Access Agilent 2013年10月号

キャピラリ電気泳動/エレクトロスプレーイオン化質量分析による モノクローナル抗体由来 N-グリカンの分析

Suresh Babu CV
アジレントアプリケーションサイエンティスト

グリコシル化は、グリカン部分がタンパク質に付加するきわめて重要な翻訳後修飾です。モノクローナル抗体 (mAb) におけるグリコシル化変動は、生物学的活性や免疫原性に影響を与えることがあります。mAb は医薬品として重要であり、mAb に付加される糖鎖構造のモニタリングの需要が高まっています。

これまで、mAb N-グリカンのプロファイリングにはさまざまな分析テクニックが広く用いられてきましたが、低濃度のグリカン種の検出という点で、大きな困難に直面していました。最近では、短い分析時間で高効率の分離を実現できるキャピラリ電気泳動 (CE) が、糖タンパク質の分析において注目されるようになっています。また、精密質量測定により高感度と優れた化合物同定機能が得られる質量分析 (MS) と CE の組み合わせについても、関心が高まっています。

以下で紹介するアプリケーションノートでは、CE/MS プラットフォームを用いて、組み換えモノクローナル抗体 (mAb) グリカンの N-結合型グリカンを分析しています。このメソッドでは、PNGase F による mAb からのグリカンの酵素切断後、蛍光 8-アミノピレン-1,3, 6-トリスルホン酸三ナトリウム塩 (APTS) によりグリカンを標識化しました。APTS-標識グリカンを精製し、CE/MS により分析しました。

実験プロトコルの構築

実験には、Agilent 6520 Accurate-Mass 四重極飛行時間型 (Q-TOF) システムと組み合わせた Agilent 7100 キャピラリ電気泳動システムを使用しました。モジュールは以下のとおりです。

 

Agilent CE システム (図 1) を、デュアルエレクトロスプレーイオン源とオーソゴナルコアキシャルシース液インターフェースを備えた Agilent 6520 Q-TOF LC/MS システムと組み合わせて使用しました。シース液は、1:100 流量スプリッタを用いて、アイソクラティックポンプにより送液しました。シース液のおもな機能は、CE アウトレットをスプレイヤーの接地電位と電気的に接続し、分離キャピラリの全長にわたって一定の電圧がかかるようにして、定流量におけるエレクトロスプレーの安定性を確保することです。

Agilent キャピラリ電気泳動および CE/MS システム

図 1.Agilent キャピラリ電気泳動および CE/MS システム(図を拡大)

Agilent キャピラリ電気泳動および CE/MS システム

図 1.Agilent キャピラリ電気泳動および CE/MS システム

mAb から遊離した APTS 標識 N-グリカンのCE/MS 分析

図 2.mAb から遊離した APTS 標識 N-グリカンのCE/MS 分析(図を拡大)

mAb から遊離した APTS 標識 N-グリカンのCE/MS 分析

図 2.mAb から遊離した APTS 標識 N-グリカンのCE/MS 分析

 CE/MS により同定された mAb N-グリカン

表 1. CE/MS により同定された
mAb N-グリカン(図を拡大)

 CE/MS により同定された mAb N-グリカン

表 1. CE/MS により同定された mAb N-グリカン

mAb における N-結合型グリカンの検出

図 2 は、組み換え mAb から分離したN-結合型グリカンの CE/MS トータル化合物プロフィールを示しています。PVA-コーティングキャピラリを用い、すべての mAb グリカンが 20 分未満の分離時間で移動しました。非荷電 N-結合型グリカン種の G0、G0F、G1、G1F、G2、G2F が、複数回の分析で良好に同定されました。また、モノシアル化グリカン部分の G2F+1NANA も観察されました。すべてのピーク割り当ては、Q-TOF 分析による精密質量測定にもとづいています。表 1 に、この実験で同定されたグリカンをまとめています。

APTS 標識 mAb N-グリカンの CE/MS 質量スペクトル

図 3.APTS 標識 mAb N-グリカンの
CE/MS 質量スペクトル(図を拡大)

APTS 標識 mAb N-グリカンの CE/MS 質量スペクトル

図 3.APTS 標識 mAb N-グリカンの CE/MS 質量スペクトル

質量スペクトルと N-結合型グリカンの相対定量結果の文書化

グリカンの絶対/相対量の推定は、医薬品開発のパイプラインにおいてはきわめて重要です。医薬品は、分解やごくわずかな修飾の影響を受けます。

この実験において分離された各グリカンの質量スペクトルを図 3 に示しています。質量スペクトル中でもっとも多い荷電状態が示されています。化合物ピークの総量に対する相対量を推定しました。mAb-遊離グリカンの相対量を表 1 に示しています。この例の場合、もっとも多い糖型は G2+1NANA であることがわかりました。

この分析結果は、Agilent CE/MS システムがグリカンプロフィールのモニタリングおける効率的な分析手法となることを明らかに示しています。CE/MS の組み合わせによる分離では、サンプル処理手順が最小限ですむため、汚染を避けることができます。また、CE 分離に用いるバッファは、エレクトロスプレーイオン化への適合性に優れています。このアプローチでは、グリカンプロファイリングにおいて、従来の CE-LIF に匹敵する感度と精度が得られます。