セルモード、すべての元素を最適な条件下で測定) が 60 秒未満 (サンプル間の時間) で完了します。

ICP-MS MassHunter 4.1: もっともシンプルでパワフル、かつもっとも柔軟性の高い ICP-MS ソフトウェア

ICP-MS MassHunter 4.1 tool bar.

図 4.ICP-MS MassHunter 4.1 tool bar.
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ICP-MS MassHunter 4.1 tool bar.

図 4.ICP-MS MassHunter 4.1 tool bar.

この画期的な新しいハードウェア性能を補完するために、アジレントは ICP-MS MassHunter ソフトウェアを全面的に改良しました。改良にあたっては、幅広い業界のお客様のワークフローを丹念に調べ、お客様やアプリケーションスペシャリストの提案や要望を採り入れました。そうして生まれたのが、 ICP-MS MassHunter 4.1 です。このソフトウェアでは、きわめて直観的でシンプルなユーザーインターフェースに加えて、ハードウェアの設定、機器の最適化、サンプル採取、データ解析といったプロセスをナビゲートすることができます。 (図 4)。簡単な分析の開始、自動最適化、操作ガイドにより、経験の浅いユーザーも簡単に使うことができると同時に、経験豊富な研究者に比類のないパワーと柔軟性を提供します。

Agilent ICP-MS ジャーナル

微量金属の分析に興味がおありですか? ICP-MS 分野の最先端技術に関する最新情報をお知りになりたいですか? そうであれば、ICP-MS 分野を専門に扱うアジレントの ICP-MS ジャーナルを是非ご覧ください。ICP-MS ジャーナルは、年に 4 回、PDF 形式で発行しています。ICP-MS ジャーナルアーカイブでは、最新号のほか、過去の号をすべて読むことができます。