Access Agilent 2013年9月号

Agilent 5977A GC/MSD を用いた ウィスキーの香気成分のケモメトリクスプロファイリング

Sadao Nakamura
GC/MS シニアアプリケーションケミスト

概要

ガスクロマトグラフィ/質量分析(GC/MS) は、研究開発、品質管理、品質保証といった食品分析アプリケーションに広く使用されています。GC/MS 性能の進歩により、天然物に一般的に含まれる多くの微量化合物を確実に検出できるようになっています。香料の品質管理においては、いまでも人の感覚による試験(嗅覚や味覚) が欠かせませんが、GC/MS を使えば、主要化合物や微量化合物の濃度プロフィールの変化や違いについて、人間の感覚の限界を超えて、より多くの貴重なデータを集めることができます。
GC/MSで測定した天然物のデータは多くの微量成分の情報が含まれており、従来から行われているクロマトグラムの比較などの手法では、解析に大幅な時間がかかっており、解析時間を短縮する手法として、統計的手法を応用したケモメトリクスが試みられてきました。

このケモメトリクスは、記述的なアプリケーションと予測的なアプリケーションの両方に対応できます。
記述的なアプリケーションでは、化学システムの特性をモデル化し、システムの基本的な関連性や構造を解明します。
予測的なアプリケーションでは、化学システムの特性をモデル化して、調査対象となる新たな特性や挙動を予測します。

記述的アプリケーションでは、各種ブランドのウィスキーなどの識別にGC/MS が用いられており、予測的アプリケーションでは、オリーブ油におけるエクストラバージン感知試験の合否判定の予測[1]、ワイン品種の識別[2]、製造過程における焼酎の汚染の有無の確認[3] などにGC/MS テクニックが用いられています。

この記事では、5977A GC/MSD により得られたデータに対して、ノンターゲット化合物分析と、一元配置分散分析(ANOVA)、主成分分析(PCA)などの統計ツールを用いて、各ブランドのウィスキーの違いを識別する手法を紹介します。

サンプル

5 種類のウィスキーを米国の酒屋で購入しました。1 に各ウィスキーの説明をまとめています。

表1. 研究に使用したウィスキーサンプル

サンプル

説明

主観的な香り

人気ブランド(PB)

市場でもっとも人気のあるウィスキー

やわらかで、ややオフドライ

他社製品(A)

プレミアムウィスキーの記述

PBと類似

他社製品(B)

人気のある安価なウィスキー

軽いキャラメルとバニラの甘い香り、PBより強い香り

他社製品(C)

PBよりも高品質と主張

甘い香り、PBよりもやや強い

他社製品(D)

深い香りのウィスキーと主張

ハチミツ、バター、かすかなダークフルーツ(プラム、レーズン)、PBより強い香り

装置

PAL オートサンプラの自動固相マイクロ抽出(SPME) 機能を搭載したAgilent 7890B GC を、エクストラクタEI イオン源を搭載したシングル四重極Agilent 5977A GC/MSD と組み合わせておこないました。

サンプル前処理

ヘッドスペースSPME を用いて、各サンプルに含まれる揮発性の香気成分を採取しました。
ウィスキーサンプル各5 mL を10 mLヘッドスペースバイアルに移しました。50 μm × 2 cm DVB/CAR/PDMS を、攪拌して60 °C で10 分間、サンプルのヘッドスペースに曝露しました。SPME ファイバーに吸着した揮発性化合物を、240 °C で1 分間、注入口へ熱脱着しました。

データ処理と統計解析

GC/MS データからのエンティティ抽出には、AgilentMSD Productivity ChemStation (F.01.00) とAMDIS を使用しました。AMDIS の.ELUファイルをMass Profiler Professional (MPP) にインポートし、差分解析をおこないました。データフィルタリングおよび統計解析には、MPP 12.1 を使用しました。化合物同定には、NIST 11 MSライブラリとAgilent MassHunter ID Browser を使用しました。

結果と考察
微量化合物の検出、Etune とAtune

5977A GC/MSD は、独自のエクストラクタEI イオン源とEtuneチューニングプロトコルを搭載しています。これにより、MSDの感度が向上し、より優れた検出下限が得られるとともに、微量化合物の同定性能が向上しています。旧バージョンのAgilentMSD に搭載されていたAtune アルゴリズムも、エクストラクタEI イオン源で引き続き使用できます。この2 つのチューニングプロトコルを用いてウィスキーサンプルの微量香気成分を検出し、このアプリケーションにおける両プロトコルの相対的な効率を比較しました。

Etune およびAtune を用いたサンプル分析により、4 回の繰り返し注入から、合計142 エンティティのリストを作成しました。1のボルケーノプロットの赤い点で示しているように、相対強度を比較したところ、2 つのチューニングプロトコル間の倍率変化≥ 2 において、142 のエンティティのうち48 エンティティが、p-値 < 5 % におけるt-検定の要件を満たしました。48 エンティティすべてで、Atune よりもEtune で強度が高くなりました。

ウィスキーの香気成分のプロファイリング

5 種類のウィスキーサンプルの香気構成成分網羅的に分析するために、5 種類すべてのウィスキーサンプルについて、3 回繰り返してGC/MS 分析をおこないました。その後、75 % の変動係数(CV)フィルタを用いて、検出されたエンティティをフィルタリングしたところ、5 種類のウィスキーサンプルに共通する74 エンティティが得られました。これらを2 つのグループに分けました(図3)。1 つは相対ピーク強度が< 1,000,000 (低いピーク強度) のグループ、もう1 つはピーク強度が≥ 1,000,000 (高いピーク強度) のグループです。この記事では高いピーク強度のグループで主成分分析(PCA:Principal Components Analysis)を行った例を紹介します。
 

Atune およびEtune で検出されたサンプルD の化合物における倍率変化を比較したボルケーノプロット。

図 1.Atune およびEtune で検出されたサンプルD の化合物における倍率変化を比較したボルケーノプロット。(図を拡大)

Atune およびEtune で検出されたサンプルD の化合物における倍率変化を比較したボルケーノプロット。

図 1.Atune およびEtune で検出されたサンプルD の化合物における
倍率変化を比較したボルケーノプロット。

Etune (上の図) を用いたサンプルD の4 回繰り返し分析では、同じAMDIS 積分閾値を用いたAtune では検出されなかった4つの化合物が検出されました。下の抽出イオンクロマトグラム(EIC) は、Etune およびAtune を用いた4 回繰り返し分析における88u のEIC(ペンタデカン酸、エチルエステル) を示しています。

図 2.Etune (上の図) を用いたサンプルD の4 回繰り返し分析では、同じAMDIS 積分閾値を用いたAtune では検出されなかった4つの化合物が検出されました。下の抽出イオンクロマトグラム(EIC) は、Etune およびAtune を用いた4 回繰り返し分析における88u のEIC(ペンタデカン酸、エチルエステル) を示しています。
(図を拡大)

Etune (上の図) を用いたサンプルD の4 回繰り返し分析では、同じAMDIS 積分閾値を用いたAtune では検出されなかった4つの化合物が検出されました。下の抽出イオンクロマトグラム(EIC) は、Etune およびAtune を用いた4 回繰り返し分析における88u のEIC(ペンタデカン酸、エチルエステル) を示しています。

図 2.Etune (上の図) を用いたサンプルD の4 回繰り返し分析では、
同じAMDIS 積分閾値を用いたAtune では検出されなかった4つの化合物が検出されました。
下の抽出イオンクロマトグラム(EIC) は、Etune およびAtune を用いた
4 回繰り返し分析における88u のEIC(ペンタデカン酸、エチルエステル) を示しています。

ウィスキーサンプルのケモメトリクスプロファイリングのワークフロー。

図 3.ウィスキーサンプルのケモメトリクスプロファイリングのワークフロー。
(図を拡大)

ウィスキーサンプルのケモメトリクスプロファイリングのワークフロー。

図 3.ウィスキーサンプルのケモメトリクスプロファイリングのワークフロー。

高濃度グループの15 種類の有意な化合物のPCA 分析により、化合物が4 つの典型的なグループに分類され、A とB を除くすべてのサンプルが識別されています。

図 4. 高濃度グループの15 種類の有意な化合物のPCA 分析により、化合物が4 つの典型的なグループに分類され、A とB を除くすべてのサンプルが識別されています。
(図を拡大)

高濃度グループの15 種類の有意な化合物のPCA 分析により、化合物が4 つの典型的なグループに分類され、A とB を除くすべてのサンプルが識別されています。
 

図 4. 高濃度グループの15 種類の有意な化合物のPCA 分析により、
化合物が4 つの典型的なグループに分類され、
A とB を除くすべてのサンプルが識別されています。

PCA スコアにより、4 つのサンプルグループの違いが示されています(上のスコアプロット)。また、各グループの成分の標準化した相対強度が、グループの特性を表しています(下の表)。PCA ローディングプロットの一部の成分は、同様のプロフィールをもつことから、オーバーラップしています。赤: 非常に高い強度、オレンジ: 高い強度、黄色: 中程度の強度、緑: 低い強度。

図 5.PCA スコアにより、4 つのサンプルグループの違いが示されています(上のスコアプロット)。また、各グループの成分の標準化した相対強度が、グループの特性を表しています(下の表)。PCA ローディングプロットの一部の成分は、同様のプロフィールをもつことから、オーバーラップしています。赤: 非常に高い強度、オレンジ: 高い強度、黄色: 中程度の強度、緑: 低い強度。
(図を拡大)

PCA スコアにより、4 つのサンプルグループの違いが示されています(上のスコアプロット)。また、各グループの成分の標準化した相対強度が、グループの特性を表しています(下の表)。PCA ローディングプロットの一部の成分は、同様のプロフィールをもつことから、オーバーラップしています。赤: 非常に高い強度、オレンジ: 高い強度、黄色: 中程度の強度、緑: 低い強度。
 

図 5. PCA スコアにより、4 つのサンプルグループの違いが示されています(上のスコアプロット)。
また、各グループの成分の標準化した相対強度が、グループの特性を表しています(下の表)。
PCA ローディングプロットの一部の成分は、同様のプロフィールをもつことから、
オーバーラップしています。
赤: 非常に高い強度、オレンジ: 高い強度、黄色: 中程度の強度、緑: 低い強度。

主成分分析

ピーク強度≥ 1,000,000 の20 の化合物を、Mass Profiler Professional(MPP) により同定しました。チューニングの違いを比較するために、ここでもAtune とEtune を使用しました。p値< 5 % の第1主成分 では、PCA スコアプロットでサンプルB が大きくプラスとなり、サンプルA およびPB がマイナススコアになりました(4)。

第1主成分および第2主成分のローディングに従って、各エンティティがPCAローディングプロット(5) に配置されています。PCA ローディングプロットでは、サンプルB に固有のエンティティが第1主成分のプラスエリアに配置されています。PCA スコアプロット(5)とローディングプロット(図5) を比較すれば、各ウィスキーサンプルで違いのある固有のエンティティを特定することができます。

図5 の表は、サンプルB に固有のエンティティの例を示しています。PCA ローディングプロット(5) のX 軸である第1主成分について、サンプルB がハイスコアとなっているのは、これらのエンティティの影響です。また、各グループの化合物の相対ピーク強度も、グループの特徴を表しています(5)。

結論

この手法により、5 種類のウィスキーサンプルのケモメトリクスプロフィールを作成し、サンプルを4 つのグループに分類することができました。また、各サンプルに特徴的な化合物を同定することができました。
この手法は、未知汚染物質の分析[3]、製品保管条件の最適化、サンプルの経時的劣化の測定などに適用することが可能です。

References

  1. S. Baumann and S. Aronova,“Olive Oil Characterization using Agilent GC/Q-TOF MS and Mass Profiler Professional Software”Agilent Technologies Application Note5991-0106EN.

  2.  L. Vaclavik, , O. Lacina, J. Hajslova, J. Zweigenbaum,
    “The use of high performance liquid chromatographyquadrupole
    time-of-flight mass spectrometry coupled to advanced data mining and chemometric tools for discrimination and classification of red wines according to their variety.”, Anal Chim Acta.685, 45-51 (2011).

  3. T. Serino,“Detecting Contamination in Shochu Using the Agilent GC/MSD, Mass Profiler Professional, and Sample Class Prediction Models”Agilent Technologies Application Note 5991-0975EN.